第三章『男の娘戦士推進団体と秋葉原』
もりあがる教室、みなぎる心
「昨日の戦いマジすごかったよな~」
「あの動画は永久保存版ですわ」
学校にくると、昨日の戦いの話で持ちきりだった。悪い気はしない。でも、中身が俺だからなぁ……。
男から持て囃されるってのも、なんとも複雑な気分である。嬉しいんだけど、手放しで喜べないというか。
「私女だけど、マジあの娘押したいんですケド!」
……ま、女は女でも肉食系ギャル(通称ギャル子)から言われても嬉しくはないのだがな。俺はもっと黒髪で清楚な子が好きなんだ!
「ゆ~くん、おっはよー♪」
で、教室に入ってくるなり、当たり前のように弥生が抱きついてきた。
「ちょ、いきなり抱きつくなっ! 顔近いっ、顔近いからっ!」
「え~、いいじゃん。近くても。すりすり~♪」
「う、うおおおおおおおっ!」
顔の正面から頬擦りされる。やばいやばい。しかも、両手を背中に回して抱きしめられてるから逃げられないっ!
「牝野くんと双木くんのスキンシップ……今日も過激……」
「BL……BLこそ至高……」
「創作が捗るよね★」
……で、我がクラスの腐女子勢力からはヨコシマな目で見られるし……。変身してもしなくても、ネタにされることから逃れられない人生なのか、俺は……。
「ゆりちゃんも、おはようっ♪」
「あ、はいっ、おはようございますっ。昨日は色々と案内していただいて、ありがとうございました!」
「お役に立てたなら嬉しいよ。ボクは基本的に暇だから、いつでもまた案内するから♪」
すっかりペン子さんと弥生も友達だな。いいことだ。あとは、乙女のやつとも仲良くなっていければよいんだが、現状、敵同士だからなぁ……。昨日は、一緒に戦ったり、警察に囲まれたときに見逃してくれたりしたけど……。
そこへ、タイミングよく(?)乙女のやつがやってきた。
「よう、乙女。昨日はお疲れさん」
疑われないように、ごく自然な流れで話しかける。
「……」
乙女はと言うと、じーっと俺のことを見つめてきた。
な、なんだ? そんな無遠慮に見つめられると照れるんだがっ。というか、やっぱり、疑われてるっ?
「……ふむ、まったくイトコとは思えんな」
悪かったな! イトコどころか、同一人物なんだが!
「……あいつなら、俺とは無関係だぞ? 別に、連絡取ってないし、ここのところずっと没交渉だし」
とりあえず出任せを言って、無関係であることをアピールする。警察に捜査されるのはごめんだ。
「無関係かどうかを判断するのは上がすることだ。……なにか隠しているのなら、早めに言ったほうがいいがな?」
「べ、別になにも隠してナイゾ?」
ちょっと片言になっちまったが、この場は逃げの一手あるのみだ。まったく、非合法組織ってのは面倒極まりない。
「もう、おとちゃんったら、朝から硬い話はやめようよー♪」
弥生が今度は、背後から俺に抱きつきながら、乙女との会話を邪魔してくる。ナイスタイミングだ。もしかして、助け舟を出してくれたのか?
「ふんっ……まったく、男同士で過剰な触れ合いをしおって。そんなことだから、少子高齢化が進んでしまうのだ」
「ふふ、じゃあ、おとちゃんも男の子と付き合ったらどーかな? ほら、ゆーくんがいるじゃない♪」
どぅああぁああ!? 助けてくれたと思ったら、どういう方向に持っていこうとしてるんだ、弥生はーー!?
「ば、ば、ばっ、馬鹿者っ! な、なんで私が牝野なんぞとっ!」
乙女が赤面しながら、取り乱している。いつも日本刀のように冷たい奴なのに、珍しい反応だ。
「こ、こんなアホでグズでノロマで自立心がなくて守ってやらないと生きていけないようなだらしのない男なんて、お断りだっ!」
ひどい言われようだった。まぁ……俺も、乙女と付き合うとなると……正直、想像できない。
だって、こいつ俺なんかよりも男っぽいからなぁ……顔じゃなくて、メンタル面が。こいつ以上に男らしい奴なんて、そうそういない。
「うん、そうだよな。俺と乙女が付き合うなんて、ありえなさすぎだわ」
「えっ? ううっ……そ、そうだなっ! あ、ありえんことだ!」
なんか、一瞬、残念そうな顔をした気がするのだが……まぁ、気のせいだな。
乙女が名前の通りの乙女心を持ち合わせていないことは、長年の幼なじみ関係でわかってるし! こいつは、竹刀が友達、防具が恋人みたいなもんだから!
「うーん、そっかなー? 意外とボクはお似合いだと思うけどなー? でも、ボクもゆーくんのこと好きだから、二人が付き合うとなると困っちゃうかな?」
い、いや……そんな、ごく自然な流れで好きだからと言われても対応に困るのだが。俺はまだそっちの世界に行くには心の準備がっ。
「ゆりちゃんは、どう思う?」
「はへぇっ、わ、私ですか?」
突然話を振られたペン子さんは、きょどる。
「うん。ゆりちゃんはゆーくんのこと、好き?」
で、なんでそういう質問になるっ!?
「ふぇっ!? えっ、そ、その……それは……そのっ、な、なんと言いますか……」
ペン子さんがテンパリながら、両手をわたわたさせていた。
「あっ♪ その反応! ゆりちゃんもゆーくんのこと好きなの?」
弥生はニコニコしながら、さらにペン子さんに訊ねていく。
「え、ええとっ……そ、そのっ……あの……それは……」
ペン子さんはますます赤面していく。
まさか、ペン子さんが俺のことを好きだなんてことはありえんだろう。職務上の関係で、俺のことを世話してくれているわけだし。……そ、そうだよな?
「な、なんと言いますか…………そ、そのっ……雄太さんは、優しくて……す、好きですっ……」
な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?
……いやいやいや、待て、落ち着けっ!
これは、ライクの好きであって、ラブの好きじゃないはずだっ!
お、お、お、落ち着け、俺っ。なにを動揺しているんだ、俺っ。そ、そもそも俺を世話してくれるために派遣されているんだから俺に対して恋愛感情なんて芽生えるわけないだろ、俺っ。お、オレオレオレオレ……。
「わぁ♪ ゆーくんったら、やっるー♪ ボクとおとちゃんとゆりちゃん、三人同時に攻略するなんて♪」
こここ、攻略言うなっ!
「ちょ、い、いやいやいや……そ、そんなわけないじゃないかっ。お、俺とペン子さんはすごい健全な関係だからからからっ!」
いかん、動揺のあまり、日本語が乱れているっ。
「こうなったら、ハーレムでいいんじゃない? ボクなら、それでもかまわないよ♪ むしろ、そっちのほうが楽しそうだよね♪」
朝からなんちゅー話になっとんじゃーっ!
そ、そもそも弥生は男(?)だろぉおお! 男もいるハーレムって、どんな状態だ。戦国武将かなんかか俺はっ。信長や信玄じゃねーぞ、俺はっ!
「ま、まったく、なんという話にもっていっておるんだ! そ、そんな不健全なことは認めんぞっ!」
乙女が赤面してプルプル震えながら、抗議する。
ペン子さんはというと、「わ、私もハーレムの一員ですかっ……!?」と、なぜかますます顔を赤くしてテンパっている。
「それが、一番平和でいいと思うけどなー♪」
やはり、弥生の思考にはついていけそうもない。
ま、まぁ……悪い気がしない俺がいるのも確かなのだがっ。
「くそぉお、牝野の奴ぅううう……」
「俺、通販で藁人形買うわ……」
「こんなのおかしいよ……」
そして、教室のそこかしこで男どもの怨嗟の声が上がっていた。
なんだか、すまんな……。とりあえず、藁人形はやめてほしいが……。
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