第98話 エルザとの再会
ペルシー達はエルザとレイランが用意してくれた屋敷の前にいる。
その新居は魔法学園都市フェルミナージの北西にある小高い山の頂きにある。周囲は森に囲まれており、森の外から屋敷を視認することはできない。山の麓には閑静な住宅街があり、骨太の木材と煉瓦と漆喰を使った、地球でいうと北欧風の屋敷が並んでいる。おそらくフェルミナージの名士達が住んでいるのだろう。
この環境はペルシー達にとって最高のものだった。
広大な庭で剣や魔法の練習もやりたい放題だし、もし、エルザ、レイラン、エドガーが龍形態になって飛び立つ必要があっても、夜ならば人目につくことはないだろう。
屋敷の前に立ったペルシーとしては、ついにここまで来たという感慨深さがあるが、何でもっと早く来なかったんだろうという後悔の念も湧いてくる。
「み、みんな、入るぞ!」
「お兄ちゃんが緊張してるの?」
「ペルシーさん、落ち着いて」
ペルシーが玄関をノックする。
「は~い!」
「えっ?!」
若い女性の声が聞こえた。
そして扉が開く。
「どなた様でしょうか?」
その女性はエルザでもレイランでもない。メイド姿の獣人の少女だった。
頭の耳がピクピク動き、尻尾が揺れている。エリシアと同じ人種かもしれない。
「あ、あの~、俺はペルセウスといいます。エルザさんか、レイランさんはご在宅でしょうか?」
「自分の屋敷じゃろ? 何を緊張しておるのじゃ?」
「お兄様……」
「あ、兄貴……」
「ぺ、ペルシーさんが……。クックック……」
「エリシア、笑いすぎだぞ」
ペルシーの後ろで外野が煩い。
「ペルセウス様ですね。お待ちしておりました。どうぞ中へお入りくださいませ」
そのメイドの言葉と同時に、後ろに控えていたもう一人のメイドが屋敷の奥へと小走りで立ち去った。尻尾が左右に揺れて可愛い。
「こちらが応接間になります。どうぞお座りになってお待ちくださいませ。すぐに飲み物を用意いたします」そのメイドは恭しく頭を下げて応接間から出ていった。
「やっと、着いたな~」
「随分と寄り道をした気がする。姉貴は元気にしているかな?」
「二人共元気だといいな」
みんなが歓談を始めると直ぐにもう一人のメイドがペルシーを呼びに来た。
「エルザ様がペルシー様お一人で来てくださいと仰っています」
「分った」
「兄貴! 俺達は適用にやってるからごゆっくり!」
「クリスタ、行ってくるよ」
「はい、ペルシーさん」
クリスタは笑顔で送り出してくれたが、内心は複雑だろう。クリスタ自身も婚約者の一人なのだから……。
ペルシーはそのメイドの後をついていく。
エルザの部屋は二階の奥にあった。
「エルザ様、ペルシー様をお連れしました」
「どうぞ」エルザの声が聞こえた。
「ペルシー様、お入り下さいませ」
ペルシーは緊張しながらもエルザの部屋に入った。
そこには窓から差し込む日差しを背景にした銀髪の美女、エルザが立っていた。
初めてエルザと出会ったときも、彼女は日差しを背にしてまるで天使のようだった。
「エルザ……僕の天使」
「ペルシー様……お待ちしておりましたわ」
およそ一ヶ月ぶりの再会だ。愛し合う二人にはあまりにも長い時間だった。
そして二人は黙って抱き合った。
エルザの温もりがペルシーの体に伝わる。
彼女と再会できた喜びが、ペルシーの体を突き抜ける。
「待たせてごめん。ちょっと寄り道しすぎたよ」
「ペルシー様、私、待つのがとても辛かったのですよ。クリスタさんが重傷を負ったというし、とても心配でしたの。それに……」
クリスタが重傷を負った時、ペルシーはパメラとのシンクロができないほど動揺していた。エルザの助言がなければ、クリスタを失うことになったかもしれない……。
「ペルシー様が浮気をしているのではないかと……あの時、女の気配がありましたわ」
あの時、ペルシーとエルザはパメラのテレパシーを使って会話した。テレパシーで女の気配が判るはずないのだが……、それが女の勘というものだろうか?
「あれはアルベルティーだ。水の精霊だよ。クリスタを助けてもらうために召喚したんだ」
「そうだったのですか。私は気が気じゃなかったのですのよ」
「ごめん、詳しく説明すればよかった。俺が浮気なんてするわけないだろ。三人も婚約者がいるのに」
「ペルシー様、今は信じておきます。今からそれを証明してほしいのです」
エルザはペルシーの前に立ち、目を瞑った――
「あのー、まだ私がいるのですが? 御用がなければ退散してもよろしいでしょうか?」
「あっ、ごめんなさいファビオラ。三十分経ったらクリスタさんを呼んでちょうだい」
「えっ、三十分でよろしいのでしょうか? 二時間ではなくて?」
「ファ、ファビオラ! 何を勘違いしているのですか?!」
エルザが顔を紅潮させてファビオラを叱責した。
「申し訳ありません、奥様。私はてっきり……」
再びエルザがファビオラを睨みつける。
「はい、それでは下がらせて頂きます」
おそらくファビオラは気を利かせたつもりなのだろう。だが、エルザは箱入り娘だ。いや、箱入り王女だ。それも、龍王城という頑強な箱の――
「ごめんなさい、ペルシー様。あの子はとても悪戯好きで、空気を読めないところがあるのです」
――むしろ空気を読んでくれたような気もする。俺は二時間でも良かったんだけど。
「それでは続きを」
三十分後にクリスタがやって来た時、ペルシーがエルザをベッドに押し倒そうとしていたのは言うまでもない。
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