そんなもんじゃない(いわゆるテレビに出ている障害者みたいにきれいじゃない)
まこにゃ
第1話ある中途障害者のお話
あたしは事故をおこした、17歳になってまだ幾日もたたないうちに。
事故の記憶は覚えていない。
と言うよりも、あたしは「事故をおこした」という話を聞いたのは、
病院のベッドの上だった。
からだが、そこにあって、半分そこにはなかった。
目覚めた時の感覚とかも、よく覚えていない。
断片的に覚えているのは、当時あたしのリハビリ担当だった理学療法士が、
「まだ若いのに、可哀想に」と言って、あたしの動かなくなった右足を、
懸命に曲げたり伸ばしたりしている情景。
事故前後の記憶は、あたしにはない。
これから出てくる話も、みんなまた聞きだ。
車と私の自転車がぶつかったらしい。
直進する車が、行き先を間違えたことに気付いて、
慌ててUターンしたらそこにあたしがいた、
っていう、どうしようもない設定だった。
誰かが救急車を呼んでくれたらしい。
その救急車であたしは救急病院へと直行した。
しばらくして、両親が来た。
あたしはすごく怒った顔をしながら、
目の前にいる運転手を指さしてこう言ったらしい。
「あいつが悪いんだ!」
病院でいろいろ検査をして、鎖骨骨折や擦り傷・切り傷などもあったので、
今日一日入院してったら?と、そのお医者さんは軽い気持ちで言ったと思う。
その夜。
看護師さんが点検しに来ると、異常があったらしく、
そのままMCUやらなんやらに運ばれた。
病名は、脳挫傷。
ここから初めに戻る。
たぶんその時は、脳挫傷なんて言葉、
あたしの頭の中では「ノウザショウ」だった。
つまり、言葉の羅列であり、よくわからないものだった。
ノウザショウなんて、すぐ治るんだろうななんて、漠然と思ってた。
リハビリの先生にも聞いた。
親にも聞いた。
寝ると、次の日の朝治ってた!やっぱりね!
・・・ってことはなかった。
ただ、その夢は何回も見た。
今はもう、あきらめたけど。
リハビリの先生が、それまではあたしのベッドの上で、
悪い足を曲げたり伸ばしたりしていたが、
次に来たときは車いすを持ってきた。
リハビリの先生の介助で、なんとか車いすに移った。
そこで結構愕然としちゃったんだ。
あたしは車いすに乗るのも、一人ではできないんだ・・・
それでもなおも、わたしの「ノウザショウ」っていうのは治るもんだと思ってた。
リハビリ頑張ってやったら治るんだ、って。
でも、一度目の限界が来た。
担当の先生が定期的に見てくれて、言った言葉。
「これはもう症状固定だね。診断書書くから、
早く障害者手帳もらったほうがいい。」
事故をおこした日から、3か月以上もたっていた。
「あとはなるべく、例えば悪いほうの手でドアを開けてみるとか、
日常の動作がリハビリだからね。」
そして3か月以上いた病院にやっと別れを告げ、
あたしは両親に連れられて、自宅へと戻った。
それから20数年。
あたしは俗にいうニートになってた。
だって、ほかの障害を持ってる人は、働きに出られる。
あたしは、パッと見は中の下の、どこにでもいる一般人。
いや、下の中か・・・
はっきり言って不美人だった、生まれた時から。
そんな不細工で、一見障害者だとわからない人間には、結構世間は冷たいんだ。
いくつも作業所やNPOを回った。
あたしは自家用車を持っていたから。
でも、何かが合わなかった。
行ってみて、作業してみて、これじゃない感を持っての繰り返し。
その日もなんとなくテレビの録画消化をしてたら、とあるアニメが目についた。
主人公のふたりは、一見すればお似合いで、
女の子は美少女といえる女の子だったし、
男の子もどっちかって言ったらイケメンだった。
劇場版だったらしいが、あたしは、ああまた、と思ってしまった。
光の中に登場する「障害者」
あたしは影だ。
その少女は耳が聞こえないらしい。
それでも最終的には、男の子とハッピーエンドになるんだろう。
じゃああたしは?
美人でもなく、仕事に就くこともできないまま、ここで最期を迎えるんだろうな。
そう思っちゃった。
確かに、メディアに出るのって、ブスより美人がいいのはわかってる。
でもね、その陰に隠れた、ものすごーく一般的な顔、一般的な顔よりひどい人は、
表になんか出られないよね。
生きててすいません、って誰かが言ってたけど。
あたしはいったいいつまで生きれば死ねるんだろう?
不自由な半身を抱えたまま。
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