ドクターペッパー無双~世界の秩序を守る女子高生乱入~

「……ぐっ!? な、なんだっ、てめぇはぁっ……?」

「…………通りすがりの……ドクターペッパーが好きな女子高生」


 俺は、わずかに顔を上げて、声のしたほうを見る。

 そこには、手のひらを突き出した、水色の髪の美少女――水無瀬氷が立っていた。


 岩山田兄のほうを見上げてみると、振り上げた右手が腕の付け根から指先にかけて氷に包まれていた。どうやら『氷雪凝固』というのは水無瀬の魔法らしい。


 その水無瀬は、左手にドクターペッパーの缶を持っていた。それを傾けてゆっくりと唇に持っていき、んくっんくっと喉を鳴らして飲んでいく。


「ぷはっ……ひっく」


 しゃっくりをする水無瀬。まるで、緊張感がない。


「てめぇ、岩山田さんの邪魔すんじゃねぇ!」

「俺、こういう子好みだわ! ドクターペッパーみてぇなクソマズいもの飲んでねぇで俺とカルピス飲もうぜ! ぎゃははは!」


 近くにいたDQNどもが水無瀬に近づくが――


「……ドクターペッパーの悪口は許さない。氷雪乱舞」


 突如として発生したブリザードによって、DQNたちは吹っ飛ばされる。


「ぎゃあああああああっ!?」

「うぐぇえええええええっ!?」


 DQNたちは暴風でもみちゃくちゃにされながら、無数の氷と雪に殴打されていく。風が収まったときには、十人ほどのDQNまで巻き添えになって倒れていた。



「……てめぇ……俺の邪魔しやがってぇ……ただじゃおかねぇからなぁ……」


 岩山田兄は、標的を俺から水無瀬に変えたようだ。

 依然として右手は凍ったままだが、左手だけで構える。


「……ドクターペッパーを愛する同志を痛めつけた者は、許さない」


 ……同志って、俺のことか?


「それに、この世界の秩序を守るのが私の務め。……んくんくっ」


 そう言って、再びドクターペッパーを口に運ぶ水無瀬。

 だが、それは相手に付け入る隙を与えることになる。


「迅突っ!」


 岩山田兄が、魔力を行使して一気に間合いを詰める。


「水無瀬っ!」


 俺が叫んだときには、岩山田の拳が水無瀬のボディに決まっていた――


「ぐぁああああああああ!?」


 ……はずだった。


 岩山田兄は叫んで倒れこみ、ゴロゴロのたうち回る。

 一方で、水無瀬の周りには氷のようなバリアが張られていた。


「氷雪障壁は自動で発動する。こうしてドクターペッパーを堪能している間でも……んくんくっ……ぷはっ」


「……ぐっ……て、てめぇぇ……ちっ……!」


 岩山田兄はゴロゴロしながらも距離をとって立ち上がり、バックステップを繰り返して距離を取っていく。


「……んくっ、んくっ……」


 水無瀬は岩山田兄に興味を失ったかのように再び缶に口をつけてドクターペッパーを飲み始めていた。ものすごい余裕だ。


「……へ……へへへへ……俺をここまで怒らせた奴は初めてだぜぇ……?」


 岩山田兄は目を血走らせながら、水無瀬を射殺すように視線で見つめる。

 右手が凍り左手にダメージを負った状態でも戦意を喪失していない。完全に詰んでると思うんだが、まだ策があるのか?


 だが、水無瀬はそんな視線をものともせずに、ドクターペッパーを堪能していた。 まさにアウトオブ眼中といった感じだ。

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