放課後のファーストフード~メインヒロインの疑問~
授業は滞りなく進み、放課後になった。
昨日は鍛錬だったけど、今日は偵察がてらこの世界の街にでも出てみようかな……と、そう思った時だった。
「永遠。あんた、今日、時間ある?」
勅使河原が俺の席にきて、そんなことを言ってくる。
なんだ、やっぱり俺は勅使河原ルート(?)に行くことになるのか?
「え、時間はあるが……なにか用か?」
「さっき話が途中になっちゃったでしょ? 他にも、ちょっとあんたに訊きたいことあるのよね。……で、ちょっとお腹空いたから街でファーストフードでも食べながら訊こうかなって」
いや、普通は学外でふたりっきりだなんてカップルに間違われるようなことはしないと思うのだが……。勅使河原は俺とそう思われてもいいってことなのか? まぁ、ただ単に本当に腹が減ってるだけなのかもしれないが。
意図はわからないが、ここで断るのもどうかと思う。勅使河原とも親交は深めておいたほうがいいだろう。ルートとかそういうのを抜きにしても。
「わかった。じゃあ、行こうか」
美涼からは勅使河原に近づくなって言われそうだが……。やはり、勅使河原と一度ちゃんと話してみたい。せっかく、こっちの世界に来たんだし。
俺と勅使河原は学校から駅前へ向かった。
どことなく、現実世界の地元の駅前と雰囲気が似ている。そりゃ、俺が作り出した世界だから、そうなることは当然なのかもしれないけど。
俺たちはファーストフード店に入ってそれぞれメニューを注文すると、二階の席に上がった。窓からは街並みと通りを行き交う人々を見下ろせる。
「……で、あんたが岩山田たちをやったの?」
勅使河原はハンバーガーに手をつけることなく、いきなり核心部分を訊ねてきた。
ここで事実を――美涼の異様な強さについて話すのもどうかと思う。なんとなく、それは伏せておいたほうがいい気がしたのだ。
「……あいつらは俺が倒した」
だから、俺は嘘をつくことにした。実際の力を出すことができていれば、本当に楽勝で倒せたはずだ。
「ふーん……」
勅使河原は俺のことをじーっと見つめてくる。どうやら俺が嘘をついていないかどうか確かめているかのようだ。
「な、なんだ? 疑ってるのか?」
「そりゃ、ね? だって、あんたクラス内最下位なのよ? それが三位を倒すってのはおかしいと思うでしょ? でも……私は、あんたがただものじゃないってわかってるから」
「は? 俺がただものじゃないのがわかってるって、なんだそりゃ?」
まさか、勅使河原も俺の正体とこの世界の秘密がわかっているのか?
「あたしは……なんとなく、わかるのよね。その人物の秘めてる潜在能力っていうのかな……まだ発揮していない力を」
「発揮していない力?」
「そう。あんた、まだまだ力を出せるはずなのに、出していないでしょ? 出せないのか……出してないのか……その判断はつかないけれど。でも、その力を出せたのなら、岩山田たちを倒したってのは頷けるのよね」
さすがに学園一位レベルともなると、そういうものもわかるのか。
「あー、なんだ……うん。……そのとおりだ。俺は秘められた力を発揮して、岩山田を倒したわけだ」
本当はその力を発揮したわけではないが、そういうことにしておかないと美涼の存在に話が及んでしまう。
「そうなの? あんたやっぱりただものじゃないと思ってたけど……やっぱり、強かったんだ?」
まぁ、そのはずだったんだけどな。今のシンクロ率じゃ岩山田の手下にすら敵わないんだが。
「あー、まー、うん。俺が本気を出せば岩山田なんて楽勝だー」
やや棒読み気味になってしまったが、ここは押し通すしかない。
「……あんた、岩山田の兄のこと知ってる?」
「岩山田の兄?」
……俺の考えた設定にあんな奴の兄なんていたっけか?
わざわざむかつく奴の家族構成なんて真面目に考えるわけはないと思うのだが……。記憶を遡る俺を無視して、勅使河原は話を続ける。
「あいつの兄って、ここらへんで有名な不良なのよね。だから、岩山田の奴がやられたとなると、復讐に来るかもしれないわよ?」
な、なにぃ……? そんな厄介な奴がいるのか……!
となると、また面倒なことに巻き込まれるんじゃないのか?
「でも、あたしも岩山田のこと嫌いだったから、あいつが校庭で無様な姿を晒してたって話を聞いたときは胸がスッとしたけどね。仮にもホームルーム長だから、岩山田をボコボコにできなかったし」
勅使河原もなかなか物騒なやつだった。俺の周りの女子は戦闘力が高すぎる。
「うちのクラスの女子全員から嫌われてたからね、あいつ」
まぁ、岩山田だからなぁ……。俺の人生経験の中で最も嫌な人物をかき集めて凝縮したような奴だし。
「……もし岩山田の兄とかがちょっかいだしてきたら言いなさいよ? あたしが加勢するから」
「俺の力をもってすれば一人でも余裕だー」
再び棒読みで応える。
こんなことに勅使河原を巻き込むのもな……。いざとなったら美涼に始末してもらえばいいわけだし。
「そうそう、それと……あの昼休みに教室に来た子たち……特に、美涼って子……あの子って何者?」
「何者って……そりゃ、妹子の友人だが」
「……なんか底知れない魔力を感じたのよね……一年レベルどころか、学校全体でも上位に入りそうなぐらいの……」
勅使河原の能力を見抜く力は本物のようだ。美涼のことまで察知しているとは。
「妹子ちゃんは学校でも有名な召喚魔法使いだから名前は知ってたけど……あの美涼って子、まったくの無名なのに……なんであんなにすごい力を秘めてるの?」
「いや、俺に訊かれても」
勅使河原の眼力はかなりのものだ。このままでは美涼と接触するのも時間の問題かもしれない。
そうなると、この世界の秘密を知る日もそう遠くないのかもしれない。その場合でも、勅使河原は思考停止するのだろうか、あるいは美涼のようなイレギュラーな存在になってしまうのか――。
「あんたが力を発揮したのと、美涼って子は関係あるの?」
「……ノーコメントだ」
いい線をついてくる。ほんと、このままじゃ勅使河原がこの世界の核心部分に迫るのも時間の問題かもしれない。
「まぁ、いいわよ。あんたたちの秘密、きっと暴いてあげるから」
そう言って、勅使河原はハンバーガーにパクついた。
まったく、完全に疑われてしまっているじゃないか……。こりゃまた厄介なことになりそうだ。
ともかく俺も、フィッシュバーガーに手をつけた。味はなかなか美味だった。現実世界のものより数段美味い。
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