温泉へ行こう!③

 かくて土曜日の朝。

 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」に集合した由理ゆーりたちは、店主マスターの車に乗り込む。


 留守を預かってくれる、茶髪ショートの百合メイド、宮野りりなが美緒奈みおなの手を握って、


「行ってらっしゃいませ、お嬢様。……ちゅっ♪」


 見送りのキスをした。


「みーちゃんたちが旅行中は、私と早百合がいっぱいお嬢様たちにキスするから! いっぱい百合キスするからね! だから安心して!」


 同じくお留守番の相方、黒髪ロングの早乙女早百合も頬を赤らめてにこり。


「ふふ、皆さんの分も百合キスしますから。お店のことは任せてくださいね♪」


「おおー、なんか2人が燃えてる!」


 感心する美緒奈。由理はちょっと圧倒されぎみ。


「なんかすごく嬉しそうだよね……。そんなにキスしたいのか」


「でしょうねー、宮野さんたちは。私は違いますけどっ」


 彼女も留守番、新人メイドの千歌流ちかるは、どこか不機嫌。

 学校の先輩でもある季紗きさと、いっしょに行きたかったのかも。


 ともあれ土日の営業は、りりな、早百合に千歌流の非常勤百合メイド、高1組が引き受けてくれる。


「明日は凛夏りんか先輩に粧子しょうこ先輩も入ってくれるし……みーちゃんたちは心置きなく、温泉を楽しんできてね。お土産の百合キス、よろしくね!」


 手を振りながら、出発する車を見送るりりなへ、


「おっけー、楽しみにしててー」


 美緒奈も手を振り返しながら。

 隣の由理にたずねる。


「……お土産の百合キスって、なんだろね?」


「……私が知るか」


 ※ ※ ※


 そして車は高速道路へ。

 長野の温泉地へ向かってGO!


「草津じゃなくて、嶺津れずの湯ですか……聞いたことないですけど」


 助手席に座ったリズさん、運転中の店主マスターとおるお姉さんへ。


「……いい名前ですね♪」


「うん……まぁ、うん」


 コメントに困っている、ノンケの透お姉さん。

 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」を代々経営している彼女の真中まなか家は、他にも、今回向かう嶺津れず温泉や、「ふんどしアニキ喫茶 漢気おとこぎ」など、色々と色々なお店を経営しているらしい。


「いちおう、普通の温泉だけどな。変な期待はするなよ? ……それはそうと」


 お姉さん、後部座席をミラー越しに見て赤面。


「……運転に集中できないから、やめてくれないかなぁ?」


「ちゅぷっ♪ んんふ……るぷっ♪ ぬぷ、ぬぷちゅん♪」


 後部座席では由理を真ん中に、美緒奈と季紗と3人で、お菓子の口移し接吻真っ最中だった。

 車の中に、百合の花が咲いている……。


「ちゅぱぁ、ちゅぱっ♪ ええー、私たち、飴を舐めてるだけですよぅ♪」


 季紗が飴玉ごと由理の唾液を吸いながら言った。

 リズが、羨ましそうに後部座席を振り返り、ぷくっと膨れる。


「ずるいわ、3人でキスして。次のパーキングで、座席交代よ?」


「いやほんと、キスはやめて。気になって運転できない……」


 店主マスターはノンケで、そして純情なのでした。


 ※ ※ ※


 そして。


「……すやすや」


 車内キスを禁止された季紗と美緒奈、左右から由理の肩にもたれて、ぐっすりおねむ。

 軽やかな寝息と共に立ち昇る、2人のカラダの甘い薫りが、由理の鼻腔をくすぐる……。


(ど、どうしよう。なんで私、こんなにドキドキしてるの……!?)


 季紗と美緒奈の寝顔が、キスできちゃう距離に。

 それよりも、2人の薫りが……。


「ち、違うからね! 私、匂いフェチとかじゃ、ないんだからねっ!?」


「誰に説明してるの、由理?」


 前の席から振り返るリズさんに、この席替わってほし……いえ、このままでも……だめだめ、私の理性がおかしくなる!と、由理の葛藤は続くのだった。


「は、早く! 早く温泉に着いてぇー!?」

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