先輩が来た!①

 9月の連休。お彼岸に合わせ由理ゆーりは、東京を離れ、母のお墓参りに来ていた。

 ここは群馬県の山間にある霊園。


 秋桜コスモスの花が清楚に咲く墓苑で、由理は西城さいじょう家の墓石に手を合わせる。


「色々大変だけど……楽しくやってるよ、お母さん」


 季紗きさのこと、美緒奈みおなのこと、リズのこと……笑顔で報告。

 すると、後ろから。


「姉貴……! 帰ってたのかよ?」

「げ、春斗はると……!」


 振り返ると、お墓に捧げる花を持って立っていた少年。

 由理の2つ下の弟、西城さいじょう春斗はるとだった。


 ※ ※ ※


 墓石を洗い、姉弟肩を並べて合掌した後で。


「姉貴さぁ、いつまで家を出てるつもりなんだよ? 高2にもなってさ」


 もう子供じゃないだろ、と、がりがり頭を掻きながら、弟が言う。


 そう、お忘れかもしれないが由理は家出娘。

 中学卒業からかれこれ2年近く、故郷を離れているわけである。


「義母さんだって心配してるんだぜ。ちゃんと話し合ってみろって」

「……ふぅーん。あんたはもう、お母さんって呼んじゃってるんだ、あの人のこと」


 帰らないからね、と強い気持ちを込めて、弟を睨んでやる由理。

 やれやれ、とため息を吐く春斗だが、


「それは置いといて。姉貴に会ったら聞かなきゃいけないことが有った!」


 由理とよく似たジト目で、カバンから冊子らしきものを取り出す。


 その本は……。


「姉貴の働いてる店……なんだよこれ!?」


 前に作った、百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」のパンフレットでした。

 表紙には、メイド服着た姉が、美少女の唇をちゅっちゅと吸ってる写真。


「た、他人の空似じゃないかな……?」

「嘘つけ! 名札に『ゆーり』とか書いてあるし!?」


 弟が言うにはこのパンフレット、由理に憧れてたという同級生の女子にもらったそうだ。

 その子は、「私も東京に……このお店行きたい♪」とか言ってたとのこと。


 とにかく、2年間ですっかりレズになってたゆーり


「こ、これはあくまでお仕事! お仕事でやってるんだからね!? 私は、ノンケなんだからぁ!?」


 弟の襟元を掴み、


「あ、あんた! お父さんには、言ってないでしょうね!?」

「い、言えるわけねえだろ! 姉貴が……ふーぞくで働いてるなんてさ!?」


 山の静かな墓地に、ふーぞくなんて単語が響いて。

 由理は顔を真っ赤にして……。


「ふ、ふーぞくじゃありません。乙女の聖域ですっ!?」


 ※ ※ ※


 そんなことが有った秋の連休。

 東京郊外の「リトル・ガーデン」に戻ってきた由理の眼の前では。


「ふぅぅ、んむ。ちゅぷぅ……ぴちゅぅ♪ お嬢様、季紗のミックスジュース、美味しいですか♪」

「んむぅ、んぐぅぅ……♪ は、はい……♪ もっと、お口の中、ミキサーしてください♪ 季紗お姉さまの舌で……♪」


 百合メイド喫茶、夜営業中。

 季紗とお客のお嬢様、濃厚接吻で密着した口腔内で、林檎とブドウのジュースと、唾液をミックス中。


「ふふ、喜んで♪ じゅるぷ、じゅぷじゅぷ♪ ぴちゅ、びちゅぷぅぅ……♪」


 いっぽう、別のテーブルでは。

 美緒奈と、年上の女性客が……?


「美緒奈ちゃんの指、モンブランのクリーム着いてる♪ お姉さんが舐めてあげるね。ちゅぱ、ふぅ……ちゅぱぁ……♪」


 秋の新作ケーキ、モンブランをイチャイチャしながら食べていた。


「えへへぇ、お姉さまこそ、唇にクリーム着いてるよ♪ 美緒奈がペロペロしてあげる♪ ……ちゅぅ♪ ずちゅぅぅ……♪」

「や、やぁんっ、美緒奈ちゃんったら♪ んぐぅ、そんな、舌の奥までクリーム着いてないよぉ♪」


 いつもの「リトル・ガーデン」。

 あっちでちゅぅ。こっちでちゅぷぅ。女の子同士が口移しとかクリームお掃除とか色々理由を付けながら、唇を重ね合う光景に……。


 由理、がくっと膝を付いた。


「……ごめんなさい、お母さん、お父さん。私、ふーぞくで働いちゃってます……」

「ど、どうしたの由理!?」


 心配したリズが、「なんだかわからないけど、元気出して!」と百合キスしてくれた。

 とにかく百合キス。それが「リトル・ガーデン」。


「ちゅぷぅ♪ んっ、リズさん、今はそういう気分じゃなくてぇ……♪」


 でも抗えず、ぬるぬる暖かい舌の感触に由理が酔っていると。

 お店のドアが開いて。


「ふふ、愛し合ってるわね、妹たち? よきかな、よきかな♪」


 綺麗なお姉さんが入って来た。

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