「リトル・ガーデン」朝礼の風景。

「わ、私のお嬢様が……は、はしたないです」


 真っ赤な顔で、でも季紗きさ美緒奈みおなの百合キスから、眼を離せないふぶき。

 メイド姿で瞳をとろーんとさせる愛するお嬢様に、思わずドキドキ。


「ふくぅ、ん、ぷ……ふぅ、んぶ。美緒奈ちゃん、今日は舌遣いが弱いよ? こんなキスじゃぁ、ちゅ、お客様達を悦ばせられない……んっ」

「ちゅ、むぐ、んんっ……ごめんなさい、季紗ねえ。もっと、舌を奥まで挿れてみるね……ずぷりゅぅ♪」


 他の店員達も、2人1組になってぎゅっと抱き合い、めいめいに百合キス。

 これは、百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」が毎日の開店前に必ず行う、いわば朝礼のようなものだ。

 普通のお店なら「接客8大用語ー!」とかシャウトするところを、「リトル・ガーデン」の場合は百合キス。キスの技術を磨き、さらに百合メイドとしての自分達に誇りを持って意識を高める。

 実に理に適った百合キストレーニング! 全国のお店や会社で採用するべきではないだろうか。

 で、由理ゆーりはといえば。ふぶきに季紗から引き剥がされ、今はリズとキスしていた。

 至高のぷにぷになリズの胸に抱かれ、両手で頬っぺたを挟まれて、


「ぴちゅ、ふぅ……れるぅっ。ど、どうしよう私、ドキドキしてきてぇ……!?」


 着実に道を踏み外しつつあった。


「由理ちゃんたら、最近いっしょにお風呂入ってくれないし……私、さみしいのよ? だからいっぱいキスしてね、んぅ、んふ……ちゅぅぅぅ♪」


 強く抱き合い、互いの背中に腕を回して、爪を立てて。

 上気した頬で舌を吸い合う乙女達。

 由理とリズのキスも、結構大胆だ。


「ちゅぷっ、んくぅ♪ 由理ちゃん、もっとぉ、吸わせてぇ……っ♪」

「やぁっ、リズさんっ……。私、戻れなく、なるぅっ……♪」


 なんだかいい匂いが漂ってくる気がする、甘々な百合キス光景。

 後輩の非常勤百合メイド、宮野りりなと早乙女早百合も、先輩達の熱心な百合トレーニングに発奮する。


「す、すごいね先輩達っ。早百合、私達も負けてられないよ、恋人同士として!」

「そうね、りりな。将来を誓った仲として、百合キスらぶらぶ度で遅れはとれません♪」


 そのまま抱き締め合って、ちゅぷ、くちゅぅ。すごく幸せそうにお互いのカラダを愛撫しながら、百合キスに溺れていった。


「……なんですか、これは」


 見学中のクールビューティふぶき、呆然。

 いや、ここがこういうお店というのは知ってる。

 元はといえば、「リトル・ガーデン」の噂を知り、「ここでなら外でもお嬢様とキス出来るです!?」と季紗を連れて行ったのが始まり。

 そしたら季紗、ふぶきの想定以上に百合メイド喫茶にハマり、店員にまでなった次第だ。

 ……それにしても。


「お嬢様っ……イキイキし過ぎですっ」


 ぐぎぎとハンカチを噛み、ふぶきさんジェラシー。

 季紗当人は、今度はリズの唇を奪っていた。さすが百合キス魔!


「ずぷ……ずっぷ……。小さな美緒奈ちゃんの次は、年上お姉さん♪ リズさんたら、感じちゃってるなら声出していいんですよ? かぷ♪」


 唇だけでなく、首筋や耳元まで。舌先でつついたり甘噛みしたりしながら季紗は、羞じらうリズの反応を愛でる。


「んぷぅ、んっ、んんっ……! だ、だめぇ、季紗ちゃんっ……。お仕事前に、メイド服汚しちゃぁ……♪」


 縦ロールの髪を揺らし切ない声を上げるリズへ、クールビューティは歯軋りを隠せない。


「ぐぬぬ、何をお嬢様といちゃつきやがるですかぁっ!? この金髪ドリルも、ふぶきの抹殺手帳に追加ですよ!?」


 クールビューティ上代かみしろふぶき、沸点は低い。

 と、恋敵由理の様子をうかがえば、


「えと、どうしたの美緒奈。そんなにじっと見つめられると、ちょっと恥ずかしいんだけど」


 赤毛ツインテールのロリメイド美緒奈と向き合って、ほんのり頬を染めていた。


「朝礼終わっちゃうよ。キスするなら、早くしようよ?」

「……うっさい、ばーか」


 熟した林檎のように顔を真っ赤にしてうつむき、もじもじする美緒奈。

 他の子とキスをする時と、明らかに様子が違う。

 それを傍から見ていて、ふぶき。


(あれ、もしかして、この子……?)


 あることに勘付いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る