バレンタイン編③ MIO,Sキッチン(前編)

 さかのぼること数日。

 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」にて、去年のカタログを由理ゆーりは見ていた。

 このお店で予約を受けていた、プレゼント用チョコレートのカタログだ。


「わー、どれも美味しそう!」


「ふふ、リズさんの手作りだもの。もちろん美味しいのよ」


 由理の歓声に、季紗きさが微笑む。ちなみにカタログをデザインしたのは彼女だ。


「リズさんやっぱり、プロのパティシエさんみたいだよね。チョコだとショコラティエって言うんだっけ」


 厨房でケーキを焼いてるリズさんへ、由理は視線を送る。

 カタログに載ってるのは、どれもこれもおしゃれで、キュートで、なんだか食べるのがもったいなくなるようなチョコレートばかり。


「すごいよねぇ」


 季紗が頷きながら、うっとり。


「そんなリズさんの本命手作りチョコレート……去年は私、口移しでもらったの♪」


「う、うらやま……って、口移しがじゃないからね!?」


 由理が真っ赤になる。

 羞じらいながら、小声で続ける言葉は、


「う、く、口移しも……うらやましい、けど。リズさんの」


 さて、そんなやり取りを見てた赤毛ツインテールのロリメイド、美緒奈みおな


「……ねえ、由理。やっぱ、手作りチョコって嬉しい?」


「え? ま、まぁ、それは……ねえ?」


 女の子からチョコをもらうのを想像して赤くなる、元ノンケのメイド由理。

 美緒奈、自信ありげに腕を組んで、


「そっか。じゃあ今年は、美緒奈様が『んまァァァーイ!』チョコを作ってやるから。存分に惚れるがよいぞよ♪」


 ツインテールを揺らす彼女へ、由理、あまり期待しない顔で。


「へぇ、あんた料理ダメだったけど……練習したの?」


「ううん、まったく!!」


 八重歯をチラ見させて、美緒奈様は言い切った。


「でもあたし、やればできる気がするんだよね! 美緒奈様、可愛いから。可愛いからっ!!」


「美緒奈ちゃん、なんの根拠にもなってない!?」


 謎の自信を見せる美緒奈へ、季紗がツッコんだ。

 由理は前髪をかき上げて、


「……美緒奈。熱でもあるの?」


 本気で心配する瞳をしながら、美緒奈と、おでこ同士をくっつけた。

 ぴとっ……♪

 キス寸前に、顔が近い。


「こ、こらー!? いきなり……キスするかと思ったじゃねーか!?」


 あわあわ飛び退く美緒奈、高熱が有る人みたいに顔から蒸気。

 もじもじしながら、唇をなぞる。


「ど、どーせ熱測るんなら……キスして、舌、挿れろよな。体温計をくわえるみたいに」


「……やっぱり、熱あるんじゃない?」


 こうして、手作りチョコの話をしていると、リズさんが手を拭きながらやってくる。


「あら、楽しそうね。チョコ作るなら、今度みんなでいっしょに、どう?」


「うーん……」


 指を口元に当てて、考え込む美緒奈。


「……その前に、あたし、家で練習してくるよ。由理を、ぎゃふんって言わせたいし」


 悪戯っぽく笑い、背伸びして、美緒奈は由理に口づけた。


「……ちゅぅっ♪」


「んむ!? な、なによいきなり!?」


 不意打ち百合キスでぎゃふんと驚く由理へ、美緒奈は指を突き付けて、宣戦布告?


「あたしのチョコ、美味しかったら、今のを100回だかんね。覚悟しとけよなっ」


 季紗姉にリズ姉もだよ!と百合キス予約したところで、美緒奈様のMIO,Sキッチン、開幕です。

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