あなたの色に恋をして
山芋娘
第1話
お題【音色】
赤、黄色、白……。この世界に溢れる音は、色として、彼女の目に映る。
植西梨里杏は、教室でヘッドホンをして寝ている。ヘッドホンから流れてくるのは、海の音。
目を開けていると、色が溢れてくるため疲れてしまう。授業と授業の間、休憩時間はなるべく目を閉じ伏せるようにしている。
ヘッドホンもなるべく音を遮断するためにだ。
「ん〜、今日は機嫌悪い人が多いな」
机に伏せた状態で、腕の隙間からクラスにいる生徒たちのことを見てみる。
色が濁っていたり、攻撃的な色で、梨里杏は疲れていた。
人の言葉の色が、梨里杏にとって全てのように思えた。そのためか、恋もまだしたことない。
何度が告白されてきたが、自分の好みの色でないため、全て断ってきた。
「梨里杏」
「ん〜」
「ねぇねぇ」
「……なに?」
梨里杏を起こしたのは、隣のクラスの狭間尚子。1年の時に仲良くなってから、クラスが離れても、仲良くしている。
その理由は単純。梨里杏が嫌いな色でないということ。そして尚子も梨里杏のことを気味悪がらないため、仲良くしていた。
「今日さ、声楽部行ってみない?」
「なんで、また急に」
「ちょっと凄い先輩見つけてさ」
「へぇ」
「見てみたいの! 聞いてみたいの! お願い」
両手を合わせ、梨里杏を拝むように、尚子が目を瞑る。
梨里杏は一度大きくため息を吐くと、「はいはい」と答える。
その日の放課後。
梨里杏は、相変わらずヘッドホンを付けたまま。尚子は梨里杏の腕を掴み、引っ張るように歩いていく。
『声楽部』と、書かれた札が下げられた部室の前に着いた。
「声、聞こえないね」
「防音なんじゃないの」
「なるほど」
「早く。私、早く帰りたい」
「もう、そういうこと言わないでよ」
「開けるよ」と、梨里杏に声を掛け、部室の扉に手をかけゆっくりと開ける。
小さく開け、隙間から覗いてみる。隙間からは綺麗な歌声が響いてくる。
「見学しますって行って入ればいいのに」
梨里杏の言葉を聞いていない尚子。
梨里杏は尚子の後ろで、声楽部に全く興味を示さなかったが、中から聞こえてくる声になにか反応した。
「綺麗な、色……」
ヘッドホンを外し、梨里杏も尚子と同じように隙間から覗く。
部室の中では、ピアノを弾きながら歌っている生徒がいる。
「音色が、歌声が、綺麗……。こんな人、初めて」
今まで様々な音を聞き、色を見てきた梨里杏。テレビを通してだが、世界一の歌声や世界で活躍するピアニストなど、様々なものを聞き、見てきた。
けれど、こんなにも美しい音色を出し、美しい歌声で歌う。
梨里杏の目に美しい色をもたらした人は、今目の前で歌う生徒が初めてだった。
「うん。満足! 帰ろっか、梨里杏」
尚子は満足したというが、梨里杏は聞き入ってしまい、尚子の言葉など聞いていなかった。
その次の日から、梨里杏は声楽部の先輩の歌声を聞きに、通い始めた。
それが梨里杏の初恋。
あなたの色に恋をして 山芋娘 @yamaimomusume
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