05 自己

「スッキリした?」


 あれからセーフハウスに戻り、千明が用意してくれていたお風呂で血を流す。

 もう既に夜中の3時を回っているにも関わらず、待ってくれていることに感謝する。

 読書を止めるタイミングが無かった、などうそぶいてはいたが私を気遣ってくれていることはよく分かった。


「はい」

「そ、じゃあ私は帰るから」


 そそくさと帰る準備を始める。泊って行ってもいいのにとは思うけれどこれも彼女なりの優しさであると思い、口には出さない。


「千明、一つ聞いてもよろしいですか?」

「ん、なに?」


 帰り際、玄関で見送りながら呼び止める。


「もし、自分が自分でないとしたら。あなたはどうしますか?」

「自分が自分でない…、ジャームになったらってこと?」

「そういう認識でも構いません」

「んー」


 少し考え込む。

 ドアからのすきま風が、少し冷たい。


「その時にならないと分からないけど、それでも私は自分の世界を求めると思うわ」


 そう、既に分かり切っているかのように断言する。


「そう、ですか」

「こんな答えで良かった?」

「ええ、ありがとうございます」


 千明は軽く笑ってドアを開く。


「あ、そうそう。お嬢宛てにメール来てたの忘れてた。物に執着しないのはいい性格だと思うけど携帯壊すのはいい加減やめてね」

「…すみません」


 新品の携帯電話を受け取り画面を見る。

 タイトルには『指令:F市』と書いてあった。


 END

 →『忘れられた街』へ

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