お姉さまになろう!③

「……ちゅぅ」


 たつみ千歌流ちかる、真っ直ぐロングヘアーと猫的なツリ目が可愛い小柄な美少女。

 16歳で体験するファーストキスの味は、アップルパイの味がした。


 キス相手の百合メイド……由理ゆーりと2人で、眼をぱちくり。

 いわゆる事故チューではあるけれど……。


(こ、こ、これが、キスの味……!)


 柔らかくって、くすぐったいくらい熱くて、甘くて。

 千歌流、胸がなんだか妖しく……。


 由理は由理で固まってると、季紗きさが耳元にささやく。


「……舌挿れないの?」


「む、無理だってば初めての子に!?」


 由理は真っ赤になって飛び退き、


「そ、その……ご、ごめんなさい……っ」


 可愛らしく羞じらいつつ、千歌流へ謝る。


 さて、初キスは季紗に捧げるつもりだった千歌流。

 いきなり由理と、百合キスしちゃったわけだけど。


(ど、どうしよう、私……)


 女の子同士、親しいわけでもない相手に唇を奪われたというのに、


(い、嫌じゃない……!?)


「や、やだっ。私、ドキドキなんてしてない。してないのにぃぃ!?」


 心臓がびっくんびくん飛び跳ねて顔に血液を送るのはなぜ?


「あの……だいじょうぶ?」


 由理が顔を覗き込むと、千歌流はオーバーヒート気味にぷしゅーと頭から蒸気!


「お、思ってません!? 女同士でキスって、想像してたよりやわやわで甘かったです♪なんて思ってませんからねー!?」


 ジェラシーか、美緒奈みおながむくれながら、


「なぁんか、こいつさー。ちょっと嬉しそうじゃね?」


「やっぱり! 千歌流ちゃんは百合の素質があるよ♪」


 大喜びなのは、彼女をお店に連れてきた季紗。

 がばぁっと千歌流を抱き締め、ちゅっちゅ♪とセカンドキスにサードキス……10回目のキスくらいまで一気に奪う。


「ちゅぷっ♪ ぐぷっ、ずぷぷ。ぬぶ、んむぅ♪ ふふ、学校でいつも妄想してたんだ♪ 千歌流ちゃんとこんな風に百合キスするのを♪ ちゅぷぅ、どう千歌流ちゃん? 嫌じゃない?」


「はぅ、んむぅ♪ き、季紗お姉さまのバカ♪ 私だって、本当はずっと、貴女とキスしたくて……♪」


 舌をずぷっと絡めて季紗の唾液を舐め取りながら、千歌流は頬を染めて。


「あわわ、忘れて下さい!? 千歌流はですね、お姉さまにそんな、やましい気持ちなんて!?」


 清純乙女の羞じらいを残した彼女へ、今度はリズが、ぽんと肩を叩いた。


「ふふ、恥ずかしがることないわよ。百合キスは、乙女のコミュニケーションなんだから♪」


 そしてバイトリーダーでもある金髪巨乳メイド、運命の勧誘。


「素質のある子は大歓迎よ。貴女、うちのお店で働いてみない?」


 ※ ※ ※


 ……そして。

 巽千歌流は、非常勤ながら百合メイドとなった。


 「わ、私はですね! キスに目覚めたとかじゃなくて!? 東宮ひがしみや先輩にふしだらな行為をする輩がいないか見張るためにですね!?」とか何とか言い訳しつつ。


 それを見て、後輩がもう一人。

 常連の女の子で、中学3年生の清楚系お嬢様、前園まえぞの円美まるみ


「いいなぁ……私も高校生になったら、『リトル・ガーデン』で働きたいです」


 そして毎日、由理お姉さまとキス♪

 そんな期待の視線で由理を見上げると。


「え? 円美お嬢様はここで働くでしょ?」


 何を今さら、と首を傾げる由理。

 もう、円美もいずれ百合メイドになるのは既定路線だと思ってた。


「い、いいんですの!? 由理お姉さま、毎日私に百合キスを教えて下さいますか!?」


 瞳を輝かせる後輩に、由理は照れ照れしながら。


「わ、私で良ければ……なんて」


 ちゅっ……と、キスで返事した。


 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」の明るい未来。

 後輩の女の子達が次々に、百合メイドへの道を歩み出すのを見て。


「ふふ、来年はもっと、賑やかになりそうね」


 誰より嬉しそうなのは、古株でもあり『リトル・ガーデン』への愛着も強いリズさん。

 でもふと、表情をかげらせて。


「……来年、か」


 少し、寂しそうな顔をするのだった。

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