父と子のレクイエム

エニシ

第1話

「ふざけるな!」

一声咆哮すると屋敷の中が静まり返った。


びいいん、という余韻のようなものを微かに感じていた。

この世のものなど全て消えてしまえばいい、と悪態を吐きたかった。

 

全ての感情をなんとか、無理矢理に留め置いて、俺は怒りで肩を震わせながら大広間を後にした。


窓の外の爽やかな風。静かに凪ぐ木立。そんな平和的な風景が心を更に荒し立てる。


壁を殴り付けたい衝動に襲われる。無意識に歯をぎりぎりと噛み締めていた。


酒を飲み眠れば全て忘れることができる…俺は、フラフラと地下倉庫へ向かう。


今日は恐らく幸福な気持ちでワインを飲めるだろう、と期待していた。

俺は抱えていたプレゼントを床に投げ付けて踏みにじった。

金属が床と擦れて音を立てるのも気にせず、続けた。

もう必要がなくなってしまった。


あんなに楽しみにしていた今日という日が、こんな形で壊されるとは思いもしなかった。

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父と子のレクイエム エニシ @kamuimahiru

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