気がつかない想い


「しーはーるー?」

「あれは一体どういうことだ?」



先程からすごい剣幕で迫ってくるのは美久ちゃんと郁ちゃん。



「な、何のこと…?」



きょとんとしながらそう返すと、



「どの口が言うのよ。どの口が」



そう言われながら美久ちゃんに思い切り頰をつねられた。



「あの謎のイケメン上級生は誰なのかって聞いてるのよ!」



つねられた頰をさすっていると、美久ちゃんは興奮したように机を叩いた。



「イケ…メン…上級生」



そう言われて思い出すのは今朝の出来事。そして藤永さんの顔。



「本当に忘れてたみたいだな…」



そう呆れた様子でため息をついた郁ちゃんは話を続けた。



「別に責めてるわけじゃないんだ。

ただ詩春が男と喋るのが珍しくて…」



そう言われて考えると、入学してまともに話した男の子は神宮寺くんと三上くん位かもしれない…。



「で、教えてくれるわよね?関係性」



ニコリと笑った美久ちゃんの迫力…。



「は、はい…」



その圧に負けたわたしは藤永さんとの関係を話すことになった。



————————————……



「ふーん、委員会の先輩かぁ」



納得したように頷く美久ちゃん。



「うん。たまたま同じ曜日にお仕事することになったんだ」



そう言うと郁ちゃんが不思議そうな顔をした。



「ん?だが何でその委員会の先輩がわざわざ教室まで会いに来たんだ?」



(て、的確すぎます。郁ちゃん…)



「え、えっとね…」



バレーのことを言えば、せっかく美久ちゃん達に秘密で特訓をするのにここでバレてしまったら元も子もない。



「もしかして…付き合ってるの?!」

「……へ?」



何と言おうか悩んでいた時に美久ちゃんから発せられた衝撃的な言葉。



「…付き合…ってる?」

「そうよ!だってただの委員会同士じゃこんなに親密じゃないわよ?先輩なんだし余計…」



そう言った美久ちゃんは「詩春は年上もありね」と頷いている。



「まぁ、真面目そうな人だったしな」



(郁ちゃんまで?!)



「ちょっと!二人とも違うよ!」



そう言って、委員会での馴れ初め劇をきちんと話した。もちろん、秘密の特訓のことは伏せて、だ。



「なーんだ。つまんないの」



それを聞き終わった瞬間、クールダウンしたのかお昼ご飯のパンにかじりつく美久ちゃん。



「……私の早とちりか」



郁ちゃんもお弁当に箸を伸ばした。



「わたしにはまだそんなお付き合いとか大人なことは出来ないよ」



そう言うと、美久ちゃんは目を大きく開いてわたしに向かって指をさしニヤニヤと笑った。



「でも、さっき先輩と話してる時の詩春。女の子、って顔してたわよ?」

「……女の子?」



首を傾げると、郁ちゃんは優しく笑ってわたしを見た。



「……恋をしてるように見えた」

「……恋?」



二人の発言に全ておうむ返ししか出来ず、頭の中ではぐるぐると藤永さんの顔が渦巻く。



「そ、そんなことないよ〜」



そう言った今の気持ちに嘘偽りはないけれど、いつかそんな感情が生まれる日も来るのだろうか?


わたしの中で何かが芽生えた瞬間…—


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