第30話 焦燥
「おかしいな」
一方、パトラの試合を見ていたジルは、近接戦でも剣士に引けを取らないパトラの動きに感心していたが、相手の剣士が身体強化を発動させたところで険しい表情を浮かべた。
「おかしいか? 俺にはそうは見えなかったんだが……」
「いや、まあ、そりゃそうだろうね。でも俺の知る限りって話なんだが、あの剣士は魔法を使えないはずでね……。訓練したにしても一朝一夕であんな制度の高い魔法が使えるとは思えなくて」
「……協力者でもいるのか?」
「そう決めつけるのは飛躍しすぎだ。ただどうもきな臭いな……」
ジルは不信感を募らせたまま、パトラの戦闘に意識を戻した。
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睨み合いの状態から先に動いたのは剣士の方だった。身体強化の影響で相当に強化された剣の一撃は迷うことなく振り下ろされる。それを見たパトラは、素直に後ろに飛びのく。
(思ったより強烈な強化魔法だったみたいね……)
不信感を感じたとはいえ、剣士の使う魔法(もしくはそう偽装した魔法)なのだから大したことはないだろうとタカを括っていたのだが、そう甘くはなかったかと修正しておく。何らかの道具を隠し持っていた可能性も考えてはいるが、それが何なのかわからない以上は指摘しようがない。それに、不正があるならその上からさらに捻じ伏せてやれば文句も出ないはずだ。
「とは言えここまで苛烈な攻撃をされるのは面倒よね……」
敵の攻撃をさばきながら、パトラは内心、少々ばかりの焦りをくすぶらせる。身体強化を解除させることができれば、先ほどのような展開に持っていける可能性はあるだろう。強制解除の魔法は存在することはするし、パトラにも使える物だ。ただ、かなり複雑な詠唱を必要とするものであり、1対1という状況ではとてもではないが発動できない。
そう考えるとだんだんじれったく感じてくるのがパトラという人物である。
「めんどくさいわね、ドチクショウ」
パトラは悪態をつくと、風魔法を使って勢いよく敵の間合いから離脱する。少々勢いが着きすぎたか、両者の間は10歩ほどの開きになる。
「逃げたか、小娘が」
パトラは無言で、手に持った棒を握りなおすと、大きく振りかぶる。何をするつもりか感づいた剣士が防御姿勢を取ろうとするより早く、パトラはそれをぶん投げた。それは、剣士に当たることはなく、そのすぐ横をかすめていく。剣士はそれを目で追ってしまった。
「はあ!!」
その一瞬の隙をついてパトラは距離を詰める。風魔法を乗せたほぼ突進に近いような攻撃。それに反応しきれなかった剣士は、鎧の上からでも充分すぎるほどの衝撃を受け、勢いよく吹き飛んだ。
そのままパトラは追撃をかけようと、剣士へと迫った。
その瞬間。
「ぐ……」
うめき声とともに、鮮血が舞った。
パトラの肩口に、地面から突き出た土の槍が突き刺さっていた。
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