夏コミ編② 美緒奈の場合 やっぱりするのは百合キスですか?

 朝10時、コミケ開場。

 世界有数の人口密度と化した会場、東京ビッグサイト東ホールにて。


「……ちゅっ、んぅ、ふぅっ、ふぅ……んむぅ♪」


 コスプレ姿の美緒奈みおな由理ゆーりが、2人だけの世界を作っていた。


「ちょ、ば、ばか美緒奈ぁっ、んんむぅ♪ こんな、皆見てるところでぇっ……。ちゅむぅ!?」

「んむぅ、ずぷぅ♪ な、なに照れてんだよっ。買い物付き合ってくれてるご褒美だっての」


 コスプレした後、いったん解散した4人。

 由理は、大手サークルに並ぶ美緒奈に捕まったのだった。


「ちゅぅ、む……くちゅぅ、ぐぷっ♪ ふぅぅっ……♪ こ、こんな、コスプレして百合キス、恥ずかしい……」

「ちゅぅ、んぷ。ふぅ、くぷぅ……♪ 今日はレイヤーたくさんいるし、恥ずかしがることねーだろ」

「い、いや私が恥ずかしいのは百合キス……んぷぅぅ♪」


 文句は唇で塞ぎました。


 今日は4人皆で仲良くコスプレ。百合同人の世界で今なお根強い人気を誇る、某魔法少女アニメのコスプレである。

 美緒奈は赤い髪をポニテで纏め、肩出しの真紅のコスチューム。ピンクのプリーツスカートも可愛い。

 ぶっちゃければロリ杏子である。八重歯もキュートなのだ!

 由理は青と白の衣装に、剣士のマント。音符を模した髪飾りを付けて……つまりは、さやかコス。


 「すっごい百合キスしてる杏さや発見」と、注目の的なのは言うまでもない。


「ちゅぅ、ふぅ……んぷ♪ いやー、杏さやの人気サークルがひとり2冊限定だったからさ。由理がいねーと季紗きさねえとリズ姉への布教用が買えないとこだったわ。だからお礼に……♪」

「んぷっ、くぅぅ……♪ も、もう! こ、この格好、恋人同士のキャラなんでしょ!? めちゃくちゃ見られて恥ずかしかったんだからねー!?」


 しかも並んだ列は、杏さやの最大手。恋人宣言しながら歩いているのと同じ。


「えへー、だってさぁ」


 唇と唇の間を、きらきらした銀糸で結んで。

 杏子コス美緒奈、無邪気な笑顔。


「このサークルさんの杏さや本、まじ最高なんだぜ♪ 季紗姉とリズ姉にもぜぇったい読ませてあげたいわけよ♪」


 腕をぶんぶん振って、目をこんな風に><してハイテンション美緒奈。本当に大ファンらしい。

 指を組んだ乙女ポーズで、瞳を輝かせる。


「それにあたしさ、このアニメでオタになったからな。杏さやは百合の原点なんだ♪」


 ああ、2人みたいな百合したい♪とハートを飛ばす美緒奈の可愛さに、思わず由理、周りの視線も忘れて。


(ぐぅ、なんか素直に萌えてる美緒奈が、可愛く見える……)


 ……なんて、思ってしまったり。

 期待に応えてキスしてあげても、まあ、いいかなーとか考えてしまった由理の、負けである。


「ううっ……あたしって、ほんとバカ」


 結局、注目され過ぎて人が集まって通行の邪魔になってスタッフさんに注意されるまで、由理は美緒奈を抱き締めて、キスしてあげちゃうのだった。


「……ちゅぅ、んんぅ、ぬぷぬぷ♪ ふぅ、んふぅ! こ、これはコスプレ効果! キャラに引っ張られただけだからー!?」

「へへぇー、由理ってばつまんねー意地張るなっての♪ ……ちゅっ♪」

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