夏コミ編⑤ Q 百合コスプレ写真はどこで買えますか? A 非売品です。

 夏コミ、午後の西ホール側。

 灼熱炎天下のコスプレ広場は、人気アニメのコスプレイヤーに、カメラを構えた人々に……とにかく人、人、人だった。


「ポーズお願いしまーす」

「こっちも、1枚撮っていいですか?」


 魔法少女アニメのコスプレで統一した我らが百合メイドも、カメラの光を次々と浴びている。


「ふへへ……たまんねーよな、このチヤホヤされる感じ♪」

美緒奈みおな、よだれ出てるよ……」


 赤毛の髪をポニテに結った美緒奈、コスプレ元のキャラのファンに怒られそうな緩い顔。

 だのに、ツッコむ由理ゆーりの声には元気が足りない。


「暑すぎ……。日差しきついし、人は多いし……」


 マントをひらひらさせ、凉を取ろうと試みるけれど。

 生温い風しか起きない。


「うわ、ひっどい汗……。変な臭い、しないよね?」


 乙女として、自分が汗臭くないか心配する由理。

 彼女のコスプレ衣装はおへそが出ていてちょっと涼しいけども、汗が溜まってぬるぬるする。


 と、膝を付いて、由理のおへそに鼻を近付ける季紗きさ


「くんくん……。うん、いい薫りだよ。気にしなくていいんじゃないかな」

「うぁぁナニ嗅いでんのよぉぉ!? ド変態!!」


 乙女のおへその匂いという、なかなか高度なフェティシズムを堪能する季紗へ、これは由理も赤くなった。もちろんこれも写真に納まる。


 そして。

 今回一番人気で、広場の皆からコスプレ撮影をお願いされるのは。


「も、もっと! 胸を強調するポーズでお願いします!!」

「そ、そのまま! 胸をアピールしながら決めポーズ! 『ティロ=フィナーレ!』ってお願いしますッ!!」

「てぃ、てぃろ、ふぃなーれ??」


 やはりリズさんだった。

 アニメは見てないリズさん、漢たちの野獣のような野太い声援に恥ずかしがりながらも、囁くようなウィスパーボイスで要求に応えてあげる。マジ巨乳天使。


 そんな乳さん間違えたリズさんへ、美緒奈歯軋り。


「くっやはり乳か! 男どもは乳がいいのかっ!! ……ま、まああたしもリズ姉の胸は大好物だけどな!!」

「すごいよね……。あれには勝てないよ……」


 そういう季紗もわりと大きい。美緒奈、さらに打ちのめされる。


「で、でも美緒奈負けない! せっかく杏さやコスなんだし、由理! イチャイチャするぞ!!」

「ふぇぇ!? そこまでして注目浴びたいの!?」


 由理としてはむしろ目立ちたくありません。

 でも問答無用、美緒奈は由理の腕にくっ付いたり、指を恋人繋ぎに絡ませ合ったり……。


「あ、あたしだってちょっと恥ずかしいけど……杏さやコスしてて百合百合しないなんて、ファンの人がっかりだろー!?」


 目立ちたいのか由理とくっつきたいのか。

 とにかく効果は抜群だ!

 キマシタワー!の歓声とシャッター音が炎天下のコスプレ広場に広がっていく。


「あ、汗がぬるっと……! くっつき過ぎだってのぉ!?」

「つ、次はキス! キスシーンいくから、皆ばっちり撮ってね♪」


 ……ちゅぅ、ずぷっ、ずっぷぅ……♪

 過激な百合キス撮影会は、スタッフさんに怒られるまで続きました。


 ※ ※ ※


 ……そして、午後3時。

 熱いコミケにも、閉会の時間が来る。


「……けっきょく百合キスしかしてないよ」


 更衣室にて、汗でびしょびしょの魔法少女コスを脱ぎながら由理はこぼす。

 ちなみにブラは、今日はピンクである。


 オタク達の世紀の祭典、コミックマーケット。

 美緒奈に付き合わされて来た初めてのコミケは、とにかく、暑かった。

 会場にも、更衣室にも、渦巻くような凄まじい熱気が、閉会後も残留している。魔界のゲートくらい開けそうな熱量だ。


「皆、よく来るわね、こんな暑いところ……」


 そんなに同人誌読みたいの?とか暑いのにこんなたくさんよく来るわ、とか、色々真面目なことを考えちゃう由理。


 けれど、美緒奈が覗き込んできて、


「へへっ、でもさ……」


 にかっと、向日葵ひまわりが咲くような極上のスマイルを見せた。


「……由理だって、楽しかっただろ♪」

「う、うん……」


(うぁ、急にそんな嬉しそうな顔っ……。不意打ち! 不意打ちー!?)


 美緒奈の笑顔が可愛すぎて、そして、それにドキドキしてる自分にびっくりして、由理は赤くなって目を逸らした。

 美緒奈可愛い。このキュートな笑顔だけで、今日一日付き合ったご褒美って気分。

 そんなコトを思ってしまい、着実にノンケから道を踏み外してることへ、ショックを受ける由理なのでした。


 ※ ※ ※


 美緒奈と由理が着替え終わり、更衣室から出ると。

 先に着替えて待っていたリズと季紗が駆け寄ってくる。

 リズ、にこっと微笑んで。


「皆、汗かいたわよね。『リトル・ガーデン』うちのおみせで、お風呂入っていかない?」

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