dizzy

ナガコーン

第1話


 佐藤伊織とバイト先が同じであることを知ったのは、働き始めて3ヶ月も経った頃だった。同じといっても、テナント店が密集する駅ビル内のことだから、当然と言えばそうだが、それより佐藤伊織自身を見つけることが難しいからだと思う。佐藤伊織の特異な趣味は、彼を彼と認識することが難しい反面、絶対に彼だと断定できる要素でもあった。


 佐藤伊織は同じクラスだが、大抵派手な雰囲気の女子に囲まれていた、彼と私の接点は皆無で、当然のようにほとんど話したことはない。彼の人気はクラス内にとどまらず、学年さえも超えていた。確かに佐藤は容姿に恵まれている。とはいうものの浮ついた噂での人気ではなく、彼の華麗にして突飛な、常識を超える、要するに女装の趣味のせいだった。

 彼の女装は完璧だ。知らなければなんときれいな女性であるかと疑いもしないだろう。しかし社員食堂で「きれいな男の子が女装して服を売っている」という噂話を耳にしてから、すれ違う彼の人が佐藤伊織だと知った。女子の多くが彼から、新作のマスカラやマニュキュア、流行のスカートまで目を輝かせながら情報収集したがる理由が分かった。彼を雇ったお店も冒険だったろうが、先見の明だ。売り上げは右肩上がりらしい。


 9月のある日曜日、私はダンボールの山と格闘していた。

 私は鮮魚売り場担当なのだが、この体格を買われて婦人服のセール品の移動を命じられた。人間見た目で判断しちゃいかんと思うのだが、仕方が無い。それにしても洋服は詰め込まれるとこれほど重いのか。どうにもならないので、何か道具になるものを探していると、後ろからどすんという音がして振り向いた。そこには、黒い長めのニットにミニスカートをはいて、まだ暑かろうがタイツにブーツの佐藤伊織が、巻き髪を肩で揺らしながら軽々とダンボールを移動させていた。うっかり呆然としていると「鈴木さんが、そっちを持ってくれたらうれしいんだけど」と、ダンボールの端を指差した。あわてて私もダンボールを持ち、いとも簡単に全てを台車に積むことが出来た。なんとなく気まずくなった私は、冗談交じりに言った。

「こんなに手足が太いのにさー、全然力なくてさー。見掛け倒しだよねーあはは」

笑ってこの場を和まそうとしたが佐藤伊織は笑わない。

「鈴木さん、女の子なんだから力無くって当然でしょ」

至極真面目な顔をしてそう言った。

 それから、佐藤伊織の顔をまともに見ることが出来なくなって困る。

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dizzy ナガコーン @nagatsukiyuko

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