秋葉原デート編 ④ 芽生えた心

 赤毛のツインテールをくるくるさせて、武道館のステージで歌い踊るのは。

 後世に21世紀最高、伝説のアイドルと称えられ、世界史の教科書にも載るMIONA《ミオナ》様です。


「MIONA様の可愛さに、萌え狂いなブタどもっ☆」


 キラッ☆とアイドルポーズを決めれば、その天使で小悪魔な笑顔に、会場を埋め尽くすファンが、いや、全世界が魅了され、目をハートにして雄叫びを上げる。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん! MI・O・NA! MI・O・NA……!!」


 揺れる、揺れる、ライブ会場の武道館が……!

 ……という、美緒奈みおなの妄想だった。


 現実の今は、お昼の秋葉原。

 人気のメイド喫茶(ノーマル)で、ミニスカメイド店員達の小ライブを観ている最中である。


「へぇ、歌ったり踊ったり、アイドルみたいなことまでやるのね、ここの店員さんって」


 媚び媚びで見ててむず痒くはなるが……なかなかどうしてクオリティは低くないし。

 由理ゆーりは素直に感心してしまった。


 一方、ようやく妄想の世界から帰還した美緒奈。

 客の暑苦しい声援を浴びて、煌めく汗を流しながら踊るメイド店員達へ、羨望せんぼうの眼差し。


「いいなー。あたしも、あんな風にちやほやされたい……」

「ホントにあんたは、欲望に忠実ね」


 クリームソーダをストローでちゅーと吸いながら、由理は呆れるのだった。

 ちなみに2人の机には、食べ終わった料理のお皿。

 由理はカレー、美緒奈はオムレツを頼んだ。今は食後のデザートに、チョコパフェをぱくついている。


「でもさ由理、マジな話、うちのお店でもああいうステージみたいのやってみたくね? あたしとあんたと、季紗きさ姉と、リズ姉と……。ぜったい萌えると思うんだよね」

「いやよ。恥ずかしいじゃん」


 いやよ、を強調して由理は拒否。

 人前で踊るとか、キスするより恥ずかしい。

 ……キスするより恥ずかしいというのも普通ではないが、とにかく恥ずかしい。

 短いスカートをひらっひらさせて、ハートや星の幻影が見えそうに可愛いポーズをキメて。

 そういう女の子女の子したのは、自分の柄ではないと思うのだった。

 でも。パフェを口へ運びながら、


「美緒奈は似合うだろうけどね。あんたは……可愛いしさ」


 さらっと褒めてみせた。


「ふぉぉっ!? な、なにさいきなり!?」


 正面から可愛いと言われて美緒奈、ぼっと赤面。

 とても嬉しそうにデレデレ……尻尾を振る子犬みたいだ。


「ほ、褒めてもなにもでねーぞ!? あ、あたしが可愛いとか……!」


 お店でも普段から、皆に可愛い可愛い言われる美緒奈。

 自分でも、「可愛い美緒奈様」なんて自称しているが……真面目に言われるとは思ってなくて。

 そんな動揺にも由理は気付かず、


「え、いや本気よ? あんたはお店だとちょっとぶりっ子してるけど……それって、人に見られることをいつでも意識できて、演技できるってことでしょ。そういうのって、アイドル向きの才能かなーって」


 飾らず、ひがまず、美緒奈の良い点を挙げる由理。

 特別微笑んだりもせず真顔で、ごく自然体で、


「あんたは、可愛いよ。アイドルになったら、私、恋しちゃうかもね」


 真っ直ぐに、人を褒められる。これが、西城さいじょう由理という少女。


「……もう。本気に、しちゃうじゃんか」


 真っ赤な顔でうつむき、ぼしゅーと頭から湯気を昇らせる美緒奈。

 きっと瞳を上げて、由理を睨んでみせて、小声で。


「……責任、取れよな」

「ん、何か言った?」


 チョコパフェの甘さに、んー♪と頬を緩ませる由理へ、


「うっさい、ばーか」


 つんとそっぽを向きつつ、美緒奈の頬は赤いままだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る