「リズ=ノースフィールド」編⑥ 胸を張って、未来へ

 池袋でリズさん、三人娘とデート後。


「で、リズさん。誰との百合キスがいちばん、きゅんきゅんしましたか?」


 歩行者天国になっている池袋サンシャイン通り、賑わう冬の街角にて。

 キラキラまなこで、季紗きさが聞いてくる。


 ゴスロリ美緒奈みおなも得意げに、


「もっちろん、あたしだよな♪ ロリ可愛い美緒奈様が、プレゼントまであげたんだから♪」


 季紗に由理ゆーりも負けじと頬を染めて、


「ふふ、私だっていーっぱい愛情込めたよ。ね、リズさん♪ 唾液たっぷり交換しましたものね♪」


「あ、愛情なら……私だって込めてなくもないっていうか? リズさんの唇は、私のなんだからねっ」


 三人それぞれに、リズさんとちゅっちゅして濡れた唇をなぞり、うっとり羞じらい顔をした。


「さぁリズさん♪ 誰とのキスが良かったですか? さぁ、さぁ……♪」


 もちろん一位の女の子は、さらにリズさんとキスする予定。

 三人ドキドキしながら詰め寄ると……?


「あっ……」


 リズの頬を、大粒の涙が伝った。


「ど、どうしたのリズさん!? ……まさか、嫌だった!?」


 しゃがみ込んで泣き出すリズへ、慌てて声を掛ける由理たち。


 リズは、横に首を振って、


「……いいえ、違うの。その、あんまり嬉しくて……」


 私、愛されてるんだ、って。

 そう感じたら、熱いものが溢れて、止まらなくなってしまった。


 涙をぬぐい、照れながら微笑む。


「ふふ、私ってば本当に……ダメなお姉さんね。こんな、泣き虫で……」


「……リズさん、イギリスに帰るの、やめちゃいません?」


 リズの涙をハンカチで拭きながら、季紗が、じっと見つめてくる。


「季紗、なにを……」


 なにを急に、と由理がたしなめるけど、季紗も真剣な様子だ。


「だって、私たちはこんなにリズさんが好きで……リズさんだって、私たちを好きでいてくれる。なら、離れるなんて、おかしいわ」


 季紗のこんなに真面目な顔、初めて見たかも。

 泣き腫れた顔で、リズは思った。


「ありがとう、季紗。そんなに想ってくれて、私、嬉しい」


 もちろん、由理に美緒奈も。

 キスしたから、分かる……どれだけ愛してくれてるか。


「でもね、だから……行かなきゃ」


 涙を払って、ゆっくりと立ち上がって。


「私、貴女たちと百合キスできて、本当に幸せ。幸せな、三年間だったわ。皆に愛をもらったから……だからこれからは、それを返していきたいの」


 愛を返すとは、愛を広げること。

 愛されて生きてきたなら、もらった分の愛を、今度はまだ見ぬ人たちへ分けてあげたい。


「うん……私は、世界中の女の子に、百合キスに目覚めてほしい。こんな素敵なの、独り占めできないわ」


 故郷イギリスの地、産まれ育った北の大地に、いっぱいの百合の花を。

 リズの胸の決意は、より固くなった。


「ねぇ……私がイギリスに帰っても、遠く離れても。また会えた時は、いつでも百合キスしてくれる?」


 青い瞳で、問い掛ける。


「ばか……当たり前でしょ」


「リズねえが嫌がってもするかんね。あたしたち、おばあちゃんになったってキスするんだから……覚悟しとけよな?」


 由理と美緒奈が口々に言うと、季紗はちょびっと残念そうに、でも、どこか吹っ切れた様子で。


「止められない、か。うん、でも……忘れないよ、リズさんの唇を」


 にこ、と微笑み合った。


「ありがとう、皆。このキスの思い出がある限り、私……胸を張って、前に進めるわ」


 お別れは切ないけれど。

 新たな百合を広げるために。百合との出会いを待ってる女の子たちのために。

 リズは胸を張って、顔を上げて、白紙の未来へ歩いて行こうと、決意するのだった。


 そう、胸を張って。


「確かに、張ってるね……」


「リズ姉だもんな……」


「うん、すっごく張ってる……」


 なぜか季紗、美緒奈、由理は頬を染めた。


「ど、どこを見てるの!?」


 ぽよよんと張った胸……おっぱいに視線を感じて、リズは赤くなり腕で隠す。


 池袋の街中、道行く人々からも見られるけど……由理たちまで乳を見てたので。

 リズさんぷんぷん。


「ま、真面目な話をしてたのに、もぅっ! 罰として、皆でお姉さまにキスすること! いいわね?」


「「「はい、お姉さま♪」」」


 ……そして、暮れなずむ池袋の街角で。


「ちゅっ♪ んぶ、ずぷん……♪ む、ふぅぅ♪」


「んんっ、んっふぅ♪ んーぅ、んん、んむぅっ♪」


「ちゅぴ、ちゅぱ……ちゅぽちゅぽ、ちゅぱぁ♪ ちゅむ、むちゅぅー♪」


「ふーっ、ふーぅ、ん♪ んふん、ちゅぅ、ちゅふぅん……♪」


 四つの唇が、舌が、一つに溶け合えば……心まで重なり合って。

 百合メイドたちの、唾液の銀糸で結ばれたえにしは、きっと、時間にも距離にも、切れないと。

 甘い接吻くちづけは、確かにそう信じさせてくれた。


「ちゅぅぅぅぅ……っ♪」

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