レイクスが愛される理由

白井邦彦

第1話

 2016年9月22日、B.LEAGUEの開幕で日本バスケ界に新時代が訪れた。最高峰のB1リーグは東地区・中地区・西地区の3つのカンファレンスに分かれ、各6チーム計18チームが初代王者を目指してしのぎを削っている。

 我が町・滋賀県には西地区に所属している滋賀レイクスターズがある。通称はレイクス。2008年に創設された湖国初のプロスポーツチームだ。企業母体を持たない市民クラブで、協賛企業は400社以上もある。毎回ホームゲームにはブースターと呼ばれるファンが会場に詰めかけ、対戦相手が嫌がるほど大きな声でレイクスを応援する。創設から9年目、滋賀にはなくてはならないエンターテイメントの一つに成長したと言っていい。

 なぜ、レイクスが湖国で愛される存在になったのか。全国的に見ても意外とバスケの競技人口が多かったというのもある。プロ野球チームがなければ、サッカーのJクラブがないという環境も多少は影響があるかもしれない。

 だが、地域に根付いた最も大きな要因は、フロントも含めてレイクスがいい意味で人間臭かったからだと思われる。特に個性が際立っていたのが、プロバスケbjリーグに初参入した2008-09シーズンではないだろうか。

 初代ヘッドコーチには、アメリカ人のロバート・ピアスが就任した。かつて日本代表のアシスタントコーチを務めたメガネ男は、英語、スペイン語、中国語、韓国語、そして日本語を話せた。記者会見などの公の場では基本、英語で話す。だが、個別インタビューなどでは日本語でも大丈夫。愛想もよく、コロンとした体型はなんとなく癒し系で、ブースターからの人気も高かった。

 この個性的な指揮官に負けず劣らず、選手たちも濃いのが集まった。ミスターbjと呼ばれた闘将・藤原隆充をはじめ、大阪エヴェッサでbjリーグ3連覇を経験した石橋晴行と佐藤浩貴、地元・滋賀県出身の小川伸也と左官磨育、リーグの垣根を越えてJBLからやってきた町田洋介と小島佑太、アジア枠で加入したアン・ソンス、頭脳明晰なライアン・ローク、悪童ブレイデン・ビルビー、ハワイの英雄の息子ボビー・ナッシュ、そしてゴール下の番人レイ・シェファー。強豪・大阪との開幕戦には、約3300人収容の滋賀県立体育館に2528人が詰めかけた。

 あの熱気、あの緊張感、あのワクワク感は今も忘れられない。試合は3点差での惜敗。最後の最後まで勝利の女神がどちらに微笑むか分からない展開に、みな、釘付けになった。

 これがバスケか。サッカー小僧だった私は、この開幕戦でアメリカ生まれのこのアリーナスポーツにハートを鷲掴みにされたのだった。

 あれから8年以上の時が過ぎた。そしてまたあの熱気と、緊張感と、ワクワク感を同じ会場で味わうことになるとは夢にも思わなかった。そうB1リーグの開幕戦だ。レイクスの対戦相手は、日本代表選手を擁する元NBLの強豪・シーホース三河(旧アイシン)。bj王者・大阪と初めて対戦した時と似た状況、いやそれ以上に大きな壁との対戦だった。結果は5点差の惜敗。バスケフリークによる戦前の予想では、もっと大差がつくと思われていた中、レイクスは勝っていてもおかしくないゲームを見せた。バスケ新時代の到来を感じさせる一戦だった。

 その後、レイクスはなかなか勝ち星に恵まれず、全60試合中19試合を終えた時点で4勝15敗と厳しい現実に直面している。だが、それでもファンは応援に駆けつけ、声をからし続けている。その理由はbjリーグ参入初年度に味わった興奮が継続し、地元にプロチームがあるという喜びを知っているからに違いない。言いかえれば、レイクスという“熱”が、このどちらかといえば保守的な県民性を少しずつ変えているのかもしれない。

 その熱を象徴するようなシーンがある。bjリーグ2008-09シーズンの後半、2月7日の大阪戦だ。このシーズン5度目の大阪チャレンジとなった一戦は84-78でレイクスが勝った。一つの目標にしていた大阪戦の勝利。試合後の会見でロバート・ピアスHC(ヘッドコーチ)は滑らかな英語で試合を振り返り、この勝利を喜んだ。いつもより饒舌に、情熱的でさえあった。そしてピアスの言葉を訳そうとした通訳は、本分を思うように果たせず言葉を詰まらせ、目を赤く充血させながら何度も涙を拭った。彼の回復を待っていた記者たちは、改めてレイクスに関わる人たちが本気で、歴史を変える気持ちで歩んでいることを思い知らされることになった。

 創設9年目、レイクスはまだ一度もタイトルを手にしていない。それでもブースターに支えられ、ファンと喜びも落胆もともに味わいながら、前へ進んでいる。初代キャプテン藤原隆充は初年度の開幕前にこんな言葉を残している。「“滋賀にレイクスができてよかったね”と言ってもらえるようなチームを作りたい」。

 歴代HCの中でも最も熱い男、遠山向人HCが率いる今のレイクス。勝っても負けても、これからも、ホームアリーナはいつも熱気に包まれるに違いない。そして2020年の東京オリンピックの日本代表にレイクスから選手が輩出されたら、さらに湖国はヒートアップするはずだ。

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