バレンタイン編⑧ ツンデレチョコレート

 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」の聖バレンタインデー。

 由理ゆーりももちろん作ってきました、手作りチョコレート。


「えっと、味は普通だと思うけど……口に合ったら、嬉しいかな」


 季紗きさ美緒奈みおなに、リズの分。

 水色の紙でラッピングしたチョコを、はにかみながら差し出すのだけど。


「んー、なんか普通で物足りない……」


 季紗が難しい顔をした。

 うんうんと美緒奈も頷いて、


「由理らしくないよねー、もっとツンデレ成分を込めたりできないわけ?」


「わ、私になにをしろってのよ、ばか」


 腕を組む由理。

 ツン成分頂きました。


「ふふ、私は由理からチョコもらえるだけで、嬉しいけど」


 頬に手を当てうふふと微笑むリズさんへ、美緒奈が指を振る。


「ちっちっ。リズねえってば、由理に甘過ぎ! 今どき、チョコの渡し方にも個性を出さねーとさ、お嬢様たちを満足させられないと思うんだよねー」


 テーブル席の常連客、円美まるみお嬢様が、「お姉さまの口移しでしたらなんでもいいです」と物欲しそうな顔してるけど。

 とりあえず由理、「ツンデレっぽいチョコの渡し方」をやってみることにした。


「こ、こう? 『べ、別にあなたにあげるつもりなんてなかったけど。誰からももらえなかったら可哀想だから、恵んであげるわ。ありがたく思いなさいよねっ』」


「ふぉぉぉぉいきなり100点ー!?」


 季紗が鼻血を噴いた!

 由理、次は美緒奈へ。


「『こ、これは友チョコよ。本命なんかじゃないんだから、勘違いしないでよねっ』」


 照れた顔でツンツン台詞の演技……聞いた美緒奈が嬉しそうにツインテールを揺らした。


「えへへぇ、すっごい本命チョコっぽい台詞だー♪ あたし……愛されてるな♪」


「だ、だから勘違いするなっての……もうっ」


 今のは演技じゃなく、ナチュラルなツンデレです。

 由理の赤い頬が、やっぱり本命チョコなことを物語ってる。


 そして次はリズさんへ。


「『こ、焦げちゃったし失敗作だけどっ。捨てるのももったいないし、お姉さまにあげる。別にチョコあげたいわけじゃ、ないんだからねっ?』」


「あ、あら。これはこれで……いいわね♪」


 保護欲と母性の塊なリズさん(主に胸部)、ツンツンされるのもきゅんときた様子。

 由理のツンデレに、百合メイドたちは大満足のようだけど。


 ……当の由理本人は。


「う、うぅぅ……」


 なんだか涙目でプルプルしてる。

 おしっこを我慢してるわけではなさそうだ。


「も、もうっ、ばかぁ! わ、私だってたまには、素直にキスしたいのにっ! 変なコト、させないでよねっ!?」


 真っ赤な顔で由理が、まずは季紗へ抱き付き唇を奪い、チョコの口移しをした。


「んぷぅ! むっ、ちゅぅ……ちゅぷん、ぬぷぅぅ♪ みゅぅ、くにゅぅ……♪」


「ちゅくっ、ふぁぁ♪ ゆ、由理が激しい……♪」


 なんかのタガが外れちゃったみたいな由理、美緒奈へも激しい百合キス。

 お次はリズさんへも……。


「ちゅぶっ♪ ぢゅぷっ、みゅ、ふ……んくぅぅ♪ す、好きよみんな……ちゅ、ちゅぅぅ♪」


「ふぁぁぁ♪ こ、このデレのギャップ……まじツンデレだぜぇ♪ ちゅぱぁっ♪」


「な、なるほど、これが日本の女の子のツンデレ……! い、いいわね♪ ……ちゅぅぅっ♪」


 普段ツンツンしてるほど、デレて百合キスすると激しく甘くなるのです……。


 ※ ※ ※


 由理、あとで我に返って、恥ずかしさに悶えた。


「わ、私ってば、なに暴走してんの……? 恥ずかしいから、見ないでぇっ」


「ふふっ、そんな由理も可愛いわよ♪」


 リズさんが柔らかな胸で抱いて、キスしてくれたので。

 由理はもっと、頬を染めるのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る