Rainy Day


「おはよー」

「おはよう、美久ちゃん」



美久ちゃんは窓の外を見ながらため息をついた。



「今日は雨かー」



頰を膨らませながら、髪の毛が湿気でやられちゃう…とぼやく彼女は本当にお洒落さんだ。



「二人ともおはよう」



そこにやってきたのは郁ちゃん。



「郁ちゃんって本当に綺麗な黒髪ストレートさんだよね…」



思わず口から出た言葉に郁ちゃんはクスクスと笑う。



「何だ、それは。褒めてくれるのは嬉しいが私からしたら詩春や美久のようにふわふわした髪に憧れるよ」

「雨の日はふわふわよりもうねうねって言った方が合ってるわよ」

「うね…うね…」



美久ちゃんの発言でわたし達は顔を合わせて笑った。



「くくっ、うねうねは的確すぎて…」

「美久ちゃん…。笑わせないでっ…」

「だっていくら巻いても落ちちゃうのよ?本当に憂鬱だわ」



雨の日の憂鬱トークは盛り上がる。



「わたしは雨の日だと歩く度靴下に泥が跳ねちゃうのが嫌だなぁ。白だから目立つし落とすのも大変…」

「わかる!あたしも跳ねる」

「改善方法がテレビでやってたが、大股で歩けば跳ねないそうだ」

「「 えっ!初耳! 」」



わたしと美久ちゃんの声が重なる。



「でも大股って…」

「こういうこと?」



美久ちゃんが机と机の間を柔軟な体をいかして驚く程大股で歩く。



「ふふっ、それはやり過ぎだよ!」

「くっ、それじゃあ歩くのが辛すぎるだろう」



やっぱり?とおどける美久ちゃん。

そんな話をしていると何故かクラスが騒がしくなった。



「可愛い傘欲しいな〜」

「今の傘ってどんなのだっけ?」

「赤と紺の…」



そんな事を気にもとめず話を続けているとクラスの女の子が声をかけてきた。



「水瀬さん!呼んでるよ?」

「え?」



そう言われて目線を動かすと教室の前扉には藤永さんの姿があった。



「あっ…」

「詩春〜?誰、あの人は?」



そう言ってニヤニヤしてくる美久ちゃん。



「上履きの色からして上級生だな。そしてネクタイから考えてクラスも上だとみた」

「いっ、郁ちゃん?!」



なんという観察眼だ、と尊敬していると美久ちゃんが早く行ってあげなさいよ、とウインクした。



————————————……



「あ、水瀬さん。おはよう」



駆け寄ってくる水瀬さんは何故か緊張した面持ちだ。



「藤永さん、おはようございます!

それと先日は妹が失礼を…。ごめんなさい」



そして来るやいなや謝ってくる。



「あ、ああ。全然気にしてないよ」



本当はあの後落ち込んでいたのだが、それは秘密にしておこう。



「おはよう〜。詩春ちゃん」



……こいつは何故ここにいる。



「あっ、おはようございます!」

「おはようのハグ」

「……やめろ」



……そして何故セクハラをしようとする。



「もう酷いな〜、藤永」

「いいからお前は離れてろ」



水瀬さんに手を振ると渋々と廊下に寄りかかって携帯をいじる白河。

全く。見られたら没収なのに…。



「ああ、ごめんね。水瀬さん」

「いっ、いえ」

「本題なんだけど…これ」



そう言って俺はブレザーの内側から一冊の本を渡した。



「あっ、この本!」

「水瀬さんが借りて忘れていったっていうから…」



振り返ると白河がニヤッとしながらウインをした。



「あっ、ありがとうございます!

昨日の夜探してもなくって…」

「それで、さ…。白河から聞いたんだけどバレーの練習するんだよね?」

「なっ、駄目です!」



俺の発言に何故か慌てた素振りを見せる水瀬さん。何か地雷を踏んでしまったのだろうか?

すると、水瀬さんが俺に近づいてきて耳打ちをしてきた。



『お友達に内緒で力をつけたいんです』



少し屈んで話を聞けば、何とも彼女らしい理由。それに対して、



『俺も手伝っていいですか?』



そう告げる。今日ここまで足を運んだのはこれを言う為。



『えっ?!』



予想よりも驚いた表情をする水瀬さん。もしかして運動苦手だと思われてるのか?



『俺、色々スポーツやってたんでお役に立てるとは思うんですけど…』



そこまで言ってふとクラスに掛かっている時計を見ると予鈴が鳴る少し前だった。これは戻らなきゃならないな。



『じゃあ考えておいて下さい』



驚いた様子でいる水瀬さんにそう告げて、手を振った。そして廊下で携帯をいじったままの白河に声をかけて彼女のクラスを後にした。

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