第23話 ゲームするにゃん
「………………すごい」
「そうか」
「ああ、こんな事初めてだ」
「良かったな」
「ああ! しずくちゃんとのデートがこんなにも平和に何事もなく終わるなんて!」
稲葉は感動した様子で俺に謝辞を述べるが、そもそも、何の事件も起こらなかった事にここまで感激するあたり、今までの苦労が垣間見える。
俺がしずくちゃんにアレコレとアドバイスをしてから一週間が経った。
しずくちゃんの家から帰った直後、早速俺は稲葉に電話をかけて事の顛末を報告すると同時に、今後平和なデートがしたいなら、なるべく低予算で金をかけたサプライズ等はしない方がいいと忠告してやった。
結果、稲葉は普通の映画館で普通に映画を見て、近所の喫茶店でお茶した後、街を散策したり、これまた庶民的な店で夕食を食べて解散という、常に周囲に人目があって、特に事件の起こりようのないデートができたそうだ。
ちなみに、しずくちゃんには途中で立ち寄ったゲームセンターや、買い食いしたクレープが好評だったらしい。
「なんであんな簡単な事でものすごく喜んでくれるのに、しずくちゃんはいつもあんな恐ろしいデートを考え付くんだろう……」
「稲葉に喜んでもらいたいからだろ?」
「まあ、そんなんだけど……」
うなだれる稲葉に俺が言ってやれば、稲葉が照れたように目を逸らす。
その事については満更でもないようである。
たまに思うけれど、定期的に結構酷い目に遭わせられているにもかからず、軽く愚痴ってしばらくしたら何事もなかったかのように過ごしている稲葉のメンタルはなかなかすごい。
さすが昔から、無駄に濃い女性陣に囲まれて振り回されてきただけの事はある。
「それで、次は話し合ってどこに行くのか決める訳か」
「ああ、それで今はラインでどこに行きたいかお互いにやりとりして決めてる所なんだ」
そう話す稲葉は楽しそうだった。
そしてそのデートが終わった翌週、俺と中島かすみと一真さんは、すばるの部屋に集まっていた。
「困るんですよねぇ、こういうの」
「一真さん的には、そうだろうにゃあ」
さほど困ってもない顔で一真さんが言えば、中島かすみがニヤリと笑う。
今回、俺達が集まった議題は、最近急に順調になった稲葉としずくちゃんの関係についてだ。
今まではしずくちゃんの方が頑張ってもなかなか稲葉と関係を進展させられなかったために、稲葉の彼女であるすばるを誘惑する一真さんのポジションが重要だった。
しかし、しずくちゃんがこのまま自力ですばるから稲葉を奪い取る事に成功してしまえば、一真さんも用済みとなってしまう。
「鰍は稲葉にしずくちゃんとの恋を応援するって言ったし、それを反故にするつもりはないにゃん。でも、あんまり簡単にくっつかれても面白くないにゃん」
「僕としても別に二人がくっ付くのは構わないんですが、せっかくならもう少し稼ぎたい所です」
このまま放っておけばそのうち付き合いだしそうなものなのに、それでは面白くないらしい中島かすみが何か言い出した。
一真さんもクスリと笑う。
なんでこの二人はこんなに楽しそうなのか。
「そこで鰍から一真さんに提案にゃん! 鰍とゲームをしないかにゃ?」
「ゲーム、ですか」
「そうだにゃん。鰍は全力で稲葉としずくちゃんをくっつけようとするから、一真さんはそれを妨害するにゃん」
突然何を言いだすんだと、思わず俺は中島かすみの顔を見る。
「なるほど、話を聞かせてもらえますか?」
対して一真さんも興味を引かれたのか話の続きを促す。
そうして中島かすみが提案したルールを要約するとこうだ。
まず、今日のように毎週定期的に集まって、お互いの報告をしあう。
一ヶ月ごとにジャッジする日を決めて、その時点で二人が付き合っていれば鰍の勝ち、そうじゃなければ一真さんの勝ち。
一真さんが勝ちの場合、一回だけ鰍が一真さんがしずくちゃんに上げる報告に協力する。
鰍が勝ちの場合は、一真さんが俺と中島かすみに食事を奢るというものだ。
「いいですね、やりましょう」
「それじゃあこれで決定にゃん!」
説明をするなり、一真さんはあっさりとゲームに乗ってきた。
今までの事を考えると、このゲームはしばらくは一真さんの勝ちが続きそうだし、一真さんとしても中島かすみと親睦を深めつつ仕事してるアピールができるので都合がいいのだろう。
中島かすみは、ゲームの勝敗自体には大して興味はなく、さっき自分で言っていた通り、稲葉としずくちゃんをくっつけるにしても、それだけではつまらないので妨害役が欲しかったのだと思う。
だが、それで中島かすみと一真さんの仲の方が急接近しても俺が困る。
「あの、一つそのゲームのルールに追加して欲しい事があるんですけど」
「どんなルールだにゃん?」
話が一段落したところで、俺は小さく手をあげて二人に意見する。
「その毎週の報告やジャッジは、この部屋で、私が立ち会いの元やってください」
「もちろんそのつもりだにゃん」
「すばるさんを仲間はずれにはしないので安心してください」
二人とも最初からそのつもりだったらしく、俺の意見はあっさり受け入れられた。
これでひと安心だと思っていると、ああそういえば、と思い出したように一真さんが口を開いた。
「今決めたゲームとは関係ないんですが、妨害の手ならもう打っちゃいました」
「どんな手だにゃん?」
一真さんがそう言った途端、中島かすみが目を輝かせる。
「今、しずく嬢は須田さんとデートしてます」
「…………は?」
にっこりと一真さんが笑顔で言った。
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