第8話 危機感
ダルクがカリギュラが帰還していないことを知ったのはギルドへの報告の後だった。ギルドの受付の女性は星1二人の成果にかなり驚いてはいた。ギルドへ討伐証明部位を渡し、素材を買い取ってもらって二人で銀貨65枚を得た。パトラが遺跡の隠し通路についてはカリギュラの前で言って驚かせようと提案したため、まだ報告していなかったが。
ギルドの受付の反応も踏まえて自信を増したパトラはこれで勝てると息巻いていた。ところが、肝心のカリギュラはといえば姿を見せていなかったのだ。はじめ、ダルクも用心深く、確実な勝利を得るために遺跡にいるのだろうと考えていた。
「意外と用心深い奴だったか。ちょっとマズイかもしれないな」
「……気にしないことにしていいかしら?」
という風に何の気もなしにパトラと雑談していたのである。ダルクはもし負けるということがあればパトラを抱えて逃げるつもりでいたのだから気が気ではなかったのだが。
しかし、いくら待っても目的の人物が現れない。パトラは逃げたんじゃないかとか言ってイライラし始めていたのだが、ダルクはそれはないと一蹴していた。ダルク達のことを歯牙にもかけないような態度はこちらのことを脅威とも認識していないものだろう。そんな奴が、しかも欲にまみれたように女性を従えていたやつが、得られると考えている利益を放り出して逃げるとは思えない。だからこそ用心深いことにも疑問に思ったのだ。
「それにしても遅い! もう昼食時になるわよ!」
「確かにおかしいですね……。そろそろあのクエストの報告時間は終了します。規定時刻以降の報酬は減額されるのですが……」
受付の女性もギルドに設置された魔法道具である時刻計はもうすぐ昼2の刻を示そうとしている。受付終了の時刻だ。報酬の減額は冒険者をするものとしては避けるべきことなのだ。星6の冒険者がそんなことをするとは思えない。
「……もしかして」
「ああ、パトラ。お前の嫌な予感が当たったかもしれない」
そういう話をしていたタイミングであった。6人の女性がギルドに駆け込んできた。遅れて1人入ってくる。その人物がすべてカリギュラのパーティーにいた連中だったことから、やっと来たかとダルクが言おうとする。が、それよりも先にその女性たちの一人が慌てた声を出した。
「カ、カリギュラ様が帰還しません!!」
「!!!!」
その一言で、受け付けの女性が絶句し、一瞬でギルドに緊張が走る。このギルドの職員は全員熟知していることがあった。カリギュラの女癖の悪さと欲深さはもちろんだが、女性との約束は破らず、心配させるようなことをしないのだ。そのカリギュラが仲間に連絡もしないまま失踪するのはあり得ない。その緊張感を感じたダルクとパトラも表情を真剣なものへと変える。
「おい、その様子じゃ、何かあったと考えていいんだな?」
「は、はい、間違いないかと」
「捜索隊は編成できるのか?」
「緊急クエストを発行します。星5以上になった方に説明することなんですけど、魔法道具を用い、登録証を通して効果範囲内の一定以上の実力者に連絡を取ることができます。一刻以内に招集できるかと。しかしこのエリアは本来、危険度の少ないエリアですのでどこまでの方が集まるかは……。未曾有の危機とまではいかないので強制力も低くしか設定できませんので……」
その問答でダルクは顔をより深刻なものへと変える。軍時代の経験を考えるに星6冒険者が帰還しない現状から生半可な戦力を送り込むことはできない。
「ギルドはあの遺跡の隠し扉については知っているのか?」
「み、見つけたんですか!? 一応確認はしています。今回の掃討戦はその隠し通路の探索前の準備が目的です。現在、別の支部にクエストを発行してもらっていまして、冒険者が集まるのは一週間半後を予定しています。それまでは危険もあるので開けないことになっていますが……」
「……待って、開けてないの!?」
急にパトラが割り込んできた。それもそのはず、なんせあの扉は……
「そうだ、開けた形跡があった。ということは奴らはあの中に行ったのか……」
愚かにもほどがある。たいした準備もせず、強引に探索したなら失敗して当然だった。
「わかりました、あの内部には相応の危険があると認識します。こちらで探索のために準備していた物品をクエスト受領者にはお渡しします」
ギルドの職員があわただしく準備を始めた。一刻以内にすべての準備が整うだろう。
「……ダルク、念のため」
「ああ、準備しておこう」
ダルクとパトラがうなずき合う横で、ギルドの職員達がカリギュラの仲間たちにヒアリングを開始していた。
設定2 時間について
この世界では一日を24分割して、その1つを「刻」と表現する。それを8個ずつ、朝、昼、夜の3つに分けている。日本の現在の時間に合わせると朝の刻が3:00~10:59、昼の刻が11:00~18:59、夜の刻が19:00~2:59となる。昼0の刻が11時であり、今回の昼2の刻は13:00を示す。
ついでに補足
このギルドがある街に常駐している冒険者の中で一番の実力者がカリギュラでした。そのため、性格や行動パターンも熟知されています。その行動パターンから外れ、帰還していない=常駐の実力者を失う危険性があると判断されたため、緊急クエストが発行されました。
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