終章 いつかまた、この小さな庭で⑩

「ちゅっ♪ んぷっ、むぅっ……。ふぷっ、む、ちゅぅぅ……っ♪」


 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」にて。

 由理ゆーりは、季紗きさの唇を吸い続けていた。


「ふぷっ、んむー。むっ、ちゅくん♪ ぬぷっ、ぬぷむぅ♪」


「ふ……んんっ♪ くっ、んーくぅ♪ ぬちゅっ、ちゅぅぅ……♪」


 さらさらロングヘアーのお嬢様、美少女メイドの季紗も、陶酔したように頬を赤らめ、舌を挿れ返してくる。


「んぷぅ♪」


 カラダを強く抱き締め合いすぎて……爪が食い込んで痛いくらいだけど。

 キスの甘さに、それどころじゃなくて。


(あれ……私、なんでキスしてるんだっけ)


 百合キスの味に痺れた頭で、ぼんやり思い出す由理。


(「リトル・ガーデン」をえっちなお店って言われて……それで……)


「ちゅぅ♪ んむぅ、んんっ♪ ふー♪ ふー♪」


 ピンクの舌で、お口の中をぐちゅぐちゅと掻き混ぜ合えば、奏でられるは愛の調べ。


「んっ……唾液、美味しい……♪」


 先生たちに、「えっちで何が悪いか!」って主張しようとしてた……ような気がする。

 するけれど。


(だ、だめっ。キスが気持ち良すぎて……もう、止まらないよー♪)


 学校のこととか、由理はぜんぶ、どうでもよくなってきた。

 唇を交わす季紗も、きっと同じ気持ち。


 いつの間にか美緒奈みおなにリズさんも加わって、4人でひたすら百合キスした。


「ちゅぅぅっ♪ むぷっ、んんむぅ♪ ぬぷっ、くぷぅぅ……♪ ふーっ、ちゅむぅぅ♪」


「ずぷっ、ぬぶぅぅ♪ ぐっぷ、ずぷん♪ むぶぅ、むぷぅっ♪ ふぅぅ、にゅぅぅぅー♪」


「みゅぅ、みゅぷっ♪ みゅっちゅ、みゅにゅ♪ みゅー、みゅむぅぅ♪」


「りゅぷっ、りゅちゅっ♪ りゅんっ、りゅふぅぅ♪ ちゅりゅっ、りゅりゅぅぅ♪」


 なんのためにキスするのか、とか。キスが何かの役に立つのかとか。

 意味も理屈も、そんなもの要らない。

 女の子同士の百合キスは、甘くて、刺激的で……だから大好き。好きだから、する。

 きっと、それだけでいい。


 大切な百合メイド仲間と、唾液糸を繋ぎ合わせながら……由理は、ときめく胸の内を、誇らしく宣言した。


(んっ……♪ そうよ、えっちでも、イケないことでも……私は、これが好き。百合キスが、大好き。大好きなことを……止めたりなんかできない。それが……生きてるってことだから!)


「ちゅー♪ ちゅぷ、ちゅぅー♪ ちゅ、ちゅちゅっ♪ んぷっ、るちゅぅぅぅ……ん♪」


 宣言したつもりだけど、キスしながらなので、リップ音にしか聞こえなかった。


「……えと。これは、なんですか?」


 先生と、会計の女の子は赤くなりながら、ぽかーんとするしかできない。

 けれど「リトル・ガーデン」のお客様たち……筋金入りの百合娘な皆さまからは、高らかな拍手が。


「感動した―! 伝わりました、伝わりましたよ由理先輩っ。貴女の熱い気持ち!」


 代表して栗色ショートカットの百合メイド、宮野りりなが、先生たちへ説明する。


「私たちは! 生きてるのです。生きてるんだから、好きなことをしたくなるのは当たり前。周りの眼がとか、イケないことか、とか。そんな理屈で抑えられないし! 善悪がどーとかじゃなくてっ、私たちは! 百合が、百合キスが大好きなんだからぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「……はぁ。ソウデスカ」


 会計の眼鏡っ子が感動してないようなので、りりなはさらに力説。


「百合キスは、最高なんですよ? 星だって救っちゃうんだから! ねー早百合?」


「ふふっ、そうね、りりな。だから私たちも、キスしよっか。……ちゅぅ♪」


 こうして……由理たち4人の熱に当てられて……お店中に百合キスの輪が広がっていく。


「……ちゅっ♪ んむー、むぷ♪ ぬちゅぅん、ずっぷぅぅ♪」


「ずちゅっ、ぐちゅん♪ ぐっぷ、ぐちゅぅぅ♪」


 乙女たちが生の喜びを謳歌し合う……百合キス空間。

 小さいけれど、確かにここは……人の生きる喜びを、歓喜の歌を口づけで奏でる、平和の園。

 星の彼方の神様へ、人の輝きを伝える……小さな小さな、聖なる百合の花園「リトル・ガーデン」!!


 ……という風には先生たちには伝わってなさそうなので、理性を保ってる人たちがフォロー。

 具体的には店主マスターとおるお姉さんと新人メイドの千歌流ちかる、あとお客様で来てた、リズさんの学校の香織子かおるこ先生が、赤くなりながら説得した。


「……ま、まぁ、こんな、変な子たちだけど。彼女たちは本気で、こういうのが好きなわけで……温かい目で、見守ってあげて、もらえませんか?」


「は、犯罪じゃないし、キスも同意の上ですしね? 先輩たち幸せそうですもの、い、良いことなんじゃないでしょうかっ」


「えっと……教育には悪い気がしますけども。あんなにも、好きなコトに夢中になれるのって……素敵かもしれませんよ。生きる喜びっていうのか、それは学校でも教えられない、大切なことじゃないでしょうか」


 真剣な瞳で語る店主マスターたちの後ろで、


「ちゅぅぅっ♪ ちゅぷっ、ぬちゅぅぅ……んんっ♪」


 由理たち、激しい音たててキスしてた。

 店主マスター赤くなりながら、


「あ、ちなみに私、この店の主ですけど。ノンケですよ?」


 この状況では説得力が皆無だった。


 ※ ※ ※


 ……そして。

 ようやくキスに満足して、由理たちが唇を離した頃には。


「あれ……先生たち、いない?」


 すっかり夜も更けて、閉店してた。

 店主マスター透お姉さん、頬を染めて、


「だって、あんな熱々百合キス見せられたらな。どうでもよくなっちゃったみたいだぞ、停学がどうとか」


 苦笑しながら、


「『生徒たちが本当に幸せそうなら……教師として、それは喜ぶべきこと。そう思い込むことにします』ってさ」


「……てことは!」


 季紗が目を輝かせる。


「やったね由理! 停学の危機も、百合キスで解決だよぅ!」


「お、おー!?」


 美緒奈とリズさんの拍手を受けながら、由理と季紗でハイタッチした。


「さすが季紗姉たちだぜ。どんなピンチも百合キスで乗り越えるとか、かっけー♪」


「ふふ、百合キスの素晴らしい力、偉大な可能性……改めて、教えられたわ♪」


 美緒奈もリズさんも感動してる中……新人メイドの千歌流だけ、脱力した感じで、


「す、すごい無理やりね……」


 呆れるその肩を、透お姉さんがぽんと叩いた。


「でも、幸せそうだろ? だから、この行為が……百合キスが好きな子たちのために、うちの店が必要なんだよ」


 目を細めて、微笑む店主マスター、百合メイド喫茶の存在意義を語る……。


「あ、でも私はノンケなんだぞ?」


 やっぱりこの状況では、千歌流に信じてもらえなかった。

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