天然物勇者と養殖勇者のお話(仮)
小海
第1話 始まりは伝令から
魔族というのは、温厚で理智に溢れ決しておごることのない種族である。
しかし、魔法に長けその身体能力は人間以上、他の種族の追随を許さない。
また、魔術に対する対抗は一般兵では効かぬほどの耐性を持つ。
だがなぜ、ここまで高スペックの魔族達は
野心が無いのか?
それは、永代に渡るナゾである
だが、100年に一度の大活性の時、それは一変する。
温厚で理智に溢れる魔族は、普段からは想像もつかない野心と凶暴性を現し侵略、暴虐の限りを尽くす様に変貌する。
しかし、長い歴史のなかで魔族の血が濃いほどに凶暴化の時期が早くなることが分かり、
それ以降活性の時期が近付くと、魔族の使者が討伐依頼を出しに来るようになるのであった。
大活性の時期には、普段どの様な耐性を持つ
魔族であっても、眠りの魔法のみに弱くなることが発見されその時期のみ、一般の魔族にも人間の一般兵でも眠りの魔法が効くのである。
しかし、魔族の取り纏めの魔王は魔法に対する絶対障壁を持ち非接触状態での魔法は効かない。したがって、睡眠魔法を込めた得物を当てて眠りに落とすのだ。
魔王と対峙するには、大活性の時にのみ出現する勇者と異界からの勇者、二人の力を合わさなければ眠らせることは出来ないのだと言う。
もし、大活性中に魔族が眠りに落ちると大活性の終わるまでは、異常なまでの眠りの深さで2年間の眠りにつくという。
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ラーグス大陸中部、アティア王国、アティア王城。
玉座のはりつめた空気を裂くように男の声が響く
「陛下、魔族より使者が到着致しました。いかがしましょう?」
「うむ、通せ。」
あぁ、ついにこの時が来たのだな。
大活性か、、前の大活性は私の産まれる前
祖父母の世代が丁度その代であった
昔話とばかりにその時の武勇を語ってくれていたのが懐かしい。
....しかし、私が応対することになろうとはな。
兄上は今どこに居るのだろうか.....あの事がなければ、今も変わっていたのだろうか?
アティア王家初の、女王ラシュカ・アン・アティアは複雑な気持ちで王座に座っていた
70年に一度の大活性、その時が来たのだと感じたからである。
本来魔族と言うのは、使者を送ることがまずない。しかし、大活性の時のみは使者だけでの連絡と古来より取り決められている。
物思いに更けている時に、不意にラッパが鳴り響く
「レンシアー魔法国より、使者ルービス・シルフィー様がご到着です」
レンシアー魔法国、魔族の国である。
そして、宰相が告げる名は良く知る名であった。
「ラシュカ陛下、お久しぶりにございます。」
「うむ、久しいなルービスよ。
さて宰相以下、他の者は下がってほしい、少し二人で話がしたい。」
横で整列していた兵達は、敬礼をして下がって行く
「陛下、分かっておいででございましょう!
今は、平時と違うのですぞ!?」
「ダビウス分かっている、しかし大丈夫だ。」
「し、しかし!!」
「くどいぞ、ダビウスよ。」
少し声を貼ると、戸惑いながらも宰相のダビウスは下がっていった
「シルフィー、人払いは済ませたので平時通りで頼む」
「もぅ、本当に疲れるのよね
私こういう固いしきたり苦手なのよ~助かったわ。」
いつものような、ラフな口調に戻り私の心に平穏が戻る
「今日は、"あれ"の報告なのか?」
「そーね、遂に来てしまったのだよ修羅の刻(とき)が
王様が軍備の強化を発表して、怒りっぽくなったね
でも、まぁーいつものように行けば、どうにかなるんじゃない?」
軽い事を言うわね、こっちは大変なのに
「ふふふ、はっははは」
「なに?急に気持ち悪いわね。
なに、悪いものでも、また当たったの?」
不意に響く笑い声にシルフィーはビクッとした
「ふーふー、いや、すまないずいぶん軽く
どうにかなるのではないか?なんて言われたら笑えてな」
まぁ、勇者達がしっかりとやってくれれば
なんとかなるのかもしれぬが、この時期の魔族は凶暴だしな
「なぁ、シルフィー。
そちの調子はどうなのだ?もうそろそろ大活性が近いのだろう」
「ん?私?私は今のところ大丈夫よ。
一番魔族の血が濃いのは王様だし、私たちはどこかしらで他の種族の血が混ざってるからね~、まぁでも魔族の血の方が濃いのは否定出来ないけどね。」
「そうか、、、なぁ、シルフィー無理なのは分かっておるが...その、だな。手加減してくれよな?毎回結構な死傷者が出るのはやはり王としても厳しいし、ツラい。」
「うん、分かってはいるんだけどねでも、やっぱり大活性になると自我というか、理性って言うのかな、はほんの一握りでどうしても野心しかないような状態になってしまうのゴメン....。」
大活性毎に書き記されてきた、各王直筆の闘いの記録。
民や兵を失い、時には自らの子、妻を亡くした王達の悲痛な心境が綴られている、
各王の共通しているのは最後の一文
《出来れば戦いたくなどは無い、彼の者達のおかげで
どれ程国が栄えたことか!
何故、これ程までに優しいもの達と事を構えねばいけぬのか
願わくば、後の世で大活性を抑えられる発見があることを願う》
記された本の乱れた筆跡、涙の跡が痛いほど伝わってくる
「さて、じゃあラシュー、私は帰るね
ダビウスさんも、心配してるだろうし...。
それ、じゃあね!また終わったらお茶会にでも呼んでよ!」
「気を付けて、な?
また、必ず会えるように。。。」
さぁ、やらねばならぬことが山積みだ。
早急に片付けてしまわないとな!
シルフィーが玉座の間から出ると同時に
宰相のダビウスが急ぎ足で入ってきた。
「陛下!ご無事でしたか!」
そして、真っ先に出てきたのは謝罪ではなく私への心配。
「....ダビウス、どうやら相当私を怒らせたいらしいな?
先程の、二人にしろと言った時と言い、今と言い。
心配なのは分かるが、暫く頭を冷やしてくると良い。」
この国で私の「命令」がどの位の物なのか
自分ではよく分かっているつもりだ
それを、踏まえた上で.....。
『ダビウス・クロウズに対し以下の事を命じ言い渡す、
2ヶ月の謹慎及び登城を禁止する!以上だ。』
「ダビウス、暫くは私の事など忘れろ。家族と過ごしてこい。」
「へ、陛下.....」
玉座からトボトボと出ていくダビウス、
なにか、ずいぶんと老け込んだように感じるのは月日の流れ故か、入り口で振り替えって深々とお辞儀をする姿を見送る。
すまない、こうするしか私には分からない
許してくれダビウス。
弱っている場合では無いな、私も覚悟を決めねば。。。
「兵士長を呼べ!」
さぁ、魔族との戦いを始めようか。
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