クラスルーム∧キングダム

栗明旦陽

プロローグ

 快晴とまではいかないが程よく晴れた空。そこに浮かぶのは少しの雲と、であった。


『我々はこの学園を支配した』


 人の心を掴むような声がスピーカーの振動板を動かし、空気を振るわせ、鼓膜を揺らし、電気信号となって神経を伝い、人々の意識に入り込む。


 スピーカーへと繋がる積層物体の前に立つのは、黒目黒髪の少年である。誰もがその姿を見つめる中、少年は言葉を発し続ける。


『これより、学園は一つの国となる。ナニモノにも侵略されることなく、皆が平和に過ごせる学園を作ることを約束しよう』


 学園が国とは一体どういうことか、普通ならばそう思うかもしれないが、少年の声を聞いている人たちはその意味を知っている。それ故、かつてはいくつにも分かれ学園にあった国、それをまとめたのが目の前の少年だと悟っていた。


 これを見て学園側は何故黙っているのか。それはこの光景が学園の目的であったからに他ならない。生徒が学園を支配するように仕向けたのも学園によるものだ。


 しかしながら、今まで完全に学園を支配できた人は現れていない。もちろん、支配寸前に至った人はいたが、時間が足りなかった。このことから学園を支配できたのは偉業といってもいいだろう。


 その偉業を成し遂げた少年は一度、全ての人を見回してから呪環じゅえんが幾層にも重なった集音環しゅうおんかんに声を吹き込み続けた。


『まずそのはじめとして、防衛は今と違い、十分力があり、意欲のある者のみが行うこととする。これによって力のないものは障害を負うことがないだろう』


 その発言を聞き、今まで徴兵によって強制されて防衛にあたっていた人たちが目を見開いた。


 確かに、学園全ての生徒を合わせれば、希望者のみで通常防衛は事足りるだろう。


 これは支配者と支配される者のどちらにもメリットのあることだ。支配される側はこれにより、強制的に防衛にかり出されることなく、危険を冒さなくても良くなる。そして暴動が起きる原因を一つ消すことが出来るのが支配側にはメリットだろう。


 同時に学園側にもメリットがあった。学園は生徒を保護者から預かっている立場であり、もしも死人でも出たら大事おおごとになるため、その可能性が下がることがメリットだと言える。


『短いが、これで我々の宣言を終了させてもらう』


 そう言って宙に浮いていた少年はゆっくりと地面に降りた。同時に、少年はホッと息を吐いた。


 これで終わりではない。むしろこれからが本番だ。今までのはただの準備。支配してからが始まりなのだ。


――この学園を守り通すことが本番なのだ。

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