第6話 異変

 弥生が赤っ恥をかいてから数日後。異変の始まりに、弥生は友人の欠席で初めて気づいた。

「あれ? そういえばさつきは?」

 弥生は鏡を前に枝毛探しに夢中になっている牡丹にたずねた。

「学校、休む、みたいよ。……あ、また一本発見」

 牡丹は鏡の向こうの自分とにらめっこしながら返答した。弥生には目もくれない。

「欠席、ねえ」

 弥生は教室を見渡す。そういえば空いた席がチラホラ見受けられる。

「季節外れの風邪でも流行ってるのかな」


 次の日のクラスの欠席者数は倍になっていた。もちろんさつきの姿はない。

「……風邪が長引いているのかしら」

一日二日の欠席では弥生も不思議には思わなかった。しかしさらに次の日。欠席者はさらに数を増やし、過半数を超えていた。

「……マジで?」

 指数関数的に増える欠席者に、さすがの弥生もおかしいと感じた。

 その日のホームルームで、学校側からの説明があった。といっても欠席者が多いので、ここにいるものは体調管理に努めるように、という当たり障りのないものだった。

後から考えれば虫の知らせが、もしくは女の勘が働いたのかもしれない。異変とまでは言えない変化に、必要以上に何か行動しなければならない切迫感があった。

 弥生はその日の放課後、ついに一大決心をし、それを牡丹に告げることにした。

「牡丹姉さん、私決めたの」

「……何を?」

「さつきの見舞いに行こうと思う」

 弥生の大真面目な顔とは対照的に牡丹の表情は冷ややかだった。

「……それがわざわざ胸張って言うことなの?」

「そ、そうだけど。悪い?」

 中学校までは家が近いこともあり、欠席した友達の見舞いにも何度か行ったことはあった。

 しかし今の高校に進学してからは、誰もが学校から離れた家から通学してきており、自然とそんな習慣もなくなっていた。

 だからこそいくら仲良しのさつきのこととはいえ、見舞いに行くというのは弥生なりの一大決心と言える。

「牡丹姉さんはどうする?」

「今日行くなら、私はパス。ちょっと用事があるもんで。あ、お見舞いの品を何か持っていくつもりなら、後で割り勘するから」

「そうなの。残念」

もし牡丹もお見舞いに行ってくれるなら、ちょっとしたお出かけになったのに。お見舞いのためなのに、ウキウキするのは不謹慎かもしれないが、牡丹と一緒に行けなくて残念なのは本音だった。

「さつきによろしく言っといて」

「オーケー」

 弥生は力強く胸を叩いてみせた。

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