夏祭り編 終 おもいでの、百合色花火。

 日本の夏。

 夜空を彩る花火。


「ちゅ……ちゅぷっ。ぬぷぅ……んくっ♪ はぁ、んっ……。由理ゆーりの、甘塩っぱくて美味しいよ♪」


 音と光の乱舞は、華やかで、楽しげで。

 でもどこか、過ぎゆく夏を惜しむように切なさを孕んでいて。


「き、季紗きさぁ……。や、やぁ、っ♪ 舌、ふ、深いよぉ……っ♪」


 涼しくなり始めた風に、かさかさ揺れる草の葉。


「じゅぷぅ、ちゅぷっ♪ ま、まだ決着ついてねーぞ由理。美緒奈みおな様の本気のキステク、味わえよな♪」

「んぷぅ、むくぅ♪ そ、そっちはらめぇぇ……♪」


 夏の星座瞬く空に、咲き乱れる大輪の花。

 二度とは帰らぬ熱い日々を、せめて笑顔で見送るかのように……花火は輝く。


「ほら、リズさんも♪ 百合の花咲かせますよ♪」

「ふにゃぁぁ♪ 季紗ちゃん、胸は、もっと優しくぅぅぅ……♪」


 上がれ上がれ、花火よ上がれ。

 夏の思い出を、どうかこの胸に刻ませて。


「ふぁぁ、んぁぁ……あぁぁぁ♪ こ、声、上がっちゃうぅぅぅ……♪」


 ……4人とも花火を見ていない。

 百合の花を咲かせるのに夢中なのだった。


 ※ ※ ※


「だ、誰も花火見てないとか……っ。もうっ、私が求めてたのはもっと、こうロマンティックな……」


 夜の河川敷。

 乱れた浴衣を直しながら由理は、両横でぐったり満足顔で果ててる季紗と美緒奈を睨んでやる。


 今年の夏の思い出は、最後まで百合キス。

 それも過激な、かなりえっちな粘膜交換。


「まったく、風流さが無いっていうか。花火大会って言ったらさ……」


 由理が求めていたのは、もっと、何というか。

 艶やかな花火の光に祝福されながら、永遠の愛を誓うように。

 熱い瞳で見つめ合い、指を絡ませて、大好きな女の子と羞じらいながら百合キス。


 ちゅっ……と、唇を重ねて。高鳴る胸の鼓動を、花火の音が隠してくれて。

 そう、そんな甘い百合キスを……。


「ってなんで私も、自然に女の子同士で妄想してるのぉぉぉぉ!?」


 由理気付いて赤くなった。

 その手を握って、オレンジ浴衣のリズがにっこり。


「ふふ、素直になりましょう♪」


 ……ちゅっ♪

 優しく唇を押し当てられれば、花火レベルに騒ぐ心音。


 ついときめいちゃう、すっかり百合娘の由理は、


「ちゅぷぅぅ♪ な、夏の前の私に戻してぇぇぇぇぇ!?」


 ……もう、戻らなくていいんじゃないかな?


 ※ ※ ※


 祭りの終わった町、河川敷を手を繋いで……時々戯れに接吻しながら家路に向かう、浴衣姿の百合乙女達。


 季紗が桃色浴衣の裾を夜風に翻して、


「ふふ、来年も咲き乱れようね♪」

「……咲き乱れるとかいうな」


 由理が頬を染める。

 今夜乱れ咲かせた百合の花を思い出して、唇が疼いてしまったのだ。


 ふと、リズが足を止めて。


「来年、かぁ……」

「どしたの、リズねえ?」


 ううん、なんでもないの、と美緒奈へ答えて。

 リズは由理の腕を取り、おっぱいを押し当てて、


「さあ、夏は終わりだけど。秋も行楽に文化祭に……百合イベントは盛りだくさんよ♪ 皆でいっぱいキスしましょうね♪ ……ちゅっ♪」

「んぷぅ♪ 結局1年中百合キスなのねリズさん!?」


 さよなら、ありがとう夏。

 秋もいっぱい百合の花を咲かせることを、百合メイド達は夜空へ誓うのであった。


〈夏祭り編 終〉

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