第14話 Next morning

「はっ!」

 目が覚めた途端、弥生はガバッと布団を跳ね飛ばした。寝汗をびっしょりとかいている。心臓もバクバクと音を立てていて、まるで廃虚の夢を見た時の再現だった。

「……やっぱりあの夢を見ると、まるで寝た気がしないわね」

 しばし呆然とする。

「とりあえずシャワー浴びるか」

 風呂へ向かう前に、いつも通りベッド横にある時計のアラームを止める。ついでにチラリと時間を確認し、弥生はため息をついた。まったく、あの廃墟の夢を見た日の再現だった。


「ふあ~」

 学校の机で大きあくびをしているのは、今日は弥生ではなく水無月牡丹の方だった。そこへ扉を勢いよく開け、弥生が登場する。

「おー、弥生。おはよー。あふぅ」

 牡丹が机に突っ伏しながらヒラヒラと手を振る。

「おはよ、牡丹。……なんだか眠そうじゃん」

「あー、聞いてくれるー? 昨日はカレとデートだったんだけどさー。カレったら全然寝かせてくれなくてー」

「……それ。朝っぱらからしていい話?」

 弥生がげんなりした顔をする。

「ん。ちょっと待って」

 そう言ったまま、ゆうに五秒は経っただろうか。

「ん? 弥生どうした?」

 まるで弥生だけ時が止まったように動かない。

「牡丹って彼氏いたの!?」

 弥生の顔がみるみる驚愕の顔へと変わる。

「今のはかなりの時間差攻撃だったなー。いるよ。ちょっと前から。言わなかったっけ?」

「聞いてないよ!」

「まあ、いいじゃん。今報告したってことで」

 さらに反論しようとしたところで、弥生は重大なことに気づく。

「ん、ちょっと待ってちょっと待って。牡丹姉さんにも彼氏がいるってことは……。独り身なの、私だけ!?」

「まあ、そうなるね。さつきも彼氏持ちな訳だし」

 なんということだろう。弥生は苦悶の顔で身をよじった。

「……とりあえず私のノロケ話、聞いてくれる?」

 眠いせいなのか、牡丹の話すスピードはいつもの半分くらいだった。まずい。弥生は思考を瞬時に切り替えた。これを聞いていたらあっという間に自由時間が終わってしまう。

「あ、えと。私いま忙しいから。だからその話はまた今度で!」

 牡丹の思考速度が鈍っていることを逆手にとって、弥生は牡丹の間合いから急速離脱した。そのまま登校してきたばかりの芒雁を捕まえる。

「芒雁君。約束通り説明してもらうから。いいわね?」

「ああ、約束だしな」

 自分の机にカバンを置くと芒雁はくい、と首で弥生に合図するとすぐに教室を出て行った。弥生も頷くと芒雁の後をついて行った。

「……」

 その姿を牡丹はじーっと伺う。

「……あの子」

 牡丹の目が怪しく光る。肉食獣が獲物を見つけた時の目だ。その視線に気づいた者はいなかった。

「……芒雁に自分から話しかけに行くなんて。それに約束って。あの子いつの間に。なかなかやるじゃない」

 いくら眠くても、牡丹姉さんは牡丹姉さんだった。

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