終章 いつかまた、この小さな庭で①

 2月下旬、春はもうすぐそこ。

 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」でも、卒業に進級、入学の話題に花が咲く。


「わ、円美まるみお嬢様、秋芳しゅうほう受かったんだ」


 春からお店の後輩となる常連の中学生、前園まえぞの円美お嬢様から報告されて。

 由理ゆーりは驚いた。


「はい。……その、高校でも由理お姉さまと、キスしたいですので♪」


「ふぇぇ!? そ、そんなに私のこと……」


 秋芳女子学園高校……由理と季紗きさ、あと新人の千歌流ちかるが通う女子高に、彼女も来年から……。


「あ、あのっ、お姉さま。私、受験がんばりましたので……ご褒美、くださいませっ」


 黒髪で小柄な円美お嬢様、頬を染めて、由理へおねだりするのは?


「ご、ご褒美は……キスがいいです……♪」


「お嬢様……♪」


 女子高生メイドと中学生で指を絡ませ、甘い甘い口づけ。

 メニューの口移しとはまた違う、唾液の素の味が堪能できるキスだ。


「……ちゅっ♪ んぷ、むぷぅ♪ くちゅ、くちゅ……♪」


「ふぅっ、んん……♪ むぷっ、むぱぁ♪」


 百合キスに耽っていると、由理の胸も熱くなってきて。


(ふふ、高校でも円美ちゃんとキスかぁ……)


 セミロングのツンデレメイド、西城さいじょう由理。

 1年前はノンケと言い張っていた女の子が、百合キスへの期待にドキドキしてます。


「ちゅっ……♪ ふふ、春が楽しみ、かも」


 と、唾液の糸を舐めすすったところで、由理は失言に気付いた。


「……あっ」


 視界に映ったのは、お客様に胸を揉まれながらコーヒー口移しする、リズさんの笑顔。

 春にはもう、リズさんは卒業して……。


「ずちゅぅ♪ もうっ、そんな顔しないの。暗いの禁止よ?」


 百合キスでコーヒー味の銀糸をとろーんと垂らしながら、リズさんはちょっぴり困ったみたいな笑顔を浮かべた。

 金髪を縦ロールに巻いた、青い眼の巨乳メイド、リズ=ノースフィールド。

 イギリスの荒野に咲いた百合の花は、春からは祖国の大学で、世界に百合を広げるための勉強をするのだ……。


「そうそう、お店で暗いのダメですよぅ! 営業中はキス! キスしないとっ。……ちゅぅぅぅ♪」


 季紗きさが明るく振舞って、横からリズさんへ唇を重ねた。


「むぷぅっ♪」


 さらに美緒奈みおなも抱き付いて、リズさんへキス。


「えへへー、あたしたちの絆は切れたりしないのだ♪ ちゅぷぅぅぅ♪」


 亜麻色のさらさらロングヘアー、天使の美貌の清楚系お嬢様メイド、東宮ひがしみや季紗と。

 赤毛のツインテールを栗鼠りすみたいに揺らす、小悪魔ロリメイド南原みなはら美緒奈。


 リズさん大好きな2人のメイドが、唾液をちゅぱちゅぱ。


「……ちゅっ、んんぅ。むぷっ、ぐぷぬ♪ ……ぢゅぼっ♪」


「るぷ、るぷるぷっ♪ るぬぅ、んきゅぅ……♪」


「ふぁぁ♪ もうっ、2人とも……。お客様方が見てるわ♪」


 百合キス。

 深くて熱くて甘い乙女の絆を、証明する行為。

 きらきら輝く唾液の糸は、彼女たちの唇と唇を……愛の糸みたいに繋いでくれる。


「ちゅぱぁ……っ♪」


「ず、ずるいっ。私も、リズさんとキスするんだからぁ!」


 そこへ由理も加わって、リズさんと口内粘膜をくっ付け合う。


「ふっ、んんっ♪ ちゅぱぁ、ぐちゅっ♪ ぢゅぶ、ぢゅぶ……♪」


「ん、んぁぅっ! ふーっ、ふーっ♪ も、もうっ、由理までぇ♪ い、息、苦し……けど、嬉しい……♪」


 仲良し百合メイドたちがお店の中で、4人で無我夢中にキスする光景……百合の花園な世界に、お客様たちも頬を赤らめながら見入っている……。


「う、うわぁ♪ あんなに、深く……♪」


「きゃっ♪ あんなのされたら、私、どうにかなっちゃいそう……♪」


 さすがに百合メイド喫茶のお客様達なので、魅了されてます。

 円美お嬢様も、ジェラシーする以上に、4人の絆に憧れ……。


「ま、まぁ。さすが先輩たちですのね……。私も、あんな風にキス、できますかしら」


 羞じらっていると、小柄にロングヘアーのツリ目メイド、たつみ千歌流ちかるが腕を組んで睨んでくる。


「なに言ってるの、貴女ももうすぐ百合メイドでしょ? や、やるしかないのよっ、百合キスを。……ほら」


 色んな女の子とキスするのにも、ようやく慣れてきた千歌流ちゃん。

 由理が忘れてるようなので、円美お嬢様が注文した紅茶とケーキの口移しを、替わりに実行。


「……ちゅっ。んふ、むくぅ……。ちゅぱ、ちゅぱ。ど、どうかしら、私のキスだって……少しは、上達したでしょ? ……ちゅっ♪」


「ん、んんー、む、ちゅぷっ。わ、私も、負けませんわ。いっぱい……キスの勉強するんですからぁ♪」


 未来の「リトル・ガーデン」を担う女の子たちも、百合キスがんばる。


 春、卒業の季節は間近だけれど。

 過去と今、未来とが交錯するこの季節も……いつもと変わることなく百合キスする百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」。

 聖なる百合乙女たちの理想郷ユリトピア


 今日も、開店です!

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