第11話
「あ、悪い、ウィンディア回収してくる!」
ぱっと重そうな斧を軽々担いでフェブリスは走っていった。召喚獣は、術者にもダメージが来るものなのだが、どうやらフェブリスは少し違うようだった。さっき言っていた「リリィ」なる存在が関係しているのかもしれない。
「……ラッキーな仲間を拾ったかもね、魔王様」
「うん?」
いつの間にか隣に並んでいたリリヴェルが軽く体を倒して、覗きこんでいた。
「ゴート教会の施設が使えるかもしれないわ。宿代が浮くわね。ちまちま楽な仕事をこなして、美味しいものを食べながら先を目指しましょう。たまには装備品の研磨も必要だしね」
「……リリヴェルは」
思わず笑みがこぼれる。現実的というべきなのだろうか。オーヴスにはまだ判別できないが。使えるものは最大限使って楽をしつつ、かつ目的のために邁進するリリヴェル。
真意は未だにわからない。仮に、フェブリスも言っていたように、魔族に対する扱いに嫌悪を覚えた自分が下す決断は、まだ分からないのだから。その時に、今隣に居てくれるリリヴェルを、一体自分はどういった目で見てしまうのだろう。
それが、少しだけ不安に思うオーヴスがいる。
「世界は、まだ広いんだよね、リリヴェル」
「ええ。橋を渡った先に広がる世界は、きっとまた、オーヴスの世界を変えるわ」
「うん。……僕は、たくさん知っていくよ。フェブリスの事も。それからリリヴェルの事も」
「なにそれ。……散々裁縫やってあげたでしょう?」
むっとむくれたリリヴェルの年相応の反応に、オーヴスは首を振った。
「僕は裁縫屋のリリヴェルは知っているけれど。剣士としてのリリヴェルは、何も知らないよ」
「……いいわよ、知らなくて」
「それは、お断りかな。……僕は、知れる限りの事は全て知りたい。……そうやって、魔族の王としてのスタンスを、確立していきたいんだ」
「……ふふ」
小さく笑ったリリヴェルに、オーヴスは視線を向ける。
優しい笑みを浮かべたリリヴェルは、あの裁縫屋だったころと変わらない。
「短い間に、ずいぶん立派になったわね。……これからが、楽しみだわ」
「うーん、自分じゃ分からないけど。……きっとこれからも僕は、変わっていくよ」
「ええ、きっとね」
見上げれば青い空。この空だけは、きっと変わらない。自分の願いも、どうか変わらないで居たい。オーヴスは心の底でそう願う。
「おっまたせー閣下候補!」
楽しそうに戻ってきたフェブリスに、オーヴスは思わず渋面を作る。
「フェブリス……その、閣下候補、やめない?」
「え? なんで? だって未来の閣下だろ。閣下候補じゃん」
頭の後ろで腕を組んで不思議そうな顔をするあどけない少年に、オーヴスは頭痛を覚える。
「……オーヴスで良いよ。恥ずかしいし」
「んーーー……なんかしっくり来ねーんだよな。……じゃあオーヴスの兄貴でどうだ!」
「ああ、それならいいかな。僕、一人っ子だから弟が出来たみたいでちょっと嬉しいや」
フェブリスは一瞬呆気にとられ、ついで傍らのリリヴェルに視線を向けた。
「……だいじょぶか、この閣下候補。悪い、すっげー心配になってきた」
「オーヴスはこーいう人よ。……良くも悪くもね」
「……んーまぁ、そっか。……そうだな。肩書にすがるよりは信頼できそーではあるか」
腕を組んでうん、と頷くフェブリス。
「ま、いいか。いっちょヴィントを人間も魔族も関係なく、この大陸最高に暮らしやすい地方にしてやろうぜ!」
「うん。長い旅路になるかもしれないけど、よろしく頼むよ、フェブリス」
「おう!」
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