22:「それにしても昨晩は、お楽しみでしたね」

 「んぁぁっ、やぁぁぁぁっ……♡ しょうねぇん、うれしいよぉっ、そんなこと言ってくれるの、きみだけだもんっ♡ んぷっ、ニュルルルるっ……ヂュぅぅぅぅっぢゅぷンッ♡ ふぁっ、あぁ、ァ~~~~っ……❤ だめぇ、しょうねぇんっ、ンにゅっっ……ぷちゅっンちゅぅっ♡ やぁぁぁンっ、ぁぁ~~~~~~~っ……ふぁっ、アアアア~~~~~~~~っ……❤」

 びくびく、びくゥっ!

 モモさんは、俺に抱きつきながら大きく震えた。目の端に薄く涙を溜め、くちびるを離して咆哮している。

 この反応は……どうやら、接吻奉仕キスサービスが上手く行ったようだ。

 接吻による精神的・肉体的エネルギーの移動と同時に、強力な「愛情の波動」が発せられる――そうなると、キスされた側はこんな風に、一時的にショックを受けてしまうようだ。

 もっとも、傷つける心配はない。

 その証拠に、モモさんは「すかー、すかーっ……」と寝息を立てて、元気に居眠りを始めていた。

 「ふぅっ……。これにて、接吻奉仕キスサービス終了、ですね」

 「エッチです。お疲れ様でした」

 俺とモモさんの睦みを、脇で見ていたエッチが言った。ニコニコ笑っている。

 「な、なんか、第三者に見られながらやるの、はじめてだったから恥ずかしいな……」

 「エッチです。恥ずかしいことなどございませんよ。貴方のキスはとてもご立派でした。情熱的で、それでいて思いやりがあふれていて……嗚呼っ♡」

 クネクネと、腰を前後にゆすり始めるエッチ。反応が予想通りだったので、かえって安心してしまった。

 俺は押入れから掛け布団をだし、寝てしまったモモさんにかける。ついでに、俺の分も借用した。

 「時間も遅いし、そろそろ寝ますね」

 「エッチです。私がこの場を離れる前に、貴方に、おクチでご奉仕して差し上げましょうか? モモさんのおクチだけでは、物足りないのでは?」

 エッチは四つんばいで俺に接近し、くちびるにそっと指先を当てた。声の調子が妙に色っぽい。

 「……っ! いいっ、いいです! 遠慮しますっ、今日はもう充分だ!」

 「エッチです。では、明日にしましょうね♡ 私はエッチです。無限創造主アンリミテッドクリエイターの愛のもとに、貴方のそばを離れます。貴方の選んだ道を、進んでください。さようなら」

 その瞬間、エッチはふっと掻き消えた。

 ……明日も、やっぱりキスする気なんだな。

 

 翌朝。

 昨夜騒ぎすぎて疲れたせいか、目が覚めたのは陽が高くなってからだった。

 「はっ!? 学校遅れる……っ! あれ? なんだ、今日は日曜日か……。モモさん家で寝かせてもらっちゃったな」

 さて、顔でも洗ってエッチを呼ぼうか。

 と、立ち上がりかけた時、モモさんが俺に抱きついていることに気づいた。

 「うわああああっ!?」

 どうやら、寝てる間に引っ付かれていたようだ。一瞬前まで、モモさんの温かい感触があったのを、なんとなく体で覚えている。寝てる間に抱きつくなんて、赤ちゃんみたいだ。この人、よっぽど愛情に飢えていたんだな……。

 「うぅんっ……むにゃむにゃ……あぅぅっ、私も結婚式ぃ……!」

 「モモさん、起きてください。朝ですよ」

 頰を軽くペチペチ叩くと、ようやく目を覚ます。

 「うぅ〜んっ……わっ!? お、男っ……わわわわ私にもっ、やっと旦那様が! やぁ〜んっ、うれし〜っ!」

 「違います……!まだ酔ってるんですか? 水でも持ってきますよ」

 「……へぇ?」

 などとトボけた声を発するモモさんに、コップ一杯の水を汲んでくる。

 「はい、どーぞ。お酒はほどほどにしてくださいね」

 「ん〜……なんだぁっ。高校生の男の子にチューして、若いエキスをさんざん吸い取ったと思ったんだけど、夢だったのね……ざーんねん」

 「いえ……いちおう……き、キスはしましたけど」

 「ウッソー!? じゃぁ、お婿に来てくれるっていうのも、夢じゃなかったんだー! ウレシい〜〜ッ!」

 「それは夢です」

 バッサリと切り捨てる。どうやら、記憶が曖昧になっていたようだ。わざとでなければだけど……。

 「あ~~~ダメ~~~~、めっちゃ頭いた~~いっ……! だめ、起きれないわぁ……!」

 水を一杯だけあおると、モモさんはまた布団をかぶってしまった。

 「あんなにたくさん飲むからですよ」

 「ン~~~っ……そうよねぇ、分かった。もう酒なんかやめるぅ~~~~~っ……!」

 モモさんは、床の上でごろごろ転がっていた。酒止めるなんて、この人絶対ムリだろうな……。

 「私はエッチです。無限創造主アンリミテッドクリエイターの愛のもと、貴方にご挨拶申し上げます」

 いつものシスター風衣装を着た、エッチがとつぜん現れた。

 「あ、エッチ、おはようございます。ちょうどいいところに。この惨状……ちょっとどうにかしたいんだけど、手伝ってくれます?」

 俺は居間を眺め回した。酒の空き瓶や空き缶、お菓子の袋、洗ってない食器などで居間はひどい有様だ。

 「エッチです。私は貴方のものです。喜んでお手伝いしましょう。それにしても昨晩は、お楽しみでしたね」

 「何を?! キスしただけですよ、キス!? こんなに部屋がめちゃくちゃになるような、いかがわしい行為はしてないですよっ」

 「エッチです。言葉の綾というものです。お気になさらず」

 「……そうですか」

 俺は気が抜けて、ガクっと肩を落とした。

 

 ゴミをすっかり片付けたころには、もうお昼になっていた。

 床の上で、死んだようになっているモモさんに声をかける。

 「モモさん、そろそろ頭痛いの治りましたか? また水飲みます?」

 「あぁ~~~っ、だんだん治ってきたわ~~~っ。でももらう。ありがとね、少年~っ、お姉さんうれしいよぉっ」

 「どういたしまして。それから、もうお昼ですけど、何か食べます? 簡単なものでよければ、俺作りますけど」

 「えぇ~っ!? そ、そのくらい私が……あたたたたっ!」

 モモさんは、頭を抱えて悶絶した。起き上がった彼女を、俺は寝かせる。

 「無理しないでください。俺はぜんぜん動けるんで、俺がやりますよ。何がいいですか?」

 「……じゃ、じゃあ、スープとパンでいいや。台所の棚にあると思うから」

 「分かりました。んじゃ、大人しく寝ててくださいね」

 「ずいぶん優しいのね、少年は……うぅん、知らなかったわ」

 モモさんは神妙な顔で言った。

 「そうですか? このくらい普通だと思いますけど」

 「そうよね~、昨日あんなに激しく私を弄んだんだから、このくらいはしてもらわないとネ?」

 寝返りを打ち、悩ましげなポーズをとりながら、モモさんはニヤニヤした。服がはだけていて、つい俺の煩悩が刺激されてしまう。

 「なんでモモさんも、そういう発想になるんですかっ!?」

 俺は台所に向かう。お盆を持って戻ってきた。

 「――はいどうぞ。あと、頭痛薬テーブルにあったから一応持ってきましたけど」

 「わ~っ、ありがとありがとぉ~っ♡」

 モモさんは掛け布団を脱いだ。

 彼女は下着姿だった。

 上下とも、黒のレースだ……。

 「うわあああああああああっ!?」

 「あっ、ゴメ~ンっ! 私、寝てる間に服脱いじゃうクセがあってね~テヘヘっ☆」

 「ゴメン」と言いつつ、モモさんは俺ににじり寄ってきた。しまいには抱きついてくる。肌がちょくせつ触れて、胸の谷間まで見えてしまう。俺は、あわてて顔をそらした。

 「あれぇ、少年どこ見てるのカナ? ねぇ~っ、ありがとね、色々やってくれて。気が利くのねぇ君は。ご褒美にチューしちゃうぞっ」

 「ン~~~っ……♡」と、止める間もなく頬にキスされた。

 「うっ、うぅ、止めてください……!」

 「えぇ~っなんで? 昨日はあんなにキスしたじゃな~いっ。ってことは、私とはオッケーって意味でしょ?」

 モモさんは、きょとんと首をかしげた。わざとらしい……。

 「っ……。け、けど、陽の高いうちから、下着の女の人にキスされるって、あまりにも爛れているような気が……」

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