バレンタイン編④ MIO,Sキッチン(中編)

『ちゅぅっ♪ むぷっ、じゅぶ、じゅぶ……ぢゅぅぅ、ちゅふ、んんっ♪ やっ、やぁっ由理ゆーりってばぁ♪ いくら美緒奈みおな様の手作りチョコが美味しいからって、唇吸い過ぎだぞ♪』


『はぁっ、んぶっ……ぐぷ、ずぷ♪ だ、だって、だってぇ♪ 可愛らしゅうあらせられる美緒奈様が、私めのために愛を込めて、チョコを作って下さったんですもの♪ これは口移しで頂くしか♪ ちゅぷっ、ちゅぷちゅぷぅ♪』


 狂おしく唇を求め合う、百合メイドたち……。


『ぷちゅぅぅっ、むぷぅ! んぐっ、美緒奈様……美緒奈様ぁ♪ 唇、甘くてぇ……美味しいのぉ♪ こんなっ、美味しいチョコ作れるなんて、天才♪ 美緒奈様は天才美少女♪』


『ふぁ、んん……ふぅぅ……♪ ば、ばか由理ぃ……♪ ホントのこと、言いすぎだからぁ♪』


 ……という妄想から帰って来ない愛娘を、美緒奈ママ……かなりロリな容姿の三十路……が本気で心配する。


「おーい、美緒奈? 帰って来なさーい」


「ふへっ、ふへへぇ……♪ 美緒奈可愛すぎて、ごめんなさいぃ……♪」


 妄想の中では、由理と2人全裸になって、ベッドに押し倒されたところまで進行中だ。


『んふぅ、ちゅぶ、ぢゅぷぅっ♪ 美緒奈様、素敵ぃ♪ 結婚して♪ 毎日私に、チョコ作ってぇ。……んー、ちゅぷっ♪ ぢゅぽぁ、じゅぐぷん♪』


『やぁん、ちゅぷぅ♪ こ、これじゃ……初夜が先に、なっちゃうよぉ……♪』


 チョコの作り方、教えて?と娘の美緒奈が頼んでくるので。

 料理の仕方なんて聞かれたの初めてで、張り切ってレッスンを始めたママだけど……。


「と、友チョコだって言ってたけど……なんか、違う気がするわ」


 溶かしたチョコに鼻血が垂れる前に、拭いてあげる美緒奈ママ。

 と、美緒奈はとつぜん正気に戻った!


「ねっ、あたしの唾液入りチョコとかどうかな♪ 天使なあたしの唾液だよ、ぜったい喜ばれると思うんだ!」


 正気じゃなかった。


「そ、それで喜ぶとか……ずいぶん、変わったお友達なのね?」


 美緒奈ママが目を丸くしていると、リビングから美緒奈パパがやってきた。

 なんだか照れ臭そうで、勘違いしていることは明白だ。


「いやー、美緒奈が急に、チョコ作りたいだなんて。ぼく、照れちゃうなぁ」


「え? パパの分はいつも通り、20円チョコだよ。愛情込めて買ってくるから、お小遣いアップしてくれるよね♪」


「もちろんだよー♪ ……って、手作りのは、ぼくのじゃないだとぉぉぉぉぉぉぉッ!?」


 美緒奈パパが、阿修羅あしゅらの形相だ!


「ど、どこの男だぁぁぁぁぁぁッ!? ママ、ママー! 機関銃をっ、機関銃持ってきてー!!」


「うちに無いわよー、そんなもの」


 美緒奈ママは冷静だった。

 美緒奈本人はというと、やだなーと手を振りながら、


「パパったら、落ち着いてよ。あげるのは女の子だって。女の子同士だからさー」


「そ、そうか。なら心配ないな!」


 ほっと息をつくパパだけど、美緒奈ママはやっぱり冷静、首を傾げる。


「……ほんとに心配ないのかしら?」


 とにかく、丸め込まれたパパは置いといて。

 チョコレートづくりの母娘レッスンは再開する。


「ねえ、ママ。やっぱさー、料理ってオリジナリティが大事だと思うんだよね、あたしは!」


「……うん、そういうのは、基本ができてからにしましょうね?」


 個性的な美緒奈様スペシャルチョコ……と称して、タバスコやらカレーやらを入れたがる美緒奈を、ママが制止する。


「ぶーぶー。せっかくだからさぁ、あたしらしいチョコにしたいじゃん」


 基本がなってないのに、やたらと個性を追求したがる……典型的な料理ダメな人になってる娘に、美緒奈ママは頭痛を抑える。


「ねえ、美緒奈? 料理は愛情、っていうでしょ」


 色々と言葉を探しながら、娘を諭す。


「美味しくするには、食べる相手のことを、真剣に考えないと。美緒奈の好きなものばかり入れるんじゃなくて……考えてみて。どう作ったら、あげる相手が喜ぶのかを」


 激辛チョコとか喜ぶわけないでしょーと言い切ってやりたいママだけど、結局彼女も美緒奈が可愛いので……ソフトに、いい話風に、言い聞かせる。


「由理が、喜ぶチョコ……」


 美緒奈の手作りチョコを受け取って、いつもみたいに憎まれ口を叩きながら、頬は真っ赤に染まってる由理……そんな表情を想像して、美緒奈の胸がときめく。


 由理の喜ぶ顔が見たい。美緒奈の気持ちを、受け取って欲しい。

 純情乙女の恋心を抱いて羞じらいながら、美緒奈は結論付けた。


「……やっぱ、唾液だな」


「……うちの子、育て方を間違えたかしら」

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