女騎士クッコの受難

狐付き

プロローグ

「────ではこちらへ、クッコ=ローゼス」

「ハッ」


 王宮の謁見の間、クッコは王宮騎士団長に名を呼ばれ、はっきりとした返事を返した。

 そして足を進め、王であるフック=デ=パラハン三世の前で跪き、差し出された手にある国章が刻んである指輪に口づけをする。


 彼女はここ、パラハン王国にある侯爵、ローゼス家の三女であり、王妃の従妹に当たる人物である。

 平民や小貴族が騎士になった程度なら王宮で受勲などしない。クッコはそれほど特別ということだ。


 彼女は従姉であるである王妃とはとても懇意の仲であり、将来的には従姉の娘──つまり姫直属の王宮騎士団となる予定なのだ。


 だが身内ばかり贔屓しては周囲から反感を買ってしまう。

 そのためクッコは2年間を修行期間とし、そこで無事任務を果たし晴れて王宮騎士団へと上がる予定なのだ。

 元々騎士学校を首席で卒業し、最年少ながら熟練騎士と遜色のない剣の腕を持っている彼女であれば、その程度の期間の仕事で王宮入りしても誰が文句を言おうか。


 しかしそれでも不安はある。もし任務の中で死亡するようなことがあったら。そう考えてしまうとなかなか他所へ送り出せない。

 そこで目を付けられたのがジョク領。隣国と接している、つまり最前線だ。ここの防衛を任せることにする。


 とはいえジョク領と接している国は弱小国……というよりもほぼ属国に近いものであり、ここ10年はなにも起こっていない。

 最前線とはいえど戦争の行われる心配がなく、王都から然程遠くもない。これほど丁度いい場所は他にあろうか。


 本人の意思とは無関係に、王とローゼス侯爵は水面下でそうなるように仕向けていた。




「お嬢様、受勲おめでとうございます」

「ありがとう、ラン」


 王宮を出たところで幼馴染の御付き、エイムン男爵の娘であるラン=ド=エイムンが笑顔で話しかけてきた。

 同じ年齢なのに、クッコと比べるととても幼く見える彼女だが、これはクッコが実年齢よりも成熟した肉体を持っているせいであり、ランの見た目は実年齢よりも少し低く見える程度だ。


「それで、どちらへ就かれるのですか?」

「ジョク領だ」

「ああ、サディス=ジョク様の」


 ランがニコニコしながら納得する。

 ジョク伯爵はランの実家であるエイムン男爵家の遠縁であり、ローゼス家ともそれなりに通じている。そこならば大きな問題もなく務めを果たせるであろう。


 ただひとつの問題を除いて。


「でも確か、ジョク領には大きな森があるという話ですよね」

「ああ。魔物や犯罪者が潜んでいるといううわさだが……」


 洞窟あり、湖あり、廃墟ありといった深い森だ。普通は人が来ないため、盗賊などが生息しているという情報もある。

 とはいえあくまでもうわさだ。実際にいるとは限らない。それに騎士として配属されたからといってそこへ行くとも限らない。


 心配し過ぎもよくないなと二人は笑いあった。

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女騎士クッコの受難 狐付き @kitsunetsuki

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