大自然の摂理~異世界海底奇譚~
そこは海底であった。
そこには生き物がいた。危ない海の生き物がいた。サメである。
サメはお腹をすかしていた。もう三日間は食べていなかった。
サメはお腹をすかしていた。三日間、水しか飲んでいなかった。
サメは隙を窺っていた。
サメの視線を釘付けにした生き物、それはマグロであった。
マグロを狙う鋭い目は、情熱的で常に熱い視線だった。
物凄く熱い視線であった。サメはマグロを食べようしていた。
一方、マグロは気づかなかった。
マグロはいつも泳いでいた。いつも泳いでいたマグロは油断していた。
襲われることはないと、油断していた。油断であった。
マグロを狙う鋭い目は、食物連鎖を語っていた。
にもかかわらず、マグロは油断していた。
迂闊だった。あまりにも迂闊であった。
ガブリッ!
サメはマグロにかみついた。
ガブリッ!
ガブリッ!
ガブリッ!
サメは自身の歯でマグロを捌きました。とても器用なサメでした。
そのあと、持っていた包丁で食べやすいように、骨を一本一本取り除いていきました。
マグロは
しかし、まだマグロは食べられていませんでした。
サメは何故か食べませんでした。
サメは白いご飯を出しました。
サメはおもむろに白いご飯を握り始めました。
ぼろぼろにならないよう、ちゃんとにぎにぎしました。
シャリです。
海底の水で濡れた手を使って、器用に握ります。実に器用です。
余分な水滴は巨大な胸びれを使って乾かします。
これで手にご飯粒が付かなくなる訳です。すごいですね。
握ったシャリにあらかじめ捌いておいた、取れたてのマグロを上に置きました。
そこらへんに生えていた黒い海苔をつけて、くるっと巻きました。
寿司です。寿司と呼ばれるものができてしまいました。おいしそうです。
しかし、サメは食べませんでした。
サメにはまだやることがありました。
サメが取り出したのは大豆を原料とする、お手製のたまり醤油でした。
日本における料理のアイドル
寿司にとても合います。格別です。
江戸時代の板前も、きっとそうおっしゃっています。
サメはグルメなのでしょう。きっと日本食が好きなのでしょう。
ほどよく油がのった赤い身に、ひと肌ほどの温かさがあるシャリ、そして海苔。
しょうゆをつけて、さぁ一口。
もぐもぐっ
もぐもぐもぐっ
もぐもぐっ
ごくりっ
サメはマグロを食べました。マグロを美味しくいただきました。
そして、自然と手を合わせました。感謝の心でした。サメはマグロに感謝しました。
その姿を見て、ほかのサメたちも集まってきました。
「ヒーヤッハー!」
「フーハッハー!」
「ゆべし! ゆべし!」
寿司三昧ッ......! なんというマグロの寿司三昧……!
なんと、贅沢なことでしょう。羨ましい限りです。
しかし、この世界のサメは尋常ではないほど凶暴です。とてつもなくヤバイ。
大自然の摂理もそう証言している。
そんな様子を、一匹のハマチが岩のうしろから見ていました。
主人公です。一匹の魚です。ハマチです。
ハマチは思っていました。
恐ろしい。とても恐ろしい。サメ、恐ろしい。牙、すごく怖い。
でも、戦わないと。サメと戦わないと。平和が来ない。
「やめろ!」
ハマチ、吼える! がおー!
「ゆべーし!!」とサメ、驚愕! びっくり!
逃げる! サメ、逃げる!
「野郎! どこから湧いて出てきやがった!」
だが、リーダーはうろたえない。やはり、リーダー!
サメはガリを食べていたのだろう。ショウガパワーである。強い。
これは本編とは関係のない、すなわち、余談である。
すし屋には、ガリがある。その正体は、生姜の甘酢漬けである。
このガリには、殺菌消毒の効果がある。科学的に証明されている。
これも先人の知恵である。すごい。
閑話休題。
ピンチ! ハマチ、ピンチ! そして、逃げる! ハマチ、逃げる!
無様ッ! これが主人公のあるべき姿なのか。はい、それは主人公なのだ!
サメ、追う。ハマチ、逃げる。マグロ、再び。
マグロの弱点、それは泳ぎ続けなければ死ぬ。
これが生き物の世界。ハマチは堪能した。実感した。
本気で生きねばならぬことを実感した。
ハマチは逃げられた。さらば、マグロ。尊い犠牲。決して無駄にしない。
ハマチは考えた。
次回! 衝撃の修行編!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます