美緒奈様へご奉仕♪(中編)

 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」があるのは、埼玉との県境に近い東京郊外。

 その県境を越えてすぐ、埼玉県所沢市が、美緒奈みおなの住む街だ。


 今日、1日専属メイドな由理ゆーりを引き連れて、美緒奈がデートを楽しむのも、そのホームグラウンド。

 所沢駅前のプロぺ通り商店街……デパートの中にアニ○イトの所沢店などがある一帯だ。


 昼下がり、西口に立ち駅舎を指さして、美緒奈が胸を張る。


「ほら! ほらこの駅前! SAOのアニメで映ったやつだぜ! 2期オープニングのさ! 見てただろ!?」

「ごめん全然興味無い」


 そんな温度差の美緒奈と由理、駅ナカにあるテラスで一息。

 楽しいショッピングで、メイドさんに荷物持ちさせてお嬢様気分満喫♪なんて考えていた美緒奈だが、


「そんな金ねーしな。お金掛からないご奉仕を考えてみたぞ。感謝しろよな♪」


 ツインテールの愛らしいロリ顔に、蠱惑な笑みを浮かべて小悪魔モード。

 木製のベンチに座って、由理と向かい合って、


「メイドの由理ちゃんには、美緒奈様をたっぷり褒め称えさせて進ぜよう」


 指を振りながら、リズムを取って言う。


「はい、復唱♪ 『美緒奈お嬢様は本当にプリティで宇宙一可愛い天使であらせられますね♪ LOVE♪』」


 何言わせんのよと言いたげな顔の由理だけど、期末テストの賭けに負けたので逆らえません。


「言えば良いんでしょっ。み、美緒奈お嬢様は……本当に、プ、プリティで、可愛い天使様でいらっしゃいますねー」

「むー、LOVEが抜けてるし」


 愛がこもってないので、美緒奈様ご不満。でも寛大なので許す。


「ま、いいや。次はこれね♪ 『キュートでロリな美緒奈様は、世界で一番素敵な女の子です♪ 私、西城さいじょう由理は、そんな美緒奈様に仕えられて幸せです♪』。ほら、ちゃんと心を込めろよな♪」

「……明日、覚えてなさいよ」


 こほん、と咳払いして、ほんのり赤くなりながら由理。


「キュートでロリな美緒奈様に仕えられて、私すっごく幸せですっ。ええ、幸せですともよ!」


 由理はあんまり幸せな顔してないけど、美緒奈的には合格ライン。

 つい嬉しくてツインテールがぴょこぴょこする。


「じゃ、じゃあっ……次は」


 美緒奈は息を飲んで、


「次は、これを言ってね。ちゃんと、復唱しろよ?」


 上目遣いで見上げ、赤面した。


「わ、『私、西城由理は』……」

「? なに止まってるのよ。どうせ恥ずかしい台詞言わせるんでしょ、さっさとしなさいってば」


 覚悟はできてるから、と腕組み由理へ、美緒奈は、一番言わせたい台詞を……。


「『西城由理は、南原みなはら美緒奈を愛しています。好きです。結婚してください!』って……」


 自分で言って恥ずかしくなった美緒奈、かー、と赤くなって、由理のメイド服のすそをつかむ。

 本気にしてない様子で、はぁ?って顔してる由理に、うつむきながらおねだり。


「い、言えよ。今日はあたしに絶対服従、だろ。それとも……」


 不安に揺れる乙女心を、強気な怒り顔で誤魔化しながら、


「み、美緒奈様のコト……嫌いとか、言わねーだろうな?」

「……あのねぇ」


 由理が長いため息を吐いた。

 駅の喧騒も遠く聞こえるほど長く、美緒奈には感じられた。


(……冗談でも、嫌いなんて言われてしまったら)


 肩を震わせて緊張する美緒奈。

 その頬を両手で抑えて、由理は。


 ……ちゅぅ。

 ゆっくりと、唇を重ねた。


「……そんな無理やり言わせなくたって。嫌いなわけないでしょ、ばか」


 階下、電車の到着音さえ掻き消して。

 美緒奈の心臓が、とくんと跳ねた。

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