第4話 はじめてのくえすと

 時間になり、ギルドのスタッフがクエストの開始を告げ、大体30人ほどの冒険者が遺跡に入っていく。遺跡に入り込んだ魔物の掃討戦になるため、自分の足でどれだけ魔物を探し、討伐できるかという一点がそのクエストの報酬に直結する。各々の冒険者が各通路に入り込んでいくのを確認したダルクはというと、まだ遺跡の前にいた。


「まあ、普通は足で数稼ごうと考えるよな……」


「当然と言えば当然なんだけどねえ……」


 当初、ダルクとパトラも気楽に移動しつつ魔物を狩っていくことを考えていた。だが、その予定が崩れたのは先のパトラによる言い合いが原因であった。このせいでパトラは彼らに勝つことを目的にしたのだ。そもそもパーティーの人数を考えれば相手のほうが確実に有利であり、星6がいる以上、まともにやっては万が一にも勝つ見込みはない。ならまともじゃない方法をとるのが一番であり、そのために一度出遅れてでも作戦を決めることにしたのである。

 とは言っても作戦自体は決定している。それは、魔物を引き付けて一網打尽にするという作戦であった。

 魔法には、『誘因』というものが存在している。魔物の敵意を誘う者を発生させることで発動した地点に魔物を引き寄せるというものだ。これにはいくつか種類があるが、火属性なら温度、風属性なら香り、雷属性なら電気信号で魔物を引き付ける。しかし、闇属性魔法の『誘因』はその3つよりも強力な効果を示す。なんでも、闇属性の『誘因』は魔物に内在する魔力に対して干渉するらしい。魔物は進化、または発生の過程で魔力の影響を受けたものである。そのため、魔力に干渉されることを嫌うという性質がどの魔物にも必ずある。それを利用するため、あらゆる魔物を引き付けることが可能となる。

 これを使い、引き寄せた魔物たちを大広間で殲滅する、これがパトラの示した作戦内容である。ダルクからしてみれば、作戦というのもおこがましいレベル、正気とは思えないものであったが、もう付き合うしかないとあきらめることにした。パトラは言っても聞く耳など持たなさそうなのだから、初めからあきらめたほうが労力を使わずに済む。

 というわけで、二人で地図を確認し、まず殲滅戦を行う大広間を選ぶところから始めることにしたのである。この遺跡は結構広いが、一日で行って、ある程度戦って帰ってくるくらいは余裕だろうというのが二人の計算である。クエストは今日の日が赤く染まるころから明日の朝くらいまでに報告しに行けば達成となる。暗くなっても町までは余裕で帰れる距離なのだから、報告を明日にすればギリギリまで狩りをしても大丈夫だろう。


「というわけで、ここがいいだろう」


 と、ダルクが指さしたのは遺跡の最奥地に位置する大広間であった。遺跡の深い位置にあるその大広間はかつてはゴーレムがいたらしい。石の魔物に分類され、自然発生もするゴーレムだが、意図的に作成し、ある程度の命令を実行させることができる。そのゴーレムの命令はこの遺跡の守護であったらしい。しかし、そのさらに奥には何もなく、何を守護することを目的に作成されていたのかがまるで謎だったという。それゆえ、調査が継続されており、定期的にこのクエストが発行されるのだという。

 で、ダルクがその大広間を選んだ理由としては3つ。第一にそこまでくる冒険者が少ないということが予測されること。このクエストに参加している冒険者の半分以上は駆け出しである。駆け出しならよほどのバカでもない限りは奥地までは進まない。ならば自分たちがそのよほどのバカになれば悠々と狩りを行えるのだ。第二に、魔物の数の予測から。奥地まで進まない冒険者が多いなら、魔物の数は奥地に行くほど多くなると考えられる。どうせかなりの量狩らないといけないのならば、初めから多いところに突っ込んで行く行為は愚策とは言えない。そして第三に力の誇示。自分たちは強いのだということを周りの冒険者に宣伝するのだ。これはパトラの喧嘩ゆえに、あのパーティーにも最低限強さの証明をする必要があるが故である。


「異論はないわ」


「ま、当然と言えば当然か」


 このクエストで遭遇が予測される魔物は小人のような外見で、知能が低く本能で生きるゴブリンを中心に、虫系の魔物である大型の蜂、キラービーや芋虫の魔物、ワーム等、弱いものである。凶暴なウサギであるイビルラビットの群れやゴブリンの変異種も予測はされている。大物はホーンヘラクレスやワームの成長したイビルモスなどになる。この程度ならダルクでも余裕で倒すことができる。その上、パトラはその大物のホーンヘラクレスを一撃で消し炭にできるのだから心配は無用だ。

 方針も決まったところで、ダルクは肩を鳴らす。その様子をみて、パトラもにやりとした笑みを浮かべ、やる気を出す。


「こちらとしてはこんな争いをすることすら不本意なんだよ、無駄でしかない。そのことを理解しやがれ」


「そうは言ってもガキって言われたら黙ってられないわ。気にしてるんだから。これでも36なのよ、私の種族的には若いほうだけど」


 と、ダルクの嫌味に対して語るパトラの顔にはとても邪悪なほほえみが張り付いていた。ダルクはこれが魔族か、という感想とともにその怒りの矛先が自分でないことに安堵する。なんというか、パトラに勝てる未来が見えないのだ。ダルクは得も言われぬ恐怖に顔をひきつらせたが、ため息を一つついて気持ちを落ち着けた。


「まあいい。さっさと行こうか、勝負するからには勝たないといけないだろ。それ以上にお前をあいつの好きにさせるとか心配だ。確実に碌でもねえことだとゴブリンでもわかる」


「まあ、あんだけ女ばっかり引き連れていたらね。というか心配してくれるんだ、優しいじゃん、ダルク」


「うるせえ、そもそも事の発端はてめえが乗せられたからだろうが」


「……ごめんよ、ダルク」


「謝るんなら初めからやらないで欲しかった」


 ダルクはため息をつき、パトラは笑う。その後、お互い顔を見合わせると腕をぶつけ合った。冒険者がよくやる、あいさつのような行動だ。


「ま、よろしく頼む」


「大船に乗ったつもりでいるがいい」


「泥船じゃねえだろうな」


「ハハハ、大丈夫よ」


 二人は軽く言い合うと、遺跡に足を踏み入れた。

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