第5話:ラスボス/最強の営業クイーン
「この複合機も、もう古くなってきたからなあ」
左近田が大きな機械の周りをうろうろしながらしみじみとつぶやいた。
ユキハラコーポレーション本社、情報本部第2部のフロア内だ。
「こないだ、瑞慶覧さんが修理してくれたのに、もうこれですもんね」
「そうなんです。瑞慶覧さんも、一度ちゃんと見てもらったほうがいいですよ、って言ってたんですけど」
2部の派遣社員、上狛るり子は言った。彼女が主に部内のこういう事の担当をしている。瑞慶覧さんとは、都市伝説級の腕を持つ技術者、機材部の瑞慶覧紗登魅のことだ。
「見てもらってないの?」
「もらったんですけど、こうなんです」
紙詰まりがひどくなっている、という連絡が、同部の派遣の女性からあり、左近田と悠平が見に来たのだ。
富士見フェリックス工業の大型の複合機だ。コピーやFAX機能はもちろん、ネットワーク経由でPCにスキャンしたデータを画像やPDFで送れる。綴じ込み機能もあったり、結構便利な機械である。
しかし、構造は非常に複雑で、頻繁に紙詰まりを起こす。
「よくこんな複雑な設計できますよね。いかにもマシーンって感じです」
「まあ、確かに」
悠平の言葉に左近田は頷いた。
簡単な紙詰まり程度なら、機械自体に取り外しの順番が書かれているので、手慣れた社員や派遣社員が取り除いたりするのだが、がっちり噛み込んだりすると、素人作業では繊細な機構部分が壊れかねないため、メーカーのサポートセンターに電話し、サービスマンを呼んできてもらうことになる。連絡先がシールで貼ってあるため、普通は複合機が故障したくらいでは、派遣さんが直接連絡し、わざわざ7部3課の面々が呼ばれることはないのだが……。
「今週はもう3回も来てもらったんです」
「それは多いですね」
サービスマンを呼ぶのだってお金がかかる。
「それでうちの部長がそろそろ交換したらどうか、って」
「なるほど。でも複合機って結構高価ですけど、購入するんですか? 予算のこともあるでしょう」
そう左近田が聞くと、
「いえそれが、今まで通りリースにしようということで、本部長の方には伝えているみたいです。他の部の部長さんとも話し合わなければいけませんけど、いまのところそれほど備品購入もリース更新もしてないので、ちょうどいいんじゃないか、って話になってるみたいですよ」
「へえ。お金持ちだなあ」
「まあ、そんなことで、機種選定とか、リース契約更新の手続きをお願いしたいんですけど」
「わかりました。じゃあ継続でいいのかな、メーカーもリースも。競合させます?」
競合とは、複数の会社の製品の中から選定することだ。
「どうでしょう。いいんじゃないかと思いますけど。ただまあ、値段が極端に変わるようだと考えなきゃいけないですから」
「なるほど、じゃあ、メーカーのカタログ取り寄せて比較してみましょうか。それから候補機種の報告上げることにしますよ。報告は2部長でいいんだね」
「はい。お願いします」
二人は7部3課に戻った。
「複合機のリースとかもうちが担当するんですね。1課の総務担当のお仕事かと思ってました」
悠平は聞いた。1課とは7部1課のことだ。情報本部全体の総務的な仕事を担当している。
「本来はね。ただ1課の方はもっと出張とか、国際会議の手続きとかをやるんで、備品購入、リース契約の手続きなんかはうちの担当になってるんだよ。総務的な仕事のうち、技術関係に関わることは特にね。だからメーカーやリース会社との交渉なんかもついでにやるわけ。安い文具なんかは小口決済すればいいから、それぞれの部課の派遣さんがやることも多いけど、備品とかで技術関係となると、部署ごとにやってたら面倒だし、値段が高いものや量が多いものなんかになると、手続きに時間がかかったりするんで、暇なうちがやるんだ。1課で経理担当してる小若さんとかと一緒にね」
「なるほど」
悠平は内心苦笑した。
自分で暇だとか言ってるんじゃ世話はない。
もっとも、左近田はさっそく各メーカーのウェブサイトからカタログのPDFを集め始めた。行動に移すのが早い男だ。暇なだけ、ではなく、そう言うことを楽しむような所があるのだ。
各社のカタログを見て、性能の比較表を作ることになり、悠平が担当することになった。
2部長の呼びかけで複合機選定会議が開かれた。
出席者は、
友則秀三情報本部長、瀬田川廣情報第1部部長、茂倉良輔情報第2部部長、耶馬岳竹夫情報第3部部長、黒崎陽一情報第4部部長、松浦元情報第6部部長、源五郎丸勝敏情報第7部部長、三田井秀之第1部第1課長、高松昌彦第2部第1課長、才野木一郎第7部第3課長、安来ナオ第1部担当協力社員、上狛るり子第2部担当協力社員、尾道澪里第3部担当協力社員、小若あゆみ第7部第1課経理担当協力社員、左近田圭介第7部第3課協力社員、伊是名悠平第7部第3課協力社員。
である。
管理職も上の方と、組織では下っ端中の下っ端である協力社員だけが出席するという奇妙な会議だが、上の方はリースの金がかかることから責任上、下の方は直接関わるからである。
なお、情報第5部の関係者は誰も出席していないが、これは機密情報を扱う部署だけに、機器の購入やリースも別に行うためである。
悠平はそうそうたる面々に緊張したが、左近田は余裕ある態度でいた。
さすが左近田さん、場慣れしているなあ、と最初は感心していた悠平だったが、会議が始まると、そう言うことではないのがわかってきた。
会議が全く深刻ではなかったからだ。
「えーと、では、ただいまから複合機の選定会議を始めます」
司会役は才野木課長だった。
「えー……、本部長、どうぞ」
課長はあっさりと本部長に丸投げしてしまった。
「ほいほい」
妙な返事をして友則本部長は口を開いた。
「え~、第2部の複合機がしょっちゅう故障するので、この際、思い切って交換しようと言うことになりました。まあ、このままだと年度末には予算があまりそうだという深刻な問題もあるからですが」
軽く笑い声が漏れる。財務部長は口うるさいですからな、などと言う声も出た。
「で、みなさんご存じかと思いますが、複合機は高いです。いいのになると何百万もします。詳しくは知りませんが。で、まあ、いくら予算が余っていても、さすがに複合機だけですべて消化するわけにもいきませんので、リースにすることにします」
忘年会の予算は残しておかないといけませんからね、と言う声が上がる。
「さよう。ところが、リースとなるとあまり予算も消化出来ないので、この際、交換を希望する部署すべての複合機を交換することにしようと、意見が出た次第であります」
と予算の話ばかりしたあと、
「あと、才野木くんよろしく」
と丸投げ返した。
「はい。えー、では、前方のスクリーンを御覧下さい」
出席者は前を見た。プロジェクターから映し出された資料が表示されている。悠平が表計算ソフトで作った複合機一覧表だ。
「現在、情報本部各部に於いて使用中の複合機は、富士見フェリックス工業が製造したこの機種となっております」
とレーザーポインターで表を示した。
「リース会社も、同系列の富士見リースとなっており、富士見との契約はまとめて行われております」
「まとめて契約して、いくらか割引になっているのかね」
第3部長が発言した。
「左近田くん」
才野木課長は左近田に振った。
「はい。表向きの価格から7%引きで契約しています」
「7%とはまた微妙な……」
と第3部長が苦笑すると、
「はい、微妙なところです」
左近田は言わなくてもいいことを言った。
「その契約は君らがしたの?」
と第2部長。
「いえ、前任者です。すでに辞めておりますが」
答えたのは才野木課長だ。
「富士見リースで今後とも継続するとなりますと、リース料は次のようになります。これは現在の契約の金額ですが」
ページを切り替える。
「もうちょっとまけることは出来ないかな」
「忘年会費用くらいは捻出しないとね」
「そうそう」
「みなさん、どうせ捻出するなら、社内食堂でやるような額ではなく、隣のスターライトホテル東京の大宴会場で出来るくらいは捻らないといけませんぞ」
「そうだ、さすが第4部長、いいことをおっしゃる」
「そうなると、7%じゃちと足りないなあ」
などと部長らは口々に言った。
さっきから忘年会忘年会と言っているが、忘年会も予算から出しているのだろうか、と悠平は内心首をひねった。
派遣社員らがいささか呆れた顔をしている。
「では、7%を最低ラインとして、さらにまけて貰えるよう、交渉する、と言うあたりでよろしいでしょうか」
「上限は決めないのか」
「まけさせる上限ですか?」
「そう」
「上限はそりゃタダだろう」
「そりゃそうだ」
笑い声が上がる。なるほど、と才野木課長は生真面目にうなずき、
「では、最低を7%、上限はタダを目指して、交渉する、でよろしいですね」
「いいんじゃない」
「賛成」
「異論はない」
などと声が上がった。
こいつら、まじめにやる気あるのか、と悠平は思った。
「他のメーカーやリース会社は検討しないのかね」
とやっとまともな発言が上がった。
「契約を大きく変更するのは面倒だな。財務部や役員にも説明しなければならんし」
そう言ったのは本部長である。
「リストはないのか、他のメーカーの」
「念のため、作ってあります」
才野木課長はマウスを操作すると、別のシートにまとめてあるデータを開いた。
部長らはじーっと、その一覧表を見る。
「性能的にはあまり差はなさそうだな」
「問題は値段だろう。どこが安いのか」
「一見見た感じでは、パラソリッドが安いな」
「パラソリッド製は、七洋電機との共同開発です」
左近田が言った。
「販売の値段は富士見のとあまりかわらんではないか」
「もっと割り引けそうだな。リース会社はどうなる?」
「パラソリッドの製品だと、富士見リースは難しいでしょうから、別のリース会社になりますね。左近田くん」
「はい。パラソリッド社にも門真リースという子会社があります。ただ最近、情報本部では同リースとの取引がないので、一から交渉と言うことになりますが……」
「取引のあるリース会社はどこだ?」
「左近田くん」
何度も指名される。最初から彼に話させた方が早いのではないか。左近田は気にせず、伊是名くん、ホワイトボードに書いてくれるかな、と左近田は立ち上がりながら言った。
「メーカー系では海芝電機傘下の帝都リースと、富士見、それからエコー電子傘下のエコーリースとは若干ですが取引があります。帝都はパソコンを、富士見は複合機を、エコーはリース契約ではないですが、以前、エコーリースの担当者経由でエコーのデジカメを数台備品として購入しています。もっとも前任者の時ですので、今はコネクションが弱いですね。非メーカー系では通販会社イツクルのイツクルリースからデスクなどを、巣鴨商会のスガモリースから応接室のソファなんかをリースしてます。ちなみに非メーカー系でもメーカー品のリースは扱っております」
左近田が資料も見ないですらすらとしゃべった。悠平が急いでホワイトボードに書く。えーと、すがもってどんな字だったっけ。
「メーカー製だから、リース会社もメーカー系列の方が割り引いてくれるんじゃないか?」
「忘年会費用分くらいですか?」
左近田がわざと聞くと、
「忘年会費用分くらいだ」
と第3部長は重々しく言った。
「そうしますと、複合機を作っているメーカーを基準に考えたほうが良いということになりますか」
「メーカーって他にどこがあるの?」
「左近田くん」
「はい。複合機を作っている会社は、富士見、パラソリッド、エコー、カノン、セイミツ、ムラト製作所、外資系のヒューレック・パッカルコーンがあります。富士見、パラ、エコー以外の各社は、リース会社が傘下にあるか調べてみないとわかりませんが」
ふーん、と各部長は、わかったようなわからないような感じで頷いた。きっかけとなった第2部長が口を開いた。
「じゃあ、とりあえず、富士見を第一に、万が一を想定して、他に一社というところかな。アテ馬できそうなところ、調べてみてくれる?」
「了解しました」
「じゃあ、そんなところでいいんじゃないの、とりあえずは」
本部長がいい加減な口調でそう言うと、才野木課長はうなずいて、
「では、リース会社の調査をした上で、再度、報告の場を設けることでよろしいですか」
「いいよ」
本部長が気楽な口調で言ったので、会議はそれで終了した。悠平がホワイトボードに書き終わるのとほぼ同時だった。書くのになんか意味があったのだろうか。
会議の翌日。
「ちょっといいかな」
ドアが開いて7部3課に入ってきたのは、2部の茂倉部長と、派遣社員の上狛るり子だ。よその部長クラスが直接やって来るのは珍しい。
「どうかされましたか?」
左近田が立ち上がって尋ねると、
「実はちょっと困ったことがあってね」
と茂倉2部長はちょうど空いていた車坂の席を反対向きにし、腰掛けて言った。上狛も悠平の向かいの空いた席に座る。
「富士見工業のサービス要員が、いつも来るのが遅いんだよ。なあ上狛くん」
「ええ、そうなんです。毎回連絡してから1時間くらいはかかるんですよね」
「それでうちの部員から苦情が出ている」
「1時間は結構遅いですね」
「業務に支障が出かねんのだ」
「なるほど。それで、場合によっては他のメーカーを、というわけですか?」
左近田は先回りして言った。
「そう。他のメーカーだ」
「他社で行くとなると……」
左近田は考える素振りを見せた。
「富士見とは長年付き合いがあるが、どうも今の営業担当者はサービスが悪くていかん。狎れが出てきているようだな。本部長はあまり変更したりするのを望んでいないが、この際、思い切って変更するのも一つの方法ではないか、と思っているんだ。故障の多発とサービスの悪さは、財務部への説明もしやすいしね。それに富士見に対しても、乗り換えを匂わせるほうが、態度も変わるだろう」
第2部長はそう言った。
昨日のぐだぐだな会議とは打って変わって、まともなことを言っている。
「そうですね。ただ、複合機のリースとなりますと、富士見以外は履歴がないので、一から交渉って事になりますね」
「そこさ。上手く競合できそうなところはないかな。予算のこともあるし、さらに安くできるのなら、どっちに転んでも、ますます財務部へ説明しやすくなる。そうなれば本部長も嫌とは言うまい」
「そうですね……」
左近田はあごに手をやった。
「左近田くんは色々顔が広いだろう。君に頼むよ」
「はあ……。では……、そうですね。一人、心当たりがないわけでもないですが……」
「お、本当か」
「ええ。エコーリースの人で、うちの担当じゃないんですが、前に派遣された会社で顔見知りだった人がいます」
「その人は、交渉しやすいかね」
「ええ。なかなか有能な人ですが、話に乗ってくれるかも知れません。エコー電子なら製品も悪くはないですし」
「そうだな。じゃあ、エコーでいいから、交渉を頼むよ」
「わかりました。連絡してみましょう。その結果次第で、変更と言うことに」
「うん、そうしてくれ。本部長への説得は私からするから」
2部長は上狛を連れて部屋を出ていった。
閉じたドアを見ていた悠平は、
「昨日の会議では、あんな事言ってなかったですよね」
「あんな事?」
「サービスが悪くなっているとか」
「ああ、そうだね。あの会議はお遊びみたいなもんだからな」
「お遊び……」
「部長らが時々息抜きみたいに、ああやって理由を付けて集まるんだよ。あのあと飲みに行ったらしい」
「じゃあ、真面目にやる会議じゃなかったわけですか」
「そうだね、まあ、複合機の選定なら、なにも会議しなくても、本部長に説明して認可を取ればいいだけのことだからね。性能に極端な差があるわけでもないし」
「じゃあ、なんで会議なんかわざわざ……」
「一応、会議で決めた、ってことにしておいた方が、あとあと都合がいいんじゃないかな。財務部への説明とかもあるし」
「はあ……」
それじゃ、会議でちゃんと話し合えばいいのに、とは思ったものの、それは言わなかった。
「それで、左近田さんのお知り合いの方に連絡を取るんですか? エコーの人だとか言ってましたけど……」
「ん。前に、ドレモに行ってた時に、その人がエコーの担当者だったんだよね」
「JTTDoReMoですか?」
「そう」
携帯電話会社最大手だ。ユキハラのライバル会社の一つである。
左近田はスマホを取り出すと操作する。そして顔をしかめた。
「そっか、前に壊してしまった時にデータ消えたんだった」
「壊したんですか、ケータイ」
「うん。トイレに落っことした。あわてて取り出して、そのまま洗面所で洗ったら壊れちゃってね。アプリ動かしてる時だったから、余計にまずかったのかも」
「アプリ?」
「いや、電子機器は動いてなければまだしも、回路に電気が流れてる時に濡れたらアウトだから」
ああ、と悠平は頷いたが、それより、トイレで落として洗ったっていうことは、小便器の方じゃないよな。などと、どうでもいいことを考えた。
「一応名刺持ってるけど、いまつかまるかなあ……」
左近田は名刺入れを取りだした。彼のスマホよりも大きな名刺入れだ。大量の名刺が出てくる。左近田はそれを机の上に拡げた。
「えーと……」
「凄い量ですね……」
「あっちこっち行ったからねえ。……そういえば、君はどれくらいやってるの? 派遣は」
「1年ちょっとです。5社くらい行きましたけど、どれも小さな会社でウェブコーディングとか、携帯の評価テストなんかです」
「テストか、あれはきついよねえ」
「左近田さんもしたことあるんですか?」
「あるよ。ガラケーも、スマホも。スマホは主に国内のだけどね……、あったあった」
彼は名刺を一枚手にすると、スマホを操作する。
あらぬ方向を見ながら耳元に当てる。
「あ、もしもし、阿波野さんの携帯でよろしかったでしょうか。どうも、ご無沙汰してます、ドレモでお世話になった左近田です。覚えてますか」
電話向こうの声がなにか悠平にも聞こえてきた。内容はわからないが、声の大きな人だな、と悠平は思った。
「ほんと、お久しぶりです。いやいや、その節は」
などとしゃべり、
「実はですね、いま、ユキハラコーポレーションの情報本部で働いているんですが……、そうなんですよ、で、今いる部署で複合機の交換を検討しているんですよ。ええ、そうです。それでまあ、正直言いますと、これまでずっと富士見フェリックスの複合機をリースしているので、継続することになっているんですが、念のためよその会社の製品も候補に入れようということになってまして。まあ、一応検討段階では競合させるのがセオリーですから。それで、エコーも入れておこうかな、と。私個人はエコーの担当者とは交流がないのでどうしたもんか、と思ったんですが、阿波野さんを思い出したんで。……いやいや、ドレモでは随分お世話になったんで」
左近田は、いやいや、やめてくださいよ、恥ずかしいな、などと言いつつ笑う。
「すみません、当て馬な感じになっちゃうんですけど、もしよろしければ、カタログとか送って貰えませんか。メールで構いませんので」
すると電話向こうの人物は何かしゃべりはじめた。
「ええ、それでよければ。はい、じゃあすみませんけど……はい」
電話は切れた。
「持ってくるって」
「え? ここに持ってくるんですか??」
「うん、すぐに来るって」
「へえ。でも、今回エコーは、必ずしも本命じゃないわけでしょう。競合させるとは言っても。なんか悪いですね」
「そんなことはないさ。エコーにしてみれば、ここがチャンスなんだよ」
「そうなんですか?」
「エコーとしては、あちこちに営業に回って説得するよりも、企業側から声をかけられる方が入りやすい訳じゃない。特に大手相手だと、説得は大変なのに、大口だろう。ほんとはのどから手が出るほどなわけさ。たとえ今回上手く行かなくても、今回のことをきっかけに次も営業をかけられるわけだよ。だからチャンスなんだよね」
「そっか、なるほど」
「でも、たぶん、彼女の場合は、そのレベルでは考えてないだろうな」
「彼女?」
「今電話した人は女性なんだよ」
それで甲高い声が漏れ聞こえてきたのか。
「メーカーの営業さんって、女性もいるんですか」
「そりゃいるさ。もっとも、彼女の場合はリース会社の営業さんだけどね」
「あ、そうか」
「でも、メーカーの営業さん以上だよ。技術や製品の知識も詳しいし」
「へえ」
女性の営業って、どんな人だろう。
悠平はちょっと期待した。
「どんな方なんですか、その女性の営業の方って」
「彼女は有能だよ。なにしろ、チャンスを見つけて、そこを橋頭堡にして、猛攻をかけてくる人だから」
「いやいや左近田さん、戦場じゃないんだから」
「悠平くん」
「はい」
「戦場だよ」
笑いもせずに言われて、悠平は苦笑した。
「それで、いつ頃お見えになるんでしょう。午後ですか?」
「すぐ来るって言ってたよ。来訪者の手続きしておかないとな」
左近田はユメマフの申請手続きをクリックした。必要事項を入力する。
これをしておけば、30階の受付の端末に表示されるから、入館の手続きが早くなるし、わざわざこっちが行かなくても通してもらえる。
30分後。
電話が鳴った。左近田が電話を取る。
「はい、情報本部第7部第3課です」
ああ、どうぞ、いま開けます。と左近田は言って受話器を置いた。
「エコー来たよ。いまエレベータの所」
と立ち上がる。
「もう来たんですか?! はやっ」
「それが彼女の技なんだよ」
と謎めいたことを言って、入口のドアを開ける。悠平も付いていく。
やや薄暗い廊下の向こうに誰か立っていた。左近田が片手を上げ、
「阿波野さーん、お久しぶりでーす」
「きゃー、左近田く~ん、おひさしぶり~」
と長い足を動かして近づいてきた。両手を伸ばして手のひらをこっちに向けてふっている。モデルのように背の高い女性だ。上着はやや派手めの服装で、下はスカートだが、どちらも身体にフィットしているためか、胸とお尻の形が目立つ見事なボディラインが強調されている。
悠平はその顔を見た。
かなりの美人だが、化粧も派手だ。さらに焦げ茶色のカールのかかったボリュームのある髪をしており、なにもかも豪快に見える。年齢不詳だ。20台後半くらいだろうか。もう少し行っているだろうか。
お水系の人みたいだ。
悠平は思った。阿波野という女性は笑いながら、
「左近田く~ん、びっくりしちゃったわよ~、突然電話かけてくるんだから。もお、デートのお誘いかとドキドキしちゃったじゃない~」
「それはまたの機会に」
左近田も笑った。
「そお? 残念よ~。あら、そちらは?」
「うちのメンバーの伊是名悠平くんです」
「はじめまして、エコーリース第1事業部の阿波野京子です。以後、お見知りおきを」
ドキッとするような笑顔で、名刺を差し出した。
「こ、こちらこそ」
と悠平も慌てて名刺を出す。
「廊下で話もなんなので、中で」
彼女を3課の部屋に入れる。席を勧められて腰掛けると、
「そっかー、左近田くん、ユキハラに来てたのか~。さすが、株式会社有職故実。大手に食い込んでるわね~」
有職故実、というのは、左近田の所属している派遣会社の名前だ。昨今の登録系派遣会社と違い、有能な少数精鋭だけを抱えて派遣すると噂の会社である。
「すみません、エコーのユキハラ担当の人いると思うんですけど、阿波野さんに連絡する方が早いかな、と思って」
「ううん、ご指名うれしいわ。わたしの方は大丈夫よ」
とウィンクをする。
言動が一つ一つわざとらしく、お水っぽい。
「銀座の阿波野さんと言えば、この業界じゃ有名ですからね」
「アラ、ホント? 今度、ぜひお店に遊びに来てね」
阿波野はそう言って笑った。
「あの……、お店ってのは?」
悠平が聞いた。
「エコーリースは銀座8丁目のエコー本社ビルの中にあるんだよ」
「ショールームもございますから、ぜひお気軽にどうぞ」
と阿波野も言った。
「あ、な、なるほど」
一瞬、ほんとに銀座のどこかの有名なお店のホステスさんなのかと思ってしまった。そんな悠平の様子を見て、阿波野はクスッと笑う。
「この阿波野さんは、エコーリース最強の営業マンなんだよ」
「あら、そんなことないですわ」
「失礼、営業ウーマンでしたね」
「それを言うなら、営業クイーンと呼んで」
阿波野は片目をつむってちょっとポーズを付けた。
「以後そうします」
左近田は笑った。
「それで、複合機の件なんですけど」
「持ってきましたわ。一通り」
とカバンから資料を出した。店頭なんかにも置いてあるような、いわゆる普通のカタログだ。
左近田がそれを手に取って眺める。阿波野は、
「情報本部さんでお使いの複合機は、富士見フェリックス社のCPN3200型でしたわね」
左近田が顔を上げた。
「私、機種まで言いましたっけ」
「お聞きしたかも知れませんわね」
そう言って、阿波野はもう一つ資料を取りだした。
「富士見のCPN3200は、やや旧式の機種ですから、もし富士見で交換するとなると、新型のCPN5400αあたりというところでしょう」
「ええ、そうです」
はい、と彼女はコート紙のような綺麗な紙を綴じたものを左近田に渡す。
「これは?」
「我が社がお奨めする機種と、そのオプションの組み合わせのリストです。値段もそれぞれに設定してあります。CPN5400レベルと、そのワンランク上、およびワンランク下でオプション強化版のそれぞれを選定してみました」
カラー印刷された用紙には、画像つきで見やすい機種一覧表が載っていた。
「従来からの機能としては、コピー、スキャナ、FAX、綴じ込み機能、ジョブ管理機能、PC送信、と言ったところですが、プラスして、PDF保存ほか画像フォーマット17種類に対応した保存機能、複合機側でのフォルダ振り分け機能、ネット経由の簡易ユーザー登録、ユーザー別設定機能、綴じ込み機能を強化した製本機能、ジョブ保存の詳細設定、サーバー更新時に於けるジョブ保存機能、4種類の電子カードフォーマット対応、カード直接印刷機能、弊社製品共有フォーマットによる非PC処理、クラウド対応、スマホ用ジョブ機能、NEX社のシルピースシステム連携機能などが付いております」
さらに、と付け加えて、
「御社のワークフローシステム、ユメマフへの共有機能も強化させてもらいました」
「阿波野さん」
「ハイ」
にこやかに返事をする。
「まるで我々の方から連絡が来ることを予想していたかのような対応の細やかさですね」
「十分な対応とは言えませんが、出来るだけのことはさせて頂きました」
爽やかな笑顔で答える。
左近田はじろっと阿波野の目を見る。彼女も笑みを浮かべたまま、左近田の目を見た。
「……」
「……」
悠平がその緊張感のある雰囲気につばを飲み込んだ時、
「さすがは阿波野さん、変わってませんねー」
左近田はニヤッと笑った。
「怖いですわ。あらゆる企業を見てきた左近田さんには、いい加減な対応は出来ませんもの」
すまし顔でそう言うと、阿波野もニコッと笑った。
「いいでしょう。機能としては十分です。あとは値段の折り合いですね。色々付けて貰っても、値段が高いんじゃ話になりません。リース料はもう少しなんとかなりませんか」
「あら、左近田くん、容赦ないわね」と言って「そうね、ここから2割引、プラス、保守サービス年間無料なんてどお?」
「え、いいんですか?」
と言ったのは、横で見ていた悠平だ。
「もちろん構いませんわ。ユキハラ情報本部に我が社の製品をお使い頂けるのなら、これほど嬉しいことはありませんから」
「悪くはないですが、補修要員を連絡30分以内に送ってもらうこと、定期点検を無償で行うこと、ソフトウェアのアップデートを無償で行うこと、この辺りは当然オプションですよね。それと新製品への交換の時に継続割引を行うこと、というのを付けてくれるのはどうですか」
「いいですわ。それはお約束します」
阿波野はあっさりうなずいた。
「じゃあ、これを競合案として提出します。この資料、データはありますか?」
「はい、ここに。ついでなので、いま出た条件も付けて、改めて資料を作らせて頂きますわ。ちょっと失礼してもよろしいかしら」
「ええ、どうぞ」
阿波野はノートパソコンを取り出した。
そして見た目の指先は軽やかに、だが実は猛烈な勢いでキーボードを打ち始めた。タッチパッドを時々優しくかつ素早く撫でる。なんか見ていてエロさを感じさせる指使いだ。そしてものの数分でそれを完了させると、うん、とうなずき、バッグからディスクを取り出す。それをノートパソコンに挿入した。
「少々お待ちくださいね」
ディスクへの焼きこみが始まる。目の前で提出資料を作っているのである。焼いている間も黙っていない。
「左近田くんはドレモからこちらに移ってきたの?」
「いえ、間に一つ挟んでます」
「アラ、どこに?」
左近田は一瞬躊躇したようだが、
「情報セキュリティ研究機構にちょっと」
「ISRO? 独立行政法人の?」
「ええ、まあ。短期間ですけど」
「へえ、それはすごいじゃない。どんなことしてたのかなー? お話し聞かせてほしーな」
「だめです。独法といっても、国家機関ですよ。……業務内容は秘密です」
「アラ、お堅いのね」
ウフフ、と楽しそうに笑う。色っぽい目つきで左近田を見たが、左近田はすまし顔で視線を避ける。
「そういう阿波野さんは、ずっとドレモ担当なんですか?」
「ううん、今は第一事業部の営業主任。個別担当ではないけど、必要に応じて企業を訪問したりするの。今回みたいな感じね」
「へえ、主任ですか。でも遊撃部隊っぽい感じですね」
「そうね、そんな感じね」
「なかなか現場から離れられませんね」
「いいのよ、この仕事好きだから」
そう言ってニコッと笑うと、なぜか悠平はドキッとした。
「そろそろ終わるわね」
阿波野はそう言うと、かばんから紙を1枚取り出す。それをペロンとめくる。丸いシールである。そのタイミングでガチャンとドライブが動いてディスクが出てきた。阿波野はそれを取り出すと、シールをペタッと貼った。
シールにはご丁寧なことに『ユキハラコーポレーション情報本部様御提案内容データ』と綺麗なフォントで記され、エコーリースのロゴとともに印刷されていた。ケースを取り出し、それに入れる。
「ただいまの提案内容を合わせた資料ですわ。どうぞお受取り下さい」
「ではたしかに。結果は阿波野さんにお知らせすればいいのかな?」
「私で結構です。よいお返事をお待ちしております」
阿波野は立ち上がった。左近田もほぼ同時に立ち上がる。
「それでは、よろしくご検討をお願い致しますわ」
そう言って、悠平にもにこやかに笑顔を見せた。悠平が、ど、どーも、とどぎまぎしてうなずくと、彼女はクスッと笑って廊下に出た。
そして見送りに出てきた左近田に顔をスッと近づけると、すごく間近で、
「左近田く~ん、こうして再び会えたのもなにかのご縁だから、これからも御贔屓にね」
そう言って顔を離すと、丁寧に一礼し、「ではよいお返事をお待ちしております」と言い、クルッときびすを返して、肩のあたりで手を振りながらエレベータの方へ颯爽という感じで歩いて行った。左近田が珍しく苦笑している。
はあ~、と悠平はため息をついた。左近田がカードを当ててドアを開けながら振り向いた。
「どうかした?」
「いやー、なんか嵐が通過したみたいな感じです。ものすごく用意周到でしたね。驚きました」
「あれが彼女の凄さでもあり、怖さでもあるんだよ」
「連絡して30分足らずですよ。移動時間も考えると、もっと短いですよね。どうして、こっちの事情を知っていたり、あそこまでの資料とか揃えられるんでしょう」
「さあね。うちはそうでもないけど、ユキハラの他の部署には、エコーリースも食い込んでいるだろうし、事前に情報を得てたのかもね。エコー製品を置いていない部署はどこか、そこはどんな仕事をしているか、とかをね。だからこういう事も想定した準備を常日頃からしているんだと思うよ」
「それでも早すぎませんか」
「他社の動向を常に把握して、たとえば富士見が新製品を出したら、どういうオプションの組み合わせがあるかを調査し、それに対抗した製品の組み合わせを考え、販売やリースする時はどのくらいの値段にするのかを考えておく。そのデータストックが揃っているんじゃないかな。だから要請されたらすぐにライバル社を上回る提案を引き出せるようになっている。この資料もすでに用意してあったんだろう」
「つまり、情報力ですか」
「そう。彼女の恐ろしさはそこにあるのさ。今後、頻繁に顔を合わせるようになったらわかると思うけど、彼女の情報収集能力はハンパないんだよね。瞬く間に顧客の詳細な情報を手に入れてしまう。そこを経由してライバル社や、顧客と取引のある会社の情報までね。彼女はそれを人間関係から全部引きだしてしまう天才なんだよ」
「へえ。そんな風には見えなかったですけど」
「水商売の人に見えただろう?」
「え? あ、まあ、そうですね……」
悠平はなぜかどぎまぎした。
「自分でもそれをネタにしているからね。この状況じゃ情報本部の機器類はエコーに全部入れ替わるかも知れないな。かなりの台数になるから、エコーとしては美味しい話になるだろうね。しかもそうなれば、今後、うちにない他の製品のリースや購入も提案しやすくなる」
そうか、だから、彼女は料金サービスを大まけしてくれたんだ。
悠平は気づいた。
「でも、左近田さんは、阿波野さんのその凄さをご存じだったわけですよね」
「まあね。前にドレモで関わった時に、みるみるシェアを奪っていったのを目の当たりにしたからね」
「すると、阿波野さんに連絡しよう、と思った時点で、ここのシェアも奪っていくだろうって事は予想していたわけですか?」
左近田はニヤッと笑った。
「ふふーん、さてどうかな」
多分に予想はしていたようである。左近田も人が悪い。茂倉部長からの話があった時点で富士見フェリックスには見切りをつけていたのだ。
席に座る左近田を見ながら悠平は考えた。
富士見の営業担当者は、ユキハラとの長年の関係に狎れてしまい、サービスを怠ってきた。一方で、虎視眈々と隙間を狙っていたのがエコーリースの営業担当者。この世界、油断していると、一晩でひっくり返ってしまうことも十分にある訳か。
そしてそれは、能力だけでなく、人間関係も大きく影響していることになるわけだ。阿波野さんにしても、左近田と知り合いになっていたから、美味しい話を手にすることが出来たのだから。
そう考えると、左近田のようにあちこちに行って、能力を高め、派遣先でそれなりに評価されているような存在は、貴重だと言えるわけだ。非正規だからといって油断はできない。
ここの正社員10人より、左近田1人を得る方がよっぽど特だろうな。この会社も、リース会社も。
別れ際に、左近田に意味ありげに、御贔屓に、と言っていたのは、彼女にとっても、左近田とのコネクションを手放したくないのだろう。左近田が今後どこへ行こうと、そのコネクションはついてまわり、結果的にシェアが広がっていく。
「ところで、あの阿波野さん、お歳はいくつなんですか?」
「いくつに見える?」
「うーん、27、8歳くらいかな。もう少し行ってますかね? 30歳くらい?」
ベテランのホステスさんみたいだったけど……。
「37歳だよ。僕より二つ上だから」
「ええーっ!! お、思ったより行ってますね。全然見えなかった……。そっか、だから、左近田さんのことを君付けで呼んでたわけですか」
「もう一つ驚くべきことがあるよ」
「なんですか?」
「彼女の最終学歴は高卒で、18の時にエコーリースにバイトで入って、今は正社員。主任って言ってたね。彼女のおかげでエコーリースも、本体のエコー電子も、業界屈指の大会社になったんだよ。まさにエコーリースのたたき上げさ。エコーグループは社長以下みな彼女に頭が上がらないと言われてるしね。ほんとはもっと出世していてもおかしくないほど功績を挙げてるんだけど。たぶん学歴ではなく、彼女本人が現場を望んでるんじゃないかな」
「バイトさん上がりだったんですか……」
自分もバイト上がりで出版社に務めていたが、結局クビになった。
一体、自分と彼女の違いはどこなんだろう。
いや、考えるまでもなく、才能の違いなんだろうな。
悠平は、いささか気分が落ち込んでしまった。
再び、選定会議が開かれた。
参加メンバーは前と同じだ。
ただし、雰囲気は前回と違い、真面目だった。
「正直、これはエコーリースの方が条件がいいですな」
「料金も安いし、サービスも充実している」
「機能的にはほぼ同じくらいだが、エコーのGMP4000シリーズはユメマフに対応しているそうじゃないか」
「エコーの担当者に聞いたんですが、法務部と知的財産部ですでに導入しているそうです」
左近田が言った。すると、
「ほう、それじゃすでに導入の事例があるわけですな」
それはいいんじゃないか、と部長らは頷きあった。
最初に導入するよりは、すでに事例がある方が問題になりにくい。
「本部長、これはもう、富士見フェリックス社はやめて、エコー社製に切り替えた方が良さそうです」
「うーん、そうだなあ」
と友則本部長は、煮え切らない。
「本部長、ここが換え時ですぞ。説得材料も揃っています」
「そうだねえ」
説得材料とは? と悠平が小声で左近田に聞いた。
「経理部長の一万田泰造さんは曲がったことが大嫌いな上に、細かい人物で有名でさ。そんな人だから説得するのが面倒なんだろう」
左近田がささやいた。
「これだけ情報が揃ってもですか?」
「財布の紐をきつく締めるのが役目だと思っている人らしいからね。職務には忠実だろうけど」
「でも、必要な機材ですよ?」
「だから、最終的には認可が降りると思うけど。それまでに嫌味の一言二言言われるのを本部長は嫌がってるんだろう」
ははは、と悠平は苦笑した。管理職も上のほうの情報本部長が経理部長に嫌味を言われるところが想像つかない。
やれやれ、と友則本部長はため息を付いた。
「ま、仕方あるまいな」
そう言うと、
「よかろう。複合機は全台交換。機種はエコー社に変更する」
と宣言した。
ははーっ、と部長らは一斉に頭を下げ、才野木課長や左近田も一緒に頭を下げた。それを見て悠平も慌てて頭を下げた。
会議は無事終了した。
青くなって駆けつけてきたのが、富士見フェリックスの営業マン頓田洋平だった。
解約の手続きをしたい、というこちらからの連絡を受けて、大慌てで来たのだ。
「あの、お話を伺ってきたのですけれど」
挨拶もそこそこに頓田は切り出した。
「全部交換というのは本当でしょうか」
「ええ、そ、そのようです」
悠平はちょっと戸惑った。何故か今回、3課の面々は、珍しく忙しくて、出払っているのだ。左近田も車坂もさっきまでいたがトラブルの呼び出しを受けてそれぞれ出て行ったきり誰も帰ってこない。課長も今日は会議とかで離席している。
「そんなあ。それでは困ります。僕、上司に怒られてしまいます。どうにかなりませんか」
いや、そんなこと言われても。
「それが、幹部会議で決まったようなので、私に言われても……」
悠平はその会議にも出席しているわけだが、なんとなく関係なさそうな風を装ってしまった。
「ええーっ」
頓田は露骨に顔をしかめた。
正直、この人では営業は無理だな。なんか信頼置けないもの。
あの阿波野さんには勝てないだろうしなあ。
美人な上になにもかも派手な彼女を思い出す。パワフルな人だった。
「ちなみにお聞きしますが、どこの製品を導入するのでしょう」
「え? ああ、エコーです」
「エコー……」
頓田は、一瞬黙った。そしておずおずという感じで、
「エコーの担当者はどなたが……」
と妙なことを聞いてきた。
「営業の方ですか? それなら、阿波野さんとおっしゃる方でしたけど」
その途端、がたん、と頓田はイスを後ろにずらした。驚愕の表情を浮かべている。いや、恐怖の表情というべきか。
「あ、阿波野とおっしゃいましたか」
「ええ。阿波野さんという方です。女性の方で。それが?」
「阿波野京子、ですよね」
「え? ご存知なんですか?」
そう聞いた次の瞬間、
「ご存知も何も、阿波野京子といえば、リース業界でその名を知らぬものはいませんっ」
とまくしたてた。
「え、そ、そうなんですか」
「そうです。そうですとも」とうなづくと、頓田は何かを思い出すような遠い目をして、
「阿波野京子、エコーリースのリーサル・ウェポン、彼女が通ったあとには他社の草木一本生えないと言われる、まさにイナゴのような女」
おい、と悠平は突っ込みそうになった。
「あれはもう、災害という他ありません。ああ、これで我が社もユキハラという領土を失うことになりました」
「な、なにをおっしゃるんですか。頑張ればいいじゃないですか」
頓田は、キッと悠平を睨みつけた。
「あなたはあの女の怖さを知らないからそんなことが言えるのです。あれはもはや、女呂布。一騎当千のツワモノ、たとえ我らであっても、敵う相手じゃありません」
我ら、って……自分をなんだと言いたいのだ? 関羽か、張飛か、なんのつもりだオイ。
「あんなのに目をつけられたら、もう終わりです。破滅です。カタストロフィーです」
すげー言われようだ、と思ったが、ふと気づいた。
「でも、そこまですごい人だということが業界に知れ渡っているわけですよね」
「そうだと言ってるじゃないですか」
「であれば、それを上司の方にそのままお伝えすればいいんじゃないんですか?」
え? と頓田は顔を上げた。
「阿波野さんが相手じゃどうにもならないんでしょ。上司の方も納得されるのでは」
やや皮肉を込めて悠平は提案した。さすがに、そんなこと、余計怒られますよ、と反論されるかと思ったら、
「そ、そうかっ。それがあったかっ」
と頓田は顔を輝かせた。
「そうですよね。阿波野京子に目をつけられた、といえば、上司もそれじゃ仕方ないとなります。なるほど。うまい言い訳になります」
「あ、いや……」
悠平は呆れた。
頓田は打って変わって、明るい表情で、悠平の手をわざわざ掴んで握り、
「伊是名さんとおっしゃいましたか、いや、ありがとうございます。なんとかクビにならずに済みそうです。なんとお礼を言っていいやら」
「はあ、お役に立てて光栄です……」
悠平は力なく返答した。
頓田は、手を離すと、すっくと立ち上がった。
「善は急げといいます。私は早速社に帰って報告いたします」
そういうと、そそくさという感じで出て行ってしまった。
悠平がぽつんと残された。
その直後に、左近田が戻ってきた。
「そういえば、富士見の営業担当者、来るって言ってなかった? まだかな」
「いや、その方なら、もう帰られましたけど」
「へ?」
悠平は事情を説明した。
左近田は顔をしかめた。
「阿波野さんは、確かに凄腕の人だけど、それを言い訳にするようじゃ、そいつは営業マンとしては失格じゃない」
「僕もそう思いましたけど」
「その人には悪いけど、阿波野さんを言い訳にした時点で、解雇通知書に署名したようなものだ」
「やっぱりそうなりますか」
「なる。富士見フェリックスも馬鹿な会社じゃないしね。営業に失敗するくらいは、ビジネスだからあって当然。それをいちいち問題にはしないよ。怒られるくらいはあるだろうけど。むしろそこからが営業マンの勝負のしどころじゃない。それを、ライバル社の営業マンを言い訳にしちゃ、諦めたと言っているようなものだもの」
「はは……」
なんとなく余計なことを言っちゃったかな、という気もしてきた。
「君が気にすることじゃないよ」
と左近田は悠平の心を読んだかのようなことを言った。
「怒られることを恐れて、余計なことをして状況を悪化させる。だれでもよくやることさ。あとで後悔するだろうけどね。その人にはいい勉強になるんじゃないかな」
阿波野京子主導のもと、エコーの人や子会社の人が多数やって来て、複合機全台交換は無事に終わった。
それから少し経ったある日。
電話が鳴り、悠平が受話器を取った。画面には30階受付の文字が表示されている。
「はい、情報本部第7部第3課です」
「お疲れ様です。総合受付、滝野です。そちらにお客様がお越しになっております」
「は、はい。えーと、どちら様でしょう」
「エコーリース社の阿波野京子様とおっしゃいます。来訪のご用件は先日納入の機材の確認ということですが、ご予約はされておりますか?」
「え? い、いいえ」
「入館の許可を出してもよろしいでしょうか?」
「ちょ、ちょっとお待ちください」
唐突という感じで、エコーリースの阿波野京子がやってきたのだ。特にこちらから要件はないのだが。
来訪者予約をしていなかったので、30階の受付で手続きをとったのだろう。才野木課長に話をすると、あっさりと入館の許可を出した。
すぐに彼女はやってきた。前回いなかった課長にまず挨拶をする。
才野木課長も、彼女の派手だがなかなかの美人と会話の華やかさに、ウンウン、と鼻の下を伸ばしている。
「左近田くんは、今日は用事で横須賀のYRPの方に行ってるんだよ。他に車坂くんというのがいるんだが、彼は今日おやすみでね」
「それは残念ですわ」
「まあ、ゆっくりして行きなさい」
などと課長は言うと、
「コーヒーでいいかね」
「あら、お気遣い、ありがとうございます」
「いやいや、隣の派遣の子が持ってきたインスタントがあるんでね。インスタントで悪いけど」
「いいえー。それに近頃のインスタントは、それで結構本格派ですもの」
「じゃあ、ちょっとまってて」
そう言うと自ら給湯室に行った。
ヲイヲイ、課長早くも籠絡されちゃってるし、などと悠平が内心苦笑していると、
「伊是名悠平さんでしたわね。先日はありがとうございました。おかげさまで大きな仕事をさせていただきましたわ」
と声をかけてきた。
「あ、はい。いえ。僕は何もしてないので……」
阿波野はクスッと笑い、
「でも、大変なお仕事ですよね、サポートというのは」
そんなことを言われたのは初めてだったので、悠平はびっくりした。
何しろ、この会社内ですらバカにされているのだ。さほど気にはしていないものの、たまに疲れてる時など、少しは評価してくれよ、と思うこともある。
それでも、
「い、いいえ、サポートなんて、ほんと大した仕事じゃないので」
「あら、遠慮される必要はないですわ。立派なお仕事です。縁の下で支えられているからこそ、他の部署の方も安心して業務ができるのですから」
「あ、あの、恐れいります……」
こうまではっきりと評価されると、もう嬉しいやら恥ずかしいやら、たしかに遠慮とかするほうが失礼な感じがする。
阿波野はにこっと微笑むと、
「私たちも、日々機器のサポートをしてもらえているんですもの、むしろお礼を言わせていただきます。ありがとうございます」
と頭を下げた。
「あ、そんな、恐縮です」
そこへ課長が戻ってきた。何気ない素振りでいるが、急ぎ入れてきたのだろう。
「まあ、いい香り。遠慮無くいただきます」
「うんうん」
カップに口をつける仕草も妙に色っぽい。
「あら、これほんとにおいしいですわ」
「いやいや、さっきも言ったけど、インスタントなんだよ」
「驚きですわ。どこの製品かしら。それとも、お入れになった方がお上手なのかしら」
そう言って才野木を見る。課長は年甲斐もなく照れて、
「いやあ、普段からよく飲んでるだけなんだけど」
「素敵ですわ。私、コーヒーを嗜む方って、男らしいと思うんですの」
「いやいやいや、そんな大げさなことじゃないよ、うん」
課長も完全に陥落したな。
悠平はそう思ったが、なぜか阿波野京子に対して、やり手だ、などとは思わなかった。
言っているセリフを一つ一つ見ていけば、いかにもわざとらしいのだが、何故かそれを自然な感じで口にするため、素直に受け止めてしまうのである。
悠平は自身も籠絡されていることに気づいていなかった。
阿波野は、少しお話をしたあと、納入した各部の複合機を点検して回った。
それぞれの部で、部長に挨拶をし、そのあと画面を操作し、カウンターを見たり、テスト出力などを確かめていたが、その手際の良さは、いかにも慣れているという感じだった。
ひと通り見て回ったあと、また第7部第3課に戻ると、何気ない世間話のように見せて、情報本部について色々聞いた。
そして1時間ほどいた後、丁寧な挨拶を残して帰っていった。
その翌週。
阿波野京子からメールが来た。
「先日はお忙しいところをおじゃましました。機器の方は問題なく稼働している様子。安心いたしました。皆様のおかげとここに厚く御礼申し上げます」
そのあと、
「ところで、先日納入させていただきました際に、複合機用のプリントサーバーとともに、情報本部様管轄のセカンドファイルサーバーも拝見させていただきましたが、いささか使用年数が経過しておられる様子。おそらく、御社ビル完成時にあわせてお引越しされました際に、導入されたものとお見受けいたします。僭越ではございますが、データの安全保管のためにも、交換の必要時期が迫っているものと思われますので、その旨、ご担当者様に確認していただいたほうがよろしいのではないかと存じます。その際、弊社サーバー製品に付きましても、ご検討いただければ幸いです。必要でしたら、ご説明に伺わせていただきますので、その時はどうぞよろしくお願いいたします」
「ですって」
と悠平が言うと、左近田も同じメールの内容を読んで、苦笑いを浮かべた。
「早速きたな」
「複合機を収めに来て、サーバーをチェックしてたんですね。でも、いつ見たんだろう。そんな様子なかったけどなあ」
「いつの間にかチェックされてたってか。でも、うーん……」
「どうかしましたか?」
「実はね、ホストサーバーマシンの方は去年交換したんだよ」
「そうなんですか?」
うん、と左近田はうなずき、
「この本社は、ユメマフ用のコンピュータ群とその周辺のサーバーマシン群を最上位として、各部の専用ホストサーバーを次に、さらにその補助用として各ファイルサーバー、ネットワークストレージ、プリントサーバーなどが稼働しているんだ。ホストサーバーの多くは、ここのビルの6階か、もしくは向かいにある溜池国際ビルのサーバーセンターに置いてあるけど、ファイルサーバーなどはこっちの各部署にあるからね。先に国際ビルの方をやったってわけ」
「じゃあ、指摘の通り、もうそろそろと……」
「そう。話は出ていたんだよね。阿波野さんは、そのこと知ってるんじゃないかな」
「でも、セカンドサーバーでも結構お金かかるんじゃ。そんな急には無理でしょう。リースなんですか?」
「一応ね。ただ、多分予算は組んであるはずだよ。実は、溜池国際ビルが結構古いんでね。いずれはこのビルに移すかあるいは災害リスク分散を兼ねて、埼玉県の北西部あたりにサーバーセンターを移そうかって話になっている」
「大掛かりですね。確かに国際ビルって、昭和ってかんじですけど」
「サーバールームの天井にスプリンクラーがあったりするもんね」
「えっ、それってまずくないですか? なんかの拍子に作動したら」
「全滅だね」
「いやいや、この大企業でですか?」
「案外、そういうところがずさんな大企業って多いよ」
「いや、それにしても……。ああいうとこって、たいていガス消火ですよね。よく酸欠になりますって注意書きがあるでしょう」
「そう。しかもサーバーマシンはデリケートな構造になってるから、サーバールームは、静音、耐震、排気、防塵、温度調整などを兼ね備えたシステムになっているほうがいいんだよ。だから本来ならば、建物から設計する必要があるんだよね。それで移転したいんだけど、すぐすぐには無理なので、当面、国際ビルのセンターと、こっちとで分散管理すべきじゃないかってことになっててさ。それもあるんで、とりあえず予算を確保しておき、こっちのサーバーも徐々に交換していこうってことらしい」
「じゃあ、阿波野さんは、それを知ってて、上手いタイミングでアピールをしようと……」
「そういうことじゃないかって思うな。そうとはひとことも書いてないけど」
「……こええ。なんでそんなこと知ってるんだろ」
「社内の誰かから話を聞きつけたか……、でも、あの人のことだから、その方面のベンダーやコンサル、経験豊富な建築会社あたりともコネがありそうだしね。その辺りの情報かもしれない」
そうか、と悠平は気づいた。
この職場にいると、どうしてもユキハラという会社を視点の中心においてみてしまうが、よその会社にはよその会社ならではの視点がある。自分たちの見えない部分、知らないつながりもあるのだ。
「阿波野さんを見ていると、情報保護の大事さがよく分かる。彼女は悪い人ではないし、情報を漏らした結果、信用を失ったり、顧客の経営を悪化させて自分の業績に響くようなバカな真似はしない人だけど、情報は人から漏れるってこともわからせてくれる。阿波野さんは、ある意味、ハッカーよりもすごいかもしれない。人という感情を持ったややこしいところから情報を引き出すからね。うまいこと乗せられて、調子良くホイホイ喋ったのはいいけど、あとで何を喋ったのか覚えてない、なんてことにもなりかねない。それをシラフでさせてしまう人だからな」
そういえば、先日彼女が来た時、いろいろ喋った気がするが、何を喋っただろう。
だんだん心配になってきた。
「左近田さんも阿波野さんにいろいろ喋っちゃったってことありますか」
「うーん……」
と首を傾げた。
「危ないと思ってからは、抑えるようにはしたけど、最初の頃はいろいろ喋ったような気がするんだよな……」
自分のしたことがわからない、というのが一番怖いかもしれない。
悠平はそう思った。
その様子を見て、左近田が聞いた。
「どうだい。少しは阿波野さんの怖さがわかってきた?」
「そう、ですね……、なんというか、すでに自分は飲み込まれてしまったような気がして……」
「気がして……?」
「怖さを通りすぎてしまった感じがします」
「なるほど」
「……表現、変かもしれませんけど」
「ん?」
「阿波野さんって、スタート直後に現れたラスボス、て感じがします」
その意味が浸透すると、左近田は声を上げて笑った。
夜9時過ぎ……。
銀座8丁目にそびえ立つエコー本社ビル。
その9階にエコーリースの営業部があった。
部屋の一つに明かりが灯っている。
一人の美人だが派手な格好の女性が、PCの画面を見ながら、キーボードを軽やかに操作していた。
画面に表示される情報を目で追う。
「阿波野主任、まだ残られるのですか?」
課のメンバーの一人が帰り支度をしながら声をかけた。
「うん、もうちょっとね。でも、そろそろ帰るわ。残業はお肌の大敵だもん」
「ははは。主任にとってはまさに不倶戴天の敵ですね」
「そーよー」
「何かお手伝いできることありますか」
「アラ、珍しいわね。どういうつもり、私の気を引きたいのかしら」
「い、いや別に、そんなことはないですよ」
「アラ、私じゃ嫌なの? 私では魅力ないっていうのね」
「い、いえ、決してそういう意味では」
「じょーだんよ、じょーだん」
阿波野は可笑しそうに笑った。
「勘弁して下さいよ」
「わかったわかった。ごめんね。もう帰っても大丈夫よ。私もすぐに引き上げるから」
「わかりました。ではお先に失礼します」
「おつかれさまー」
部下が退出すると、阿波野は画面を見直す。会社が残業を推奨していないせいか、多くの社員はすでに退社しており、シンと静まり返っている。彼女のキーボードを叩く音だけがわずかに響く。
少しして、表示された情報を彼女はまじまじと見た。
「へえ」
と声を出した。画面から視線を外すと、クルッと椅子の向きを変えた。顎に指を当てる。
「伊是名悠平……、なるほどねー。これは意外な掘り出し物ね。こんなコネクションがくっついているとは」
そうつぶやいて、その目の奥に興味の色が浮かんだ。悠平の顔が浮かぶ。またクルッと椅子の向きを変え、PCの画面を見直す。
「ユキハラは攻略しがいがあるわね。左近田くんに伊是名くんか、この二人は大いに使わせてもらおうかしら」
そうつぶやき、嬉しそうな表情になった。
その翌日、エコーリースのユキハラ担当営業は、海芝電機担当へとシフトし、ユキハラは阿波野自ら担当することになった。
元の担当者は不平をこぼすどころか、むしろなんとも言えぬ高揚感と、僅かな恐怖を感じた。
他の営業マンもみな同様だった。
彼らはこの人事異動で思ったのだ。
「阿波野主任が自ら動き出した。ターゲットはユキハラグループ全社。かつてない大規模な市場攻略が始まるんだ。それをこの目で見られるんだ……」
と……。
ラビリンス 青浦 英 @aoura
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