当初は、他ではあまり見られない独白形式の進行や視点人物の違いによる認識の差異など、物語の運びに惹かれて読み進めましたが、読了してみると着地の美しさには心に沁みるものがありました。
主人公視点の独白を答えとするならば、第三者視点の独白は答えの鍵。
読者はそれぞれを観測する神視点に立ちながらも、時系列の関係であくまですべてを把握しているわけではありません。
謎に包まれたままの進行が、前半部分の醍醐味です。
対する後半部分は、完全な三人称視点、さらに一人称寄りの三人称視点と、ストーリーの展開も相まって描写に厚みが出てきます。
まさに視点描写の限界を試す挑戦的な作品。
それぞれの形式にそれぞれの長所があるということを実感させられる良い作品です。
さらに、視点描写への挑戦が単なる遊びに留まらないのもまたこの作品の特筆すべきところではないでしょうか。
それぞれの形式の長所がストーリー展開に活かされており、主人公の心情変化に説得力が生まれています。
物語の中核にあるのは前向きになれるひとつのテーマです。
二万字前後の読みやすい文量ですので、宜しければ是非ご一読を。