くーるびゅーてぃ、燃ゆ。

「ふぶきと、ロリ百合メイド同盟を結びませんか?」


 夜営業中の「リトル・ガーデン」、カウンター席で。椅子に座った東宮ひがしみや家のメイド、ふぶきの申し出に、美緒奈みおなは腰に手を当てて、


「はぁ? わけわかんねー」

「ふふん、ちゃんとお互いのメリットを考えてるですよ?」


 ふぶき、アイスティーの残りをごくりと飲んで。

 美緒奈の耳に唇を寄せ、そっと囁いた。


「……ふぶき、観察してたですけど。貴女、由理ゆーりさんに恋してますね?」

「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? そ、そそそそんなわけねーしっ!?」


 羞恥心の水蒸気爆発発生、ぼんっと爆発音が鳴る勢いで美緒奈の顔が真っ赤に!

 大声に、店内の女の子達……百合メイド含む……が振り返るのも気付かず、


「ばばばっかじゃねーの!? あんた、ばかじゃねーの!?」


 ぎゅーっと眼を閉じ赤面、でも認めない美緒奈はロリータ天使エンジェルの可愛らしさ。


「あ、あたしが恋とかするわけねーし! だいたいおかしいでしょ、お、女の子同士で恋とかっ!」

「いや、そこに疑問を抱く人は、このお店にいないと思うですよ?」


 冷静にツッコみながら、ふぶきは美緒奈へ言い聞かせる。


「ふぶきはですね、季紗きさお嬢様が大好きなのです。愛してるのです。だからお嬢様と仲良しちっくな由理さんへ、ジェラシーがメラメラなのですよ!」


 とてもストレートに言い切った。


「だから美緒奈さんを応援するのです! 貴女と由理さんがくっつけば、ライバルが一人減るわけですからっ!!」

「あんた正直すぎっ!?」


 ともあれ美緒奈、腕を組んでツンツンモードに入る。

 頬は、赤く染まったままだけど。


「と、とにかくっ。あたしは恋なんてしてねーから! ま、ましてや、その……」


 口にするのも恥ずかしい様子で、ぼそり。


「ゆ、由理に、なんて」

「むー……」


 羞じらう美緒奈はとてもプリティなのだけど、ふぶきは不満らしく、唇を尖らせる。


「だめですね! そうやって自分は偽るのはっ!!」


 すくっと椅子から腰を上げる、クールビューティふぶき!

 白い髪に白い肌、雪の妖精のような幼い容姿ながら……その眼は、燃えていた。


「いいですか、恋する乙女は無敵なのですっ。絶対最強なのです! 貴女はその、自分の可能性に気付いていない!!」


 季紗命、季紗ラブの恋するメイド、クールビューティ上代かみしろふぶき。熱く、語る。


「私はですね、愛のパワーを信じているのです! その力を活かせてない人には我慢ならないのです! 見てなさい美緒奈さん。ふぶきおねーさんが、お手本見せてやるです!」


 そして。

 そして、相変わらずお客様達へ嬉しそうに百合キス接客してる季紗へ。

 後ろから思いっきり抱き付いた!! スリスリ。


「ああん季紗お嬢様お嬢様お嬢様ぁぁぁぁ♪ 好き好き好き大好きですぅぅぅー♪」

「ど、どうしたのふぶきさんいきなり!?」


 てろーんと唾液の糸を引いたままの季紗、驚いて振り向けば。

 すぐさまふぶき、彼女を押し倒し唇を……唇を……!!


「むちゅぅぅっ♪ お嬢様ぁ、季紗お嬢様の唇、もっと味わいたいです♪」

「んむぅ!? んんっ、むぅぅぅ……ん!?」


 ふぶきの熱烈ご奉仕百合キスに、季紗もびっくり。床に押し倒された状態で髪を乱しながら……次第に瞳がとろんと、接吻に夢中になっていく。


「ふにゅ、むぅ……ん。ふ、ふぶきさん大胆♪ み、皆見てるよ……♪」


 Yes、皆見てる。由理もリズも、お客様達も。

 そしてもちろん、美緒奈も。

 愛のハリケーンを巻き起こし、全身で季紗へのLOVEを表現する、ふぶきの姿。


「ふにゅぅぅ、むちゅぅぅぅ♪ ずぷん、ずちゅぷんっ♪ お嬢様の味、美味しいれふっ♪」


 その姿に、謎の感動が……広がる……ような。

 皆を代表してリズさんが拍手を始める。


「す、すごいわ……! これが、これこそが愛……! 私、感動してきちゃった!」


 清らかで尊い愛の光景に瞳うるうる、ふぶきへ惜しみない称賛の拍手を贈るリズ。

 周りの女の子もつられて、次第に拍手の輪が広がっていく。

 これが、愛。愛ある百合キス……!


「ぷはぁっ……♪ ごちそうさまれしたぁ♪」


 ちゅるんっと糸を引きつつ、ふぶきはやっと唇を離す。

 身を起こした季紗も、ぽっと頬を染めて嬉し恥ずかし、照れ笑い。


「もうっ、ふぶきさんたら。私、食べられちゃったぁ♪」


 ふぶきは立ち上がり、得意げに胸を反らして。

 美緒奈へ視線を向けて。


「どうですっ。これが、真の百合メイドです♪」

「か、かっけー……!!」


 感動に震える美緒奈。

 まだ由理への気持ちを認めたわけではないが、ふぶきのことは心の中で師匠と……いや、お姉さまと認めた。


「これが、自分に正直になるってコト……! ふぶきお姉さま、かっこいいぜ……!」

「ふふん、ふぶきはクールビューティですから♪」


 こうして、ロリ百合メイド同盟は結成されたのである。


 ※ ※ ※


 ……ふぶきの激し過ぎるキスに感動した乙女達の、鳴り止まないスタンディングオベーション。

 そんな中、一人だけ由理は頭を抱えて悩んでいた。


「ケダモノかっ! 皆が何に感動してるのか、さっぱり分からないんですけど!?」


 ……私がおかしいのかな?

 理性に自信が無くなってくる由理だった。


〈クールビューティ ふぶき編 終〉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る