お姉さまになろう②

 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」。

 夢溢れる百合空間を初めて目にした、季紗きさの後輩、たつみ千歌流ちかるは。


「ふ、ふーぞく! 女子同士でキスするなんて、イケないお店じゃないですかぁぁぁ!?」


 ツリ目をさらに吊り上げて叫んだ。


 美緒奈みおなひじで、由理ゆーりをつつく。


「にひひ、なぁんか昔の由理みてーのがいるぜ?」


「……うん。まぶしくて直視できない」


 すっかり百合キスに慣れた由理、今さらながらお店の仕事が恥ずかしくなって、赤くなった。


「季紗ちゃん、この子にちゃんと説明しなかったの? うちのお店のこと」


 リズさんがたしなめると、季紗が千歌流の手を取って。


「ねえ、千歌流ちゃん。女の子同士でキスなんて、やっぱりイケないと思う?」


「ふぇぇぇっ!? 季紗お姉さま、じゃなくて東宮ひがしみや先輩! 顔が近いです!?」


 憧れのお姉さまの綺麗なお顔が、キス寸前の至近距離で。

 思わず胸がときめいちゃう千歌流。


 真っ赤な顔でうつむく千歌流へ、季紗は構わず顔を近付ける。吐息の掛かる距離まで。


「私ね、千歌流ちゃんには知って欲しいの。本当の私を……」


 その台詞を聞いて、ベッドの上で「本当の私を見て♪」と裸になる季紗を一瞬で思い描いた千歌流は、立派に百合っ気が有る……のだけど。


「うぅ、先輩を受け入れたいのは山々ですけどぉ……」


 ちらり、と、接客中の百合メイド達へ視線を送れば。

 美緒奈がOLのお姉さんに舌を挿れてるところだった。


「ずちゅぅ♪ んっ、ぐぷぅぅ♪ お姉さま、今日も一日、お仕事大変だったね。美緒奈のキスで元気になってね♪」


「んふぅ、ぐぷん♪ ふぁ、美緒奈ちゃんの唾液は、どんな栄養ドリンクより効くよぉ♪ 高いドリンク買うより、やっぱり『リトル・ガーデン』よね♪」


「こ、こここここんな、お金を払ってキスとか!? 東宮先輩もやってるんですか!?」


 初めて見る生のキスが、ディープなフレンチキスで。

 涙目で絶叫する千歌流。


 季紗は羞じらいつつ、頷いた。


「えと……うん♪」


「ショ、ショックですっ……。お姉さまがそんな人だったなんて、思いませんでしたぁ!?」


 生徒会副会長で、風紀委員長で。

 品行方正、学業優秀な、学園のお姫様……そんな季紗に憧れて、季紗と同じに髪を伸ばして、季紗と同じに生徒会にも入った千歌流。

 思わず涙を零すと、季紗が……すごく、傷付いた表情をした。


「あ……」


 それに気付いて、胸がズキリと痛む千歌流。

 と、


「待って! 季紗は悪くないの!」


 由理が割って入るのだった。


「わ、私が季紗を、レズの道に引き込んだのよ! ノンケの季紗を、無理やりね! だから貴女の憧れの先輩は変な子じゃなくて、悪いのは私で!?」


「ちょ、ゆ、由理……!?」


 驚く季紗の、でも嬉しそうな顔を見て。

 千歌流は勘付いた……西城さいじょう先輩、季紗お姉さまをかばってる、と。


 そうさせるほど近い二人の距離に、なんだか心がむかむかして。


 唇を噛む千歌流に、由理は混乱した顔で宣言。


「そうよ、私が季紗の唇を奪ったのっ! ……こんな風にね!?」


 由理、明らかにテンパってる。

 赤面して蒸気を顔から噴きながら、季紗の頬に触れて……キスしようとした。


「だ、だめぇっ!? 季紗お姉さまの唇は、私が護るっ……!?」


 反射的に季紗を護ろうとした千歌流。

 急に由理と季紗の間に入ったせいで……。


「……ちゅぅ」


 由理と、キスしちゃった。

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