サクラチル

 春はいろいろなものが新しくなっていくイメージが強いけど、春に終わるものだってある。


 新しく始まることがあまりに眩し過ぎて終わって消えていくものが霞んで見えにくくなるんだ。


 桜だって咲いている時は持て囃されて、みんな美しい姿を瞼に焼き付けようとするけど、散った後の姿は誰も気に留めない。それどころかついさっきまで咲いていた花弁を何の躊躇もなく踏みにじって知らん顔をしている。


 春は残酷。一年で一番落差の大きい季節。


 キラキラとした陽の光で霞んだ目に映ることのない陰った日常の一部は確かに存在する。光が強ければ影も濃くなるはずなのに、人は影から目を逸らして暖かな陽だまりで一時の幸せを生きている。


 それが人らしい生き方なのかもしれない。その生き方ができない人間は、春に憧れながら春を遠ざけて生きている。


 


 


 


 


 

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