海百合の家へようこそ♪ 終 来年の夏も、きっと。

 海でのお仕事を終えて。

 親戚や宮野早乙女カップルと一緒に泊まっていく店主マスターから、電車代を貰った4人。

 東京への帰り道は、電車に揺られるのだった。


 夕日に染まるローカル線の車内、ちょっと固い電車のシートに、肩を寄せ合って。

 冷房の効いた電車の中、薄布越しに感じる肌の温度が心地いい。


「この車両、私達だけなのに。なんでこう皆、引っ付いてくるかな……」


 肩に寄り掛かって寝息を立てる季紗きさの、髪から薫る甘い匂いにドキドキする由理ゆーり

 その反対からはリズが、頬っぺたすりすりってぐらいに密着してくる。


「ふふっ、スキンシップは乙女のさがなのよ」


 ちなみに美緒奈みおなも、季紗と同じくキスし疲れたか、お眠り中。

 リズの柔らか太腿で膝枕だ。


 女の子同士には、引力が有る。空いてる電車の中でも仲良くカラダをくっ付け合って、巣の中の雛鳥のように仲睦まじく、夕日を浴びる少女達。


「楽しかったわね、由理?」


 青い瞳で、にこっと微笑む隣のリズへ。由理は、微かに照れながら、


「キスの思い出しか無いよ、リズさん」

「ふふ、それがいいんじゃない♪」


 寝息を立てる美緒奈の頭を撫でてあげながら、リズはふと、遠い瞳をした。

 車窓の外には、遠ざかる紅の波。


「私も、海の思い出ができて良かったわ。……イギリスに、帰る前に」

「え……?」


 ガタン、ゴトンと、揺れる電車の音に、聞き違いであって欲しいと願ってしまうような言葉。

 リズが、故郷のイギリスに……。


「あ、一週間だけよ? 今度、日本のお盆くらいになったらね」

「もぉぉぉぉぉぉー!? 驚かさないでよ!?」


 びっくりした! リズさんいなくなるのかと思った!

 さしもの由理も涙目で、リズの肩と乳をポカポカ叩きます。


 その動きで、季紗が髪を揺らす。

 聞いていたのか、寝ぼけているのか、まぶたは閉じたまま。


「むにゃむにゃ……ずっと、皆一緒がいいよぅ……♪」

「季紗ちゃん、寝言……よね?」


 リズ、由理と顔を見合わせる。


 思い出を置き去りに、海は遠くなって。

 電車の中も、黄昏の世界に侵食されていって。


 楽しい夏の日が過ぎ去るのを惜しむような口調で、それでもリズは、きっぱりと。


「けどね、里帰りしたら私、向こうで家族と、進路のこととか、話し合おうと思うの。ほら、私も高校3年生だし。卒業後のこと、考えないとね」

「進路、か……」


 2年生の由理、まだ、あまり自分の将来なんて、考えてない。

 中学卒業してすぐ家出して、東京に来て。奇妙な縁から、百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」に住み込むことになって。


 女の子同士でキスなんて、抵抗あったのに。

 いつの間にかそれが、当り前の日常になって……ずっと続くような、そんな気がしていた。


(ん……私もずっと、皆一緒がいいかな)


 百合キスだらけの日々が、いつか愛おしいモノに……。


「というわけで由理♪ リズお姉さまは一週間貴女とキスできないのでっ。今のうちにたっぷりキス貯めさせてねっ♪」

「な、なんなのキス貯めって!?」


 ……でも、うん、嫌いじゃない。百合キス、嫌いじゃない。


「もうっ、リズさんは仕方ないなー。……ちゅっ」


 季紗と美緒奈を起こさないよう、そっとリズへ唇を重ねながら。

 高鳴る胸に、由理は知る。


 私は、百合キスが好き。


 それを知ったのが、一番の、夏の海の思い出。


《海編・終了》

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