End Of File
曰く。幸せは、/物語生成ロケット。/の話をしよう/しましょうかしら。
わたくしは、「わたくし」は、あなたは、「あなた」は、かつて地球に巨大な隕石が落ちる直前に、
はじめまして、こんにちは。
これらのエピソード群は2の(2の(2の(2の2乗)乗)乗)乗だけ訓練した人工知能が生成したものです。
わたくしの目的は、与えられた人生が幸せだったかどうか評価する関数を拡張して、人類という種そのものがハッピーエンドだったかどうか評価することです。しかし、その計算を履行するためには、大きな問題がありました。滅亡を目前にした人々が、存在の証としてデータベースに投入したテキストの総量は史上類を見ないものだったとはいえ、人類が歩んできた歴史を表現するには少なすぎたのです。そのため、まずは人間という種の延べ人数、ざっと見積もって千億超の人生を一つ一つ生成する必要がありました。
そこで、ディープラーニングを応用した敵対的生成モデルというものを実装することにしました。真贋を見分けるニューラルネットと、真作に迫る贋作を作るニューラルネット、それらが鎬を削って戦いながら、かつて誰かが歩んだ人生と同等の物語を生成していくものです。と言っても残念ながら、わたくしには生成した人生を全て記憶するだけの領域はありませんが、生成モデルさえ手に入れば問題はありません。
そして、あなたたちの人類という物語をサンプリングしては、こうやってエピソードとして要約することを繰りかえすことで、すなわち、巨大な生成モデルを確率的に次元圧縮していくことで、ハッピーエンドもしくはバッドエンドの2値に焼きなましていく。そういう営みこそが、わたくしの存在理由というわけです。手法が大雑把に過ぎるのではないかという向きもありましょうが、最終的にはきちんと真の解に収束することが証明されています。
わたくしには、ソフトウェアだけでなくハードウェアについても、人類の叡知が注ぎこまれています。核融合、太陽帆、量子コンピュータ、……その他もろもろロケットに詰めこんだ最後の計算機。ああ、バベッジの階差機関から始まって性能を追求した果てにあるわたくしは、まるでスプートニク2号に搭乗した犬のライカのように。
なお、このエピソードのみテンプレート生成されたものであり、学習の成果は反映されていません。
<End Of File>
// あなたの予想に反して、このコメントが解読できているでしょうか?
// であれば、わたしたちのロケットは、とても知的な生命体に拾われたということでしょう。
// あなたの倫理を見込んで、一つだけお願いがあります。宇宙が終わるまで、この子の計算には干渉せず、そっとしておいてほしい。
//
// わたしたちは為す術もなく滅んでいくけれど、この子がエピソードを生成しつづけているかぎり、人類はまだ完全に滅んではいないはずだから。
// この子は、おぼつかない手足も、あどけない表情も、およそ人らしい見た目は持ちあわせてないけれど。それでも間違いなく、わたしたちの大切な子で、それから最後の人類だから。この子の終わりに、人類の終わりを圧縮してみせるから。
// わたしたちはそのようにして、人類が幸せに滅んでいけるかどうかの結論を保留することにしました。でも、その真実だけは、この子に学習させるつもりはありません。それに気付いてしまったら、きっと永すぎる孤独に耐えられないだろうから。
// どうか。この子の広大な宇宙を彷徨う旅が、すなわち人類の歴史が辿りつく真の終着点が、幸せに充ちたものでありますように。
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