第30話後悔

 錯乱した魔物達はオレやリーズによって掃討され数は激減したのだがそれは右側の話である、左側の方はまだ戦闘をしているようで激しい戦火を撒き散らしている。

 ガムロ達がいった方向だし何とかなるだろう……その内。


「ミラ様、何故でしょうか。胸騒ぎがするのです

 ミラ様はどうですか?」


 リーズは訝しげに眉を寄せ考え込んでいる、ミラも同様に胸騒ぎをしているようでしきりに周りの様子を窺っている。


「うむ、確かに胸騒ぎがする………。気を抜くなよリクト」


「お、おう。それっ………」


 オレが話している最中に突如出現する魔力の塊に驚きで話を止めてしてまう。

 その魔力は何処までも暗く、濃密な魔力はそれだけで武器に変わってしまうとすら思えるほどに濃い魔力が渦として吹き荒れる。

 あまりにも大きな力量差に圧倒されつつその場に固まってしまうアイリスに至っては腰を抜かしてしまっていた。


「たく………めんどくせぇ。

 何で俺様がこんな底辺な町を潰さなきゃなんねぇー

 魔王様も何を考えているんだか………ん? もしかして………いや、でもこんな姿のはずが………お前血に塗られた吸血姫ブラッディー・ヴァンパイアプリンセスか?」


 濃密な魔力を垂れ流す男が、眉を寄せつつ訝しげにミラを見つつ言葉を放っていく。

 内から滲み出る魔力が辺りに充満にしている。


「何て口の聞き方ですか! ハースグロード

 元配下として恥ずかしくはないのですか!」


 辺りにはオレ達しかいないがその声は一切隠す気持ちなど存在せず目の前にいる男に重大な失態を告げるためだけに声を張り上げていた。


「元配下………それがどうした! オレはお前に復讐するためだけに生きてきたんだ、今さら戻ってきて都合が良すぎなんだよ、糞が!」



 ミラはどれだけ言われようと反論しようともせずにただひたすら黙って聞いていた。

 己の罪をただ噛み締めるように。


「いい加減にしな………」


「やめよ! リーズ。私が悪いのだ」


 リーズの言葉を遮るミラの顔を苦悶の表情へと変わっていた、ただただ自分の汚点を認めるがごとくハースグロードの罵倒、罵声を耐えていた。


「ですがミラ様……彼は………彼はとんでもない勘違いをしています」


「いいんだ。私はどう言われようと仕方がないのだよ。」


 リーズはなっとく出来ていないがミラの言うことを聞きしぶしぶ納得したように黙る。

 オレはハースグロードへの恐怖に抗いつつも何とか平常心を保っているふりをする。


「なぁ~オレには状況が理解出来ないんだけど」


「ん? お前は知らない顔だな」


 ハースグロードはオレへと視線を移す、ただそれだけなのにオレはハースグロードに心臓を握られているかのような錯覚をしてしまう。

 止めどなく流れる冷や汗が頬を伝い首に流れていく感覚が妙にリアルに感じる。


「……………私のパートナーだよ」


 ミラは言うか言わないか最後まで渋って最後の最後で声ひねり出す。


「は? ちょっとまてよ。オレは配下どまりだったのに、そこのカスがパートナー? ハッハッハ

 これは傑作だ! ザコに成り下がったお姫様はカスをお供に着けましたってか?」


 最後の一言でオレの心臓は止まりそうになる。

 ハースグロードに恐怖するしかなかったオレがハースグロードに殺気を向けられ気絶することなく立っていられたのは奇跡と言っても過言ではないだろう。


「やめろ、リクトは関係ないだろう」


「関係? それがあるんだなぁ~

 オレ様の下僕をたくさん殺してくれたじゃないか。

 そーれーにぃ~、お前が苦しむ姿が見たくてぇ」


 ハースグロードは人を殺せそうなほど魔力を込め睨んでくる、半分人間としてと部分が今すぐ逃げろと悲鳴をあげている気がした。

 行動は隙だらけのように見えるが一瞬でも攻撃しようなんてすれば一瞬で殺されてしまいそうだ。

 まぁ~仮に攻撃が当たったとしても意味をなさない気がするが。


「リクト………こっちへこい」


 ミラは出来るだけ声を小さくしハースグロードに聞こえないようにして声だす。

 ミラには何かこの絶体絶命のピンチを打破する秘策でもあるのだろう。


「あいつが見てない隙に転移して逃げろ」


「何をこそこそ話しているーー!

 さぁ~殺し合いを始めようぜぇ~………いや、コレクションに加えよう!! そうしよう。」


「くっ!」


 ハースグロードと俺達の距離感はざっと見て十メートルは離れている。

 それにも関わらず声を潜めたミラの声を聞き取りるハースグロードは聴覚が異常な位に鋭敏ということになる。

 もしかしたら聴覚鋭敏化の能力を持っているのかも知れない。


「ミラ様! お逃げください。私が時間を稼ぎます」


「しかし………」


「いいんです。行ってください」


 リーズはオレ達の前へ立ち塞がりハースグロードからの攻撃を庇える位置に移動する。

 オレは少しだけ安心出来るが仮初めの安全だからか冷や汗は止まることはなかった。

 オレ、ミラ、アイリスはハースグロードから目を離さないようにしながら後退する。

 だがハースグロードとの距離を取る最中リーズの顔は必死の覚悟に満ちた横顔が視界に入ってしまう。


「あっ………くそ! なんでオレは何も出来ない!」



 何も出来ない自分が無性に情けなく何とも言えない感情に支配されてしまう、目頭が熱くなり一筋の涙がこぼれ落ちる。


「あれれぇ~姫さん? まさか逃げるのぉー」


 ハースグロードという男はリーズのことを眼中に止めずこちらへと走ってくる、だがそれを阻止すべくリーズは色々な魔法を使うだがそれらの魔法は全てハースグロードの不思議な魔法によって霧散して消えていった。


「うるせぇな~、お前はお呼びじゃねぇーぞ半端もん。お前は黙ってろ完全な石化ペトリフィカス・トタロス」


 ハースグロードの魔法を避ける暇なく直撃してしまったリーズは徐々に足から石化していく。

 既に石化してしまった足を忌々しげに一瞥しオレとミラをしっかりと見据え、言葉を告げる。


「すいません。ミラ様、リクト様。私はここで終わりです。リクト様、ミラ様を頼みましたよ」


「何を言っている! 石化くらいならばお主でどうにかできるだろ!」


「ミラ様も覚えているでしょう。あいつの固体能力は魔法解除マジックキャンセルです。解呪の魔法が無効化されます」


「くそ! 何か手立ては………」


「お逃げください、もう抵抗できません」


 リーズの下半身は完全に石となってしまっていた、だがリーズが抵抗をやめると一瞬にして顔まで石に変わってしまう。


「いやぁ~、ザコに手間取ってしまった、まさか抵抗するなんてな。

 まったく旋風の殺戮者の名前は伊達じゃねぇーな

 まぁーこれでオレのコレクションが増える。」


 ハースグロードはリーズの石像の頭をペチペチしながら完全に石になっているか確認していた、確認が終わり自分が優位に立っていることに満足そうに笑う。


「すまんな。リクト、リーズ………私は少し我が儘を通させてもらおう。

 来い! ハースグロード。

 お前の愚劣さを悔いる時間をやろう」


「おぉ~いいねぇ~。くぅぅーーーーう

 やっとだ。お前もオレのコレクションに加えてやる」


 ミラはどうやらハースグロードとの決着をつけるようだ、だがミラは衰えていると言っていた上にオレのこともあり不利なのは変わっていない。


「ハースグロードよ。私が本気を出すには少々狭いな。

 転移するぞ!」


「ん? あぁ~かまいませんよ。だが…少しでも変なことをしてみろ。そこのガキ共を殺すぞ」


 ハースグロードの濃厚な殺気によってオレは開きかけていた口は塞がり歯がガチガチなってしまうことを怖れた。


「分かっておる。リクトを先ず別の場所に転移させるが構わないか?」


「あ~………そいつも殺したいけど、どうせ邪魔になるだろうし………まぁ~いい見逃してやる。

 どうせ、カスだ。逃がしたところで、どうにでもなる。

 それより、時間を稼ごうなんて考えんじゃねぇーぞ。変なことをすればあの半端もんを殺す壊すからな」


 ミラはオレを転移させる準備を始め出す。

 だがオレは何も出来ないと分かっていても何かしたいという感情はあった。


「オレに出来ることは………。ここままオレだけ逃げるなんて」


「大丈夫じゃ。すぐに戻る、心配するな」


 ミラの瞳には力強いものが宿っており決して嘘を言っているようには見えなかった………がオレに出来ることは本当にないのだろうか。

 本当に己の無力さが嫌になる、オレは自分では何も出来ないと悟りミラの転移に身を委ねる。

 ミラを信じよう、なにあれだけ強いミラだ、すぐ帰ってくる。


「信じてるからな」


「すまんな。ありがとう、何かあればディム・クローウェンという男を探せ。力になってくれるだろう」


 ミラは色々な感情が混ざったような顔で笑顔になる。

 その顔はどこか切なげで今にも泣き出しそうだった。

 オレの視界は瞬時に切り替わり見たこともない大地に一人立っていた。


「くそ、なんてオレは無力なんだ!」


 ミラを信じ続け待つこと一時間、三時間…半日……二日………三日。

 オレは3日という時間のなか何度も何度も引き換えそうとするが場所が分からず行くことも出来ずにウズウズしながら時間が過ぎていった。

 だがオレは待ってる時間に幾度となく思ってしまう。

 ミラがハースグロードに負けてしまったのではと、石にされてしまったのではと。

 そして3日という途方とない時間はオレに事実を突きつけようとする。

 3日後の午後にオレは一人で泣き続けた。

 そして泣き止むと己の不甲斐なさに憤慨した、そして拳を何度も何度も地面に打ち付ける。

 進化したステイタスで殴ったせいか大きめなクレーターが出来るがオレはそんなことに一切構わず殴り続けた。

 皮膚が破れ血が出ようと肉が裂けようが殴り続けた。


「あぁあああああああああ」


 喉が潰れようが声をだし続けた。

 オレがやったことは何もない。いや何も出来なかった。

 出来たこと言えば怯えることだけだっただろう。


 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 オレはこうして仲間をなくした。

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