神話大戦ラグナロク

水森錬

第0話 プロローグ

 かつてこの星全域を巻き込むほどの大戦があった。

 過剰な経済制裁に耐え切れなくなった幾つかの国がそれに反発し宣戦を布告したのが始まりだったのだが、その戦火は瞬く間に近隣諸国を始め資源が豊富にあった発展途上国をも巻き込んだ凄惨なものへと変化した。

 当初は軍事力に特化したドイツ、日本を含む同盟が優位に事を運んでいたのだが戦争が長期化するにつれ圧倒的物量を誇る連合軍に押され始めたのである。

 連合軍が最も危険視していたドイツはその物量に圧倒され降伏、日本もアメリカの新型爆弾によって降伏するものと思われていたのだが…。

 新型爆弾による爆撃当日、その大破壊を防いだのは神話で語り継がれている『神』と呼ばれる存在であった。

 神がその力を発現させた直後から戦線は硬直、それまで有効であった通常爆撃も不可能となった連合軍は決め手に欠き、神を有する日本も沖縄の奪還は成功したもののそれ以上の攻勢をかけようにも神の力を沖縄より外で使うことが叶わなかったのである。その後資源の枯渇を恐れた日本側が降伏、連合軍が新型爆弾を用いたこととその爆弾の種類を材料とし日本が独立したままという条件で人類史に残る世界大戦が終結したのである。

 時は流れ西暦2000年代、世界各地で紛争が絶えることはなく、先の大戦から発達した軍事技術を持つ旧連合国家群が苦戦するその状況を改善に向かわせたのは皮肉にも大戦で敗北したドイツと日本であった。

 2000年初頭に日本で提唱された『ひもろぎ理論』によって大戦中日本を救った神の力を限定的ながらも持ち出せるようになったのである。各戦勝国はその理論に懐疑的だったもののドイツは共同開発を提案し第一世代の精霊機関スピリットエンジンを試作、正式採用を行いヨーロッパ地方で存在感を示したのである。

 旧ソ連領の内乱とも言える紛争を瞬く間に解決したその力は世界に衝撃を与え、ヨーロッパ各国に広がりを見せたが、ユダヤ教を祖とする神話の神は借りることは出来ず、教会を始めとする各宗教本部も認めなかったゆえそれに関わる神話の軍事利用研究自体が禁忌とされた。また特別神話を保持していないアメリカとロシアは高価な精霊機関を用いず従来通りの兵器運用を余儀なくされた。

 日本も先の大戦において一度軍を解体されてはいたが、自治自衛軍として再編し八百万とも言われる神々の力を中心として少数精鋭の軍を保有するに至っていた。しかし自治自衛軍の規模では国土を守ることは出来ても領海を守るのが難しくこれを民間PMCに頼る形で補うこととし、国際貢献においても日本のPMCは活躍を見せその地位を確立していた。

 精霊機関が生まれてから20数年、第二世代と呼ばれる歴史上の英雄の力をも借りれるようになったそれが開発され、更に世界に普及し安価になりつつあったが故新たなる火種が世界にくすぶり始めていた……。

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