　正午過ぎになって雷奈（らいな）はバスハウスに戻ってきた。

「おかえりなさい。雷奈（らいな）さん」

「ただいま。弥生（やよい）」

　出迎えてくれた弥生（やよい）に笑顔を返す余裕もなく、雷奈（らいな）は居間のソファーに腰をかけた。

「響詩郎（きょうしろう）は？」

「少し熱が出ているみたいで、今は眠っています」

「そう……」

　浮かない顔の雷奈（らいな）を案じ、弥生（やよい）は努めて明るい声を出した。

「あ、でも心配しないようにって言っていましたよ。解熱剤を飲んで眠っているから、夕方までには熱も下がるだろうって。響詩郎（きょうしろう）さん。雷奈（らいな）さんに心配かけたくないんだと思います」

　弥生（やよい）の気遣（きづか）いに雷奈（らいな）の心は少しだけ和（なご）んだ。

「そう。弥生（やよい）。響詩郎（きょうしろう）のこと見ててくれてありがとね」

「いえ、たいしたお役には立てていませんけど。でも、お二人とも互いを大事に思っていらっしゃるんですね。分かります」

「そ、そんなことないわよ」

　そう言って少しバツが悪そうにする雷奈（らいな）に、弥生（やよい）は内心で苦笑した。

（心配していなければそんな顔はしませんよ）

「と、とにかく弥生（やよい）も今のうちに少し寝ておいて。今夜から明日の朝まで忙しくなるわよ」

　そう言い残して雷奈（らいな）はシャワールームに消えた。

　弥生（やよい）は決意の表情で今夜すべきことを自分に言い聞かせるように呟（つぶや）いた。

「響詩郎（きょうしろう）さんの呪いを解くためにも私があの呪いのニオイを追跡しないと。おじいちゃん。禅智（ぜんち）の名を汚さぬよう精進（しょうじん）します」

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