魔法少女WF

人生

<第1話>

プロローグ 愛憎の交差点




 ふっざけんなよ、クソったれ――!



 思わずそう叫びたくなった。


 ――は魔法少女になれないはず。


 じゃあなんだ、こいつは。



「こういう、人生毎日楽しいですぅ……みたいなリア充の化けの皮を引っ剥がして、そのきったない本性曝け出すのが私の趣味なのぉっ!!」



 ……イカれてる。


 泥みたいな愉悦に浸った陶酔顔で嗤うそいつの腕の中には、ぐったりと倒れ込んだ少女の姿がある。まるでそれは物語の中の、吸血鬼に囚われた花嫁のように見えた。

 晒された白く細い首を舐めるように、愉悦に濡れたそいつの視線がなぞる。

 そしてその瞳は、眼下にいるこちらを捉えると、うっとりとした歪んだ悦びを滲ませた。



「あなたの親友のぇ……私が頂いちゃうねえっ!?」



 心底から嬉しそうな哄笑が、無人の街に響く。


「こ、の……ッ」


 ギリリと奥歯を噛む。心が軋みを上げた。

 にんまりと邪悪に笑むそいつは、さながら宝石を盗んだ鴉のようで――上空に佇むそいつを見上げるだけの自分が、まるで地に這いつくばる惨めな虫けらのように思えた。


 鴉が舞う。

 そいつの狙いは――お互いの間で蠢く闇色をした〝ケモノ〟だ。


 普段なら……他人の『狩り』に口出しなんてしないし、やるなら好きにすればいいと、対抗意識の欠片もなかった。

 今は違う。

 あいつにだけは――あいつだけは。



「ぶっ殺してやる……!」



 身体の中で、心の中で何かが爆発する。



 ≪相手の勢いに乗せられてはダメですわ!≫



 そんな――怒りに支配される頭の中で、冷や水をぶっかけるような声が響いた。


 ≪それに、口調が素に戻ってますわよ、!≫


「あぁもう……うるさいわ!」


 怒りとは異なる別の何かで顔が熱くなる。

 だけど、今ので少しばかり冷静さを取り戻した。


「なんであんな変態が魔法少女なのよ!? あんな悪い奴……悪女っていうかもはやが!」


 ≪ですわ≫


 だからその力をどうして与えたのかと――


 ≪の考えなど知りませんですわ! わたくしに聞かないくださいますのっ!?≫


「あんたがぶちギレてどうすんのよ! 私を冷静にさせるのがあんたの役割でしょう、ラヴィ!」


 あぁもう、ほんっとにクソったれな状況だ――



「こうなったら、使!」



 紅い装束の魔法少女ラフ・ルージュは駆ける。

 イカれた魔女を粛清するため――


 大切な少女を取り戻すために。



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